カップルだらけの岡山県から
這々の体でたどり着いた次の県。
そこで待っていたのも、また愛でした。
しかし、それは日本の誇る
フィギュア文化で
熟成された愛だったのです。
愛知県 愛を知ったら五穀豊穰。
ほぼ日 次は、愛知県です。
みうら 愛知県は思い出がいっぱいありますよ。
ほぼ日 思い出?
みうら ええ。ほら、旅の思い出って、
2種類、あるでしょ。
「いろいろあったなぁ」という思い出と、
「あれを見て来たな!」というのとは
違うじゃないですか。
ほぼ日 まあ、そうですね。
みうら

ね? 「いろいろあったなぁ」って部分は
もう、訊かないでください。
旅の思い出って微妙なんですよねぇ。

ほぼ日 はあ。
みうら ええっとですね、
愛知県にはふたつ、
大きなお祭りがあります。
ま、世に言う
ちんちん祭りってやつなんですけどね。
つまり、ちんちん祭りの話を
させていただいてよろしいでしょうか?
ほぼ日 お願いします。
みうら それは、田縣祭り(たがたまつり)と
姫の宮祭り(ひめのみやまつり)です。
このふたつは、同じ町にある神社
(田縣神社と大縣神社)のお祭りです。
ほぼ日 ふたつのお祭りが、毎年
ごく近い日取りで
開催されているようですね。
みうら

姫の宮祭りのほうは、女の方なんです。
ちょっと言いにくいんですが、
説明しますと、
巨大な蛤が出てきて、
そこから餅を投げてくる
んですよ。
もうわかんないでしょ?
なんだかよくわかんないでしょ?

ほぼ日 わかりません。
みうら それからですね、ライトバンの後ろに
ビニールで囲んでシャワールームのようになった
透明な箱が積んでありまして、その中に
文金高島田の、
お嫁さんのかっこうをした人が
乗ってるんですよ。
ほぼ日 ‥‥‥‥???
みうら そのお嫁さんのうしろには、
おたふくのようなお面がかけてあります。
それが参道をずーっと行くんです。
わけわかんないです。
だから、ぜひとも行ってみてください。
クラッときますから。
ほぼ日 聞いているだけでクラッと‥‥。
みうら ぼくの行った年は、その翌日が
田縣祭りでした。
こちらは男の方のほうです。
つまり、男根祭りです。
男根祭りとは、そもそも、
五穀豊穣を願うお祭りなんです。
「種付け」って言うでしょ?
ご神体のルーツはおそらく、
インドのヒンズー教のシバ神の化身である
リンガと呼ばれているペニスです。
でも、インドのは、シンボライズされた、
ツルッとしたものなんですよ。
ほぼ日 以前、「じゅんの恩返し」
見せていただいたことがあります。
みうら しかし、男根崇拝が
日本にやって来たときに、
日本の技術があまりにもすごいため
リアルに作ってしまわれたんだと思います。
ほぼ日 インドではツルッとしていたものが‥‥。
みうら それが、のちに
海洋堂とかに受け継がれていく
フィギュア文化です。
日本のお祭りを見ると、
「その血管は入れなくていいだろう」
「もうちょっと適当でいいよ」
と言いたいことがよくあります。
ほぼ日 ははははは。
みうら

それが神輿にブッ刺さったものが
道を練り歩くんです。
昔は、田んぼのあぜ道などを練り歩き、
それで五穀豊穣をあらわしたことでしょう。
いかんせん、いまは田んぼがないんですよ。
ですから現在は
コンビニやローン会社のある道を
ブッ刺さったまんま練り歩くわけです。

ほぼ日 まわりの環境だけが変わって‥‥
みうら

祭りの日には、
片側車線が全部それに使われていますので、
対向車線で走ってくる車は
「あっちから妙なものが来る!」
と思いながら
シューッと通りすぎることになります。
ひじょうに危ない状態ですよ。

