CHABUDAI

父親になるということ。
重松清さんと、
ややこしくたのしい話をした。

第2回 強さの教育は、むずかしい







 こんにちは。
 短期連載のふたりの会話は、
 来週までの4回ぶん、続きますよ。
 今日あたりから、深みにはまっていきますので、
 どうぞ、じっくり読んでみてくださいね。

 「今日はじまったこの連載。
  丁度、昨日sesameを購入して
  読んだところだったんです。
  誌面では削られていた所も
  ごっそり掲載されているようで、
  インターネットのありがたさをしみじみ感じます。
  「いわゆる男っぽい人に対しての嫌悪感」とか、
  色々考えることのキーワードが多く含まれていて、
  父親ではないのですが、
  とても楽しみな連載です(gal)」

 さっそく、新連載へのメールもいただきました。
 どうもありがとうございまーす。
 今日は、父親的な決断をするということ、について、
 会話がすすんでゆきます‥‥。
 それでは、おたのしみくださいませ!





  重松さんのプロフィールはこちら。
   重松さんの本などはこちら。
 





重松 息子を育てるのって、
なんだか、むずかしそうですね‥‥。

糸井さんは、娘さんについては
いいコラムがたくさんあるじゃないですか。
「ほぼ日」のダーリンコラムにもいくつかあって、
涙についてのものなんて、よかったなぁ。


『娘がまだ小学生の低学年だったころ、
 大人もこどもも
 たくさん集まるイベントに連れていった。
 山梨方面だったかなぁ、小学校に宿泊して、
 みんなでキャンプのようなことをしたのだった。
 騒ぎに騒いで、遊びに遊んで、
 疲れ果てて東京に戻った。
 祭りの後のけだるさを、
 いっしょに行ったバカ共も、
 静かに噛みしめていた。
 ふと、娘を見ると、
 ぼろぼろぼろぼろ涙を流している。
 おあつらえむきに、夕日が沈む頃だった。

 「どうしたの。なにが悲しいの」と訊いてみた。
 「わかんないの」と言いながら、泣いていた。
 「悲しいんじゃないの?」と言っても、
 「わかんないの」と、泣きやまない。
 「じゃ、ほっとけばいい?」
 と、父であるぼくは訊いた。
 「うん」というから、そのままにした。
 いまだに、何が泣いた理由なのかは
 わかってないのだが、あれはほんとうに
 「わかんない」ものだったのだと思う』
 (2002-10-14 「ほぼ日」ダーリンコラムより)
糸井 あの時、クルマの中で
娘と一緒にいたのは、みうらじゅんだったと思う。
ずーっとみんなで、わけのわからない
エロ話みたいなものをしていて、
で、最後に南青山のあたりに着いたら、
娘が、いきなり泣き出したんです。
重松 それ、いいですよね‥‥。
あれがもし、息子さんだったら
糸井さんの反応は、変わっていましたか?
糸井 あ、それは‥‥こわいです。
息子を持つこと自体が、今でもこわい。
息子じゃなくてよかったなぁ、って思うもの。

つまり、息子がいたとしたら避けられないであろう
「強さ」の教育が、ぼくにはできないんですよ。

‥‥たとえば自分が受けてきた教育を
ふりかえってみますと、通り一遍に、
「男の子は強くなければならない」
だとかいうことを、
親からは、言われてきましたよね。

はじめてスキー場に連れてかれて、
無理矢理リフトに乗せられて、
上から放っておかれただとか‥‥。
でもそういう強さの教育って、安い教育ですよ。

うちの父親は、ぼくのように、
子どもと遊ぶ時間をたくさん取っていなかったから、
コストのかからない教育をしていたんでしょうね。
重松 とりあえず負荷をかけちゃう教育。
糸井 そういうことです。

どこのうちの親父でもやっていたであろう、
ケンカで負けてきたりした時の、
「もう一回行ってこい!」みたいな教育も、
あれもものすごくコストの低いものですよね。


言う父親の側は、その一言でいいでしょうけど、
やる男の子のほうは‥‥。
ですから、あれは、日本中の男の子を、
けっこう辛い目に遭わせているわけです。

たとえばぼくなら、そこにアイデアを入れて、
息子のうしろから見られないようについていって、
どういう勝ちかたをしたか、
どういう負けかたをしたか、
あるいは、どうやってその場を卑怯にしのいだか。
それを、じっと見ているでしょうね‥‥。

