魅惑の海女さんがいる
大好きな三重県をあとにして、
語りの旅はいさぎよく
次の県にまいります。
そこには、
人間の業の深さを垣間見る、
大きな県が待ち構えていました。
兵庫県 天下統一は避けて通ります。
みうら (県くじを引く)よっ!
ほぼ日 よっ! あ、兵庫県です!
神戸もある、姫路もありますよ。
みうら えーっと、
あそこは何ちゅう寺だっけな?
ほぼ日 また、寺ですか。
みうら 俺は寺の話が多いですね。
ほぼ日 多いですね。
みうら 兵庫県には、浄土寺というお寺があって、
そこにある大きな阿弥陀三尊像が、
たしか快慶の作だったと思います。
夏場の夕暮れどき、
西陽が差し込む時間帯にそのお寺に行くと、
像の背後からご来光のような光が入ってきて、
ビカビカ輝くんですよ。
ほぼ日 すごいですね。
みうら 仏像のうしろについているものといえば
後光をあらわす光背(こうはい)ですが、
そこの仏像は、リアル光背なんですよ。
冬、陽が早く落ちるときに行って
すぐ暗くなってよく見えなかったんで、
悔しくて、夏にもう一度行きました。
そこはほんとに、大好きなお寺です。
ほぼ日 それは、行きたくなりますね。
みうら でね、その仏像の前あたりに
家電店に行っても
いまどき売ってないような
ラジカセが置いてあります。
ほぼ日 ラジカセが。
みうら いまはお寺も、
おみやげにクリアファイルが参入してきたり、
ギャル心をそそるようなものも
ずいぶん入ってきています。
でも、ただひとつだけ、
お寺がこの平成に
遅れていることがあるとすれば、
それは、録音再生ツールが
いまだにカセットテープだ、ということです。
ほぼ日 はあ。
みうら そのお堂に置いてあるラジカセは、
アメリカ人の方々が肩に抱いていらっしゃるような
真っ黒のでかいやつです。
そして、スイッチには、
ひとつひとつ付箋が貼りつけてあります。
ほぼ日 付箋が?
みうら ええ。そこには、順番が書いてあるんです。
「まず、巻き戻しを押してください」
「再生」
「ストップ」
そういうようなことが、やたらと
千社札のように貼ってあります。
付箋の貼りすぎで、それ自体がもう、
何かわからない物体になってるんですよ。
「これは仏具か何かかな‥‥?」
というような状態なんです。
ほぼ日 すごいですね。
みうら ええ。その付箋をかいくぐって
勇気を出して、
スタートボタンを押してみてくださいよ。
やっぱり長年交換していないんでしょう、
テープが少し伸びているんですよ。
この浄土寺と同様、
滋賀県の湖北湖南地帯あたりのお寺にも
ひんぱんにこういった現象が起こっています。
ほぼ日 お寺におけるカセットテープの伸びが
多発しているわけですね。
みうら カセットを再生すると、
「このーおてぇらぁーのーっ」という
声が聞こえてきます。
ほぼ日 それは、お寺の説明なんですね(笑)。
みうら そうです。
「このーおてぇらぁのぉ、
 平安時代はぁぁぁあ」
と、どうしようもない伸びようです。
お寺の関係者のみなさんにとっては、
毎日、ちょっとずつのひずみなんでしょう。
たいして気がついてないんですよ。
ほぼ日 はははは。
みうら 僕は浄土寺に行く間隔が
5〜6年空いてましたから、
その変化についてはわかるんです。
以前はもうちょっとすっきりした
男の人の声だったのにもかかわらず、
落語の笑福亭系の
ものすごいダミ声になっていて、
このまま放っておくと、最終的には
オカマみたいな声になると思うんです。
ほぼ日 そうですね。
みうら しかしまあ、言ってみれば
これもお寺をまわる楽しみの
ひとつでもあります。
滋賀県の湖北湖南のお寺では、近年
テープからMDに変わりましたけどね。
ほぼ日 ああ、よかったで‥‥
みうら いまどきですよ?