ほぼ日 知らずに通ったら
事故を起こしかねないですね。
みうら また、そのお祭りでは
巫女さんの格好をした女の人が、
ご神木で作ってある赤ん坊ぐらいの大きさの
そのものを抱いてニコニコされています。
観光客が「こっち向いてぇ!」と言うと
ニコニコしながら
それを出されたりするんです。
はっきり言って麻痺しています。
ほぼ日 ‥‥たいへんな一日ですね。
みうら しかも数年前、この祭が
CNNで紹介されたらしく,
外国人を乗せた観光バスが
ガンガン来るんです。
ですから、外国人がわっさわさいます。
もう、見ているほとんどの人が外国人で、
それをみなさん
「BIG COCK FESTIVAL」などと
呼んでいるのかどうかわかりませんが、
これは日本の
「信仰しすぎて、
 ついDS(どうかしてる)?」
の状態が、
ものすごく出ている現場ではあるんです。
ほぼ日 はははは。
みうら 愛知県はね、ほかに、
うじ虫祭りというのを
見に行ったことあります。
それは由来を読んでみても
ちょっと意味が
よくわからなかった
ですが、
村人がお殿さまにお酒をふるまって
その帰りに酔って道をごろごろしてた
‥‥というところからはじまったのかな?
ほぼ日 いろいろありますね、愛知県は。
みうら いい大人が昼間っから酒を飲み
道でごろごろしている、
それをうじ虫祭りと呼んでいるという、
不思議なお祭りでした。
ある日、ぼくはハタと
なぜ愛知県にそういう祭りが多いのかを
考えました。
そこで、愛知県という名前の由来が
わかったような気がしたんです。
愛知県は、愛を知ると書きます。
ラブ・アンド・ピース、
愛を知る、つまり、メイクラブですよね?
すなわち、五穀豊穣ですよね?
ほぼ日 はあ。
みうら この広い、いや、
この狭いか広いかわからない日本に、
愛を知り、
愛を教えてあげるんだと言った県、
それが愛知県なんです。
名古屋で名物の
手羽先のお店に入ったときも、
黒いストッキングをはいた
女の人の足のような気がすると思いながら
食べた思い出があります。
愛知県はいろんなものを通して
愛を教えてくれているような気が
しますので、
愛をなくして困ってる人たちは
ぜひとも愛知県に
行かれるといいと思います。
ほぼ日 えーっと、万葉集の歌の、
歌枕にもなっている
年魚市(あゆち)潟という入り海が
愛知の名前の由来だと‥‥
みうら ああ、それは、異論ですね。
ほぼ日 ええ?
みうら いろんな説があるでしょう、そりゃ。
その説はその一端ですね。
愛知県の方は、やっぱり情が深いですよ。
「なんとか博」があるなんていったらもう、
道路だってドーンと作るでしょ?
愛がそうさせていると思うんです。
ほぼ日 はあ。
みうら あ、そうそう、金鯱(しゃちほこ)号に
乗られたこと、あります?
ぼくは2回ぐらい乗ったことがあります。
しゃちほこの格好をした船なんですが、
そこではもう遊覧船の役目を終えられて、
中国のほうに行かれた
という話を聞いています。
ほぼ日 再利用‥‥?
みうら 日本全国には、
しゃちほこ号のほかにも、イカ号など、
いろんなものに模した船が発生しています。
乗ると、決まって
自分が誰だかわからなくなるという、
大きな謎がどんよりしてきます。
ほぼ日 それは、どんよりして
麻痺してからがスタートだ、
ということを
教えてくれているのかもしれませんね。
みうら そうかもしれないですね。
しゃちほこに食われていこう、
ってことですからね。
どんなことも、食われてからですよね。
ほぼ日 そうしてようやく、
醍醐味がわかっていくんですね。
みうら 田んぼだって、
土をならしてから作物を入れますし
プールだって体を水温に
ならしてから入ります。
もう、あきらめてから結婚するとか
ですもんね?
ああ、そうですよ、
しゃちほこ号のシステムは、
全部、人間に組み込まれてるんです。
今回のお話をノーカットでごらんになりたい方は
下の動画でおたのしみください。

なんでもいきなり、真正面からでは、
失敗することが多いのかもしれません。
しかし、しゃちほこ号に乗るだけで、
「麻痺させてどんよりする」ことがスタートだと、
たちどころにわかるのです。
愛、そして、いろんな知恵を与えてくれる
愛知県をあとにして、
来週も、次の県へと向かいます。
2008-04-06-SUN
みうらじゅんさん&安斎肇さんが
結成した「勝手に観光協会」作の
すばらしい愛知県ご当地ソング
「センチメンタル名古屋」を
どうぞお聞きください。