ぼくらはどうして「周囲の目」を気にするのか? 20人の高校生と 「しがらみ」を「科学」してみた。
 



糸井 こういう展開、想像してましたか?(笑)
山岸 ちょっと、違ってましたね‥‥。
糸井 いつもは大学生ですものね、お相手は。
山岸 ふだんと、ぜんぜん違います。
糸井 じつはぼく、けっこう緊張してたんですよ。

これだけ若い人たちと会って話す機会って
なかなか、ないことなので。
山岸 わたしも。
糸井 先生、われわれは
「話を聞いてくれる人たちの奴隷」
じゃないですか。
山岸 ‥‥というと?
糸井 つまり「つまんない」と言われちゃったら
もうおしまい、という意味で。
山岸 ‥‥ずいぶんと脅しますね。
糸井 すみません(笑)。
山岸 わたし、だんだん心配になってきました。
糸井 大学生が相手なら
「ああ、あそこでしゃべってるのは教授なんだ」
と見てくれますけど、
今日、ここに来てくれている高校生諸君は
ぼくたちを
「AKB48」と比較することもあり得るわけです。

「こいつ、センター取る資格ないな」とか。
一同 (笑)
糸井 でも、みんなが明るい雰囲気でよかったです。
ぼくたち、助かりました。
山岸 わたしは、まだちょっと心配していますが‥‥。
糸井 じゃあ、勇気を出して(笑)、
まずはぼくから
今日の趣旨を、簡単にお話ししますね。

先日、発売された山岸先生の新しい本、
『「しがらみ」を科学する』を、
みなさん
お読みになったり、なってなかったり
してると思いますが‥‥。
一同 (笑)
糸井 山岸先生というかたは
なぜ、社会のなかに「人」がいると
過ちが起きてしまうのか‥‥というような研究を
ずっと続けてきたんです。
山岸 「仲のいいお友だち」や「恋人」という
関係性もある一方、
おたがいの意見を認められなかったり、
いっさい信頼できないと言って
ケンカになってしまう間柄も、ありますよね。

ひどくすると「敵対しあう」関係になって、
殺し合いになってしまったり‥‥。

これ、国と国なら「戦争」という状態です。
糸井 はい。どうして「人間」というものは
そんなふうに、ややこしいのか‥‥と。
山岸 ええ。
糸井 ちなみに、今日みなさんに集まっていただいた
この場所は、
「ほぼ日刊イトイ新聞」をつくっている
事務所なんですけど、
ぼくが、この仕事をはじめるにあたって
勇気を与えてくれたかたがふたり、いるんです。

一人が、もう亡くなられた梅棹忠夫先生。

情報の何たるか‥‥について解説されていた
梅棹さんの『情報の文明学』が
「ほぼ日の父」だとすれば‥‥。
山岸 そのお話、うかがったことあります。
糸井 山岸先生の『信頼の構造』という本が
「ほぼ日の母」だと思っていて。

そこには
「人間というものは
 どうしてこう、間違っちゃうんだろう?」
というようなことが、
とてもわかりやすく書いてあったんです。
山岸 学生にゲームや実験をやってもらって
いろんな「検証」やってみた本ですね。
糸井 なかでも「信頼」をテーマにしたゲームが
おもしろかったんです。

はしょって言っちゃいますと、
ようするに
「いちばん正直な人」が
「いちばん勝てた」という実験結果が出た。
山岸 ええ。
糸井 つまり「正直は最大の戦略である」んです。
山岸 はい。
糸井 みんな、そんなことを教わったこと、ある?

むしろ
「正直者はバカを見る」
だとか、
「あの人は正直すぎて
 生き馬の目を抜く東京では成功しないよ」
だとか‥‥。
一同 ざわざわ‥‥。
山岸 一般的には「正直な人は、ソンをする」と
言われることが多くないですか?
糸井 ところが、その「信頼」の実験では、
正直な人ほどゲームに勝ち進み、
いちばんになる可能性が高いと出たんです。

ぼくはそれを読んで
「うわあ、これは楽しいなぁ!」と。
山岸 楽しい‥‥ですか。
糸井 だからぼくも「正直者で行こう」と、
「正直は最大の戦略だ」と、
そう思って、仕事をしてきたんです。
山岸 もちろん、単純に
「それですべてがうまくいく」という
わけでは、ありませんけれどね。
糸井 たしかに、そうなんです。

でも、この会社を14年やってきて、
やっぱりぼくは
「正直は最大の戦略である」で正解だったと
思っているんです。

実際、そういう出来事が、あったんです。
山岸 ほう?
糸井 ぼくらは「ほぼ日手帳」という手帳を
つくっているんですけど、
その1年目に起きた出来事でした。

無事に生産が済んで
販売も、まぁそれなりに順調だったとき、
当時の製造メーカーの担当者と
ごはんを食べていたら、
「あの手帳、毎日、頻繁に使っていたら
 バラける可能性があるんですけどね」と、
そんなスゴい話を、サラっと言ったんです。
一同 (笑)。
糸井 念のため言いますと、いまの「ほぼ日手帳」を
つくってくれている会社とは
別の会社ですが、
ぼくらとしたら「‥‥え? え!?」って感じ。

だって手帳は、すでに
お客さまの手に渡っているわけですから。
山岸 そんなことがあったんですか。
糸井 はじめから壊れる可能性のある手帳を
売ることなどできません。

ですから、
毎日、頻繁に開いたり閉じたりしても
壊れない構造の手帳を
もういちど、つくり直したんです。
山岸 ほう‥‥。
糸井 当時は、ネットでの販売のみでしたから、
お客さまの連絡先は
すべて、把握できていたのが幸いでした。

すぐに「申し訳ありませんでした」と謝って
新しい手帳を、後から1冊届けたんです。
山岸 全員に? 素晴らしい。
糸井 あくまで
「バラける可能性がある」だけだったのですが
そんな話を聞きながら、
そのままにしておくのはイヤだったんです。
山岸 反応はどうでしたか?
糸井 結果的に言ったら
「バラけるかもしれない」と言われた
初期の手帳は、
問題なく使えたケースが大半だったようです。

だから、ぼくたちがあとから届けた1冊が
余ってしまったので、
みなさん、
まわりの人にプレゼントしてくれたり
したみたいなんです。
山岸 なるほど‥‥。
糸井 そのことが、まだ1年目だったぼくらの手帳を
「売れた人数の倍の人」に、
知っていただけるきっかけになったんです。
山岸 それは「正直にやった」ことが、
結果的に、功を奏した典型的なケースですね。
糸井 もちろん、狙ってやったわけではありません。
すぐ謝って、できるだけのことをしたんです。

でも、その出来事は
「ほぼ日手帳」が、
ぼくらの会社の大きな「柱」へと成長する、
ひとつのきっかけとなったんです。
山岸 反対に「黙っていればわかりゃしないよ」と
しらばっくれていたら、
発覚したとき、
どれほど、大きなダメージがあったか。
糸井 黙っておこうとは、考えもしませんでしたが、
もしそうしていたらと思うと‥‥。
山岸 たいへんなことでしょう。
糸井 今日は、こういう問題について
長く研究されてきた山岸先生のお話を
高校生諸君といっしょに、うかがいたいな、と。

というのも、こんどの山岸先生の新刊は
「社会へ出る」ことについて
漠然とした「怖さ」を抱いている若い人向けに
書かれたものだそうなので。
山岸 ええ。
糸井 それでは先生、よろしくお願いいたします。
一同 よろしくお願いしまーす。
  <つづきます>

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2012-03-14-WED