ほぼ日 あ。飛び越えられてない、と。
みうら MDは、たしかに伸びないでしょう。
けれども「また苦労するぞ」
ってことですよ。
いまだったらCDRにも焼けるじゃないですか。
ほぼ日 できればiPodまで
行きたいところですね。
ちょっと先は長そうです。
みうら そういうことが、お寺界では
ひんぱんに起こっています。
しかし、そこのちょっとしたズレが
現世ではないことの証なのかもしれませんね。
ほぼ日 そうですね。
みうら ところで、兵庫県には神戸も入りますが、
やっぱりお肉というと
神戸牛じゃないでしょうか。
ほぼ日 はい。
みうら いま、すごいものまねブームでしょ?
ほぼ日 え?
みうら 神戸牛を鉄板の上に乗せたときの
シューーーーーって音、わかります?
すき焼きの音とか。
ほぼ日 わ、わかると思いますが。
みうら けっこう上手くなってるんですけども、
発表する場がないんですよ。
ほぼ日 はい。
みうら はい、それはちょっと
悲しいかな、という、ね?
ほぼ日 神戸牛のものまねですか?
‥‥で、では、ぜひここで
お願いします。
(下の動画のコーナーでおたのしみください)
ええっと、
みうらさんは姫路城には行かれましたか?
みうら 行きました。
ほぼ日 読者の、ハンドルネーム「タナ中尉」さんから
県自慢メールをいただいています。
「姫路城にはエレベーターなどなく、
 いつ殿が出てきても違和感のない、
 あの本物感は城の中でも群を抜いている」
のだそうです。
みうら なるほど。ぼくもこれまで、
いくつかのお城に行ってきました。
エレベーターがあったり、
天守閣にのぼったら
メダル刻印機が置いてあったり、
「メダルは殿はやってないだろう」
という気分になって、どうかな? と
思ったとこもあります。
姫路城は比較的、
素のままの「寺」で──あ、違った。
ほぼ日 「城」ですよ。
みうら うん。お城だよね。
ぼくね、いかんせん
お城には、ピンと来ないんです。
お城って、ほら、本尊がいないでしょ?
ほぼ日 あ、なるほど(笑)。
みうら でしょ?
だから、のぼっても、
天下取るだけでしょ?
ほぼ日 はははは。
みうら 前からそうなんですけど、ぼくは
天下を取るという発想が嫌いなんですよ。
上にのぼって俯瞰で見ると、人はどうしても
統一したくなるんです。
「あそことあそこはもうちょっと
 こうしたほうがいい」
とか、アイデアが出ちゃうんですよ。
ですから、できるかぎり、
のぼらないほうがいいんです。
こんなぼくの中にも
野望があって、天下を統一したいとかという
よからぬ思いが芽生えるんです。
お城だけでなく、
ビルやタワーなんかも危険です。
ほぼ日 じゃあ、みうらさんは高いところを
避けて通ってらっしゃるんですね。
みうら 男ってね、哀しい、つまんないプライドが
あるんです。
各地でいろんな誘惑がありますから、
気をつけないといけません。
でも、お寺は安心です。
五重塔なんて、そもそものぼれませんし、
大仏の上にのぼったりすることもないでしょ?
ほぼ日 なるほど。仏様がいちばんえらいから‥‥
そういえば、城を建てないで
天下統一しようとした人って
あんまりいませんね。
みうら 戦のとき、掘って、地下から攻めた人も
あんまりいないでしょ?
ほぼ日 鍾乳洞から攻め入った方とか、いませんね。
みうら 城でなくとも、
4階以上に住むと、
人はおっきい気持ちになっちゃうのかも
しれません。
ちょっとした気の迷い、気の隙で
天下統一してしまう場合がありますから‥‥
ほぼ日 用心していかないといけませんね。
今回のお話をノーカットでごらんになりたい方は
下の動画でおたのしみください。

人間は、放っておくと
テープは伸ばすし天下は取るし
ロクなことがありません。
用心に用心を重ねるくらいで
ちょうどです。
うかつに天下を統一しないよう
気をつけながら、
来週も次の県に移ります。
2007-12-09-SUN
みうらじゅんさん&安斎肇さんが
結成した「勝手に観光協会」作の
すばらしい兵庫県ご当地ソング
「ジュー 10」を
どうぞお聞きください。