その上で、その子の中の
弱さと強さの分量配分を把握したうえで、
次のステップに入ると思うんですよ。

でも、自分の受けた教育から言うと、
ぼくは、さっき言ったみたいな、コストの安い、
促成栽培的な強さしか持っていなかったんです。
ま、非常に昔のコトバで言いますと、
「プチブル急進主義」の強さしかないというか。
重松 おぉ‥‥(笑)
「プチブル急進」ってコトバ、ありましたねぇ。
糸井 このコトバって、
すごくよくできていると思うんです。
つまり、「やる時ぁやるんだ!」と
言ったまま死んでいく人だとか、
あるいは短期決戦で無理をしてしまって、
そのあとは何もできなくなっちゃう人

表現するのに、とてもよくできている。

そういう、意地っ張りなだけの弱いやつに、
ぼくも、放っておけば
なっちゃっていたと思うんです。
ぼく自身としてでさえ、
そういう弱さを克服するのに
かなり時間がかかって、
ここまで来ているわけだから、
子どもに、そういうものじゃない
強さを教えるなんて、もう大仕事すぎますよ。
重松 でも、糸井さんの世代は、若いころ、
何かに対して「ノー」と主張することを、
はっきりと持っていらしたんですよね。
糸井 いや、それはウソですね。
何がいいことで、何が悪いことかについては、
いろいろなかたちで教わりましたけれど、
そんなにクッキリと
何かを持っているわけじゃないんですよ。

ぼくは学生運動をしていた時も、
各論としてはすごく優秀なんですよ。
とにかく一生懸命やりますから。
だけども、総論‥‥全体としては
「なんだか信用ならないやつ」
と思われていました。

組織を作れないタイプだったと言うか、
自分の中のヒッピー的な考えが邪魔したのか、
とにかく、そこは、ぼくにとっては、
後々までずっと残ってしまった問題ですね。
「規律」とかは、まずイヤですから‥‥。
重松 規律、ダメなんですか?
糸井 ダメなんですよ。
重松 糸井さんは、後輩の男たちに対しては、
かなり体育会系に見えるんですけど‥‥。
そこでは、割とお父さん役をしていますよね?
糸井 いや、それはたぶん、
みうらじゅんが、ウソをついているんですよ。
「糸井さんは体育会系だ」って
あちこちで、言いまくってますからね。

だけど、ぼくとみうらの関係なら、ぼくが
仮の規律みたいなことを強く主張しないままだと、
お互いがグズグズになっちゃう遊び方しか
してこなかったですから‥‥。
そんなオレとみうらを放っておいて、
何かしようって言ったら、何にもならない。

下手すると、
メシ食いに行く場所さえ決まらないまま、
部屋でゴロゴロしている、
みたいなことになるから、
みうらが「天丼かぁ‥‥でも‥‥」と言っていても、
「天丼なんだ!」と主張しないと、
歩きだせないんですよ。何も食えない。
重松 (笑)意志を出さなきゃいけないんだ。
糸井 そうなんですよ。
ぼくにとって、それは快感でもないんです。
重松 しょうがないし、先に進めないから言うんだ?
糸井 ええ。
重松 言わないと、お腹も減るし‥‥。
糸井 はい。
その連続なんですよ。
ふざけたことをするのにも
「それでいいんだ」と言えば、
みうらたちは「そうかぁー」と思うじゃないですか。
誰かが言えばいいんですよ。
重松 糸井さんが、お父さん役をやるしかなかったんだ。
糸井 そうなんですよ。
だからぼくの体育会系っていうのは、
それは非常に‥‥借りものですよ。
「女形(おやま)」みたいなもんです。
「思いやりとして命令をする」だとか。
重松 (笑)なるほど‥‥。
でも、「女形だからこそ」の、
様式美みたいなものもあるんじゃないですか?
糸井 (笑)まぁ、そうかもしれないですけど‥‥。
ただ、最近はそれだけで済ませていませんね。

40代半ばを過ぎてからは、いろいろな面で、
息をとめて覚悟を決めてやるようなことをしないと、
どうも、満足ができなくなってきたんです。
ですから最近は、仕事のチームの中で、
父親的な役割も引き受けようとしているんですよ。


(明日に続きます。
 次回は早くもクライマックスです。お楽しみに!)

2002-12-06-THU

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