読みかえす
「今日のダーリン」
2003/07/19
今週は、特に、
「前々から思っていたんだけど・・・」
というアイデアが多めの週でした。
月曜日に掲載したらたちまち大反響だった
「羽生善治さんの言葉」をはじめとして、
お待ちかねの再録、3日ぶんおとどけです!


7月13日

【相性ってなんだろう?】

いま、ぼくの乗っているクルマは、
もう1年くらいのつきあいになるのですが、
どうもうまくいってないのです。
あれこれ言えば言えるのですが、
そういうことじゃないんだと思うのです。
要するに、
ぼくとクルマの「相性」がよくない。
で、先日、その「相性」を
どこで感じているのか、
ちょっとわかった気がしたのです。
このごろのクルマには
多くなっているリモコンのキイ、
これが、ドアを開けるとき閉めるとき、
何度かスイッチを
押し直さないとうまくいかない。
こちらのリクエストは、
開けると閉めるだけなのに、
すぐにそれに応えてもらえないわけです。
たぶん、乗るたび降りるたびに起こる、
このことの連続が、クルマとぼくとの間の
「相性」がよくないという印象を
決定づけているのだと思います。
これ、人間どうしの関係に置き換えると、
返事がない、とか、すぐに反応しないとか、
そういうことなのでしょう。
「あのね」「・・・」「あのね」「・・・」
「あのねー」「・・ん?」みたいな感じ。
ここのところがピッタリこないと、
その他の状況で
いくらいい関係ができていても、
「相性」がよくない、
ということになっちゃうんでしょうねぇ。
よく「あいさつが大事」と
言われていることの意味は、
こんなところにあるのだろうな、
と思いました。


7月14日

【忘れること、という秘訣】

日曜日の早朝に、NHKの衛星放送で、
羽生善治さんの
長いインタビューをやっていたので、
ついつい、見入ってしまった。
羽生さんが、
いろいろな質問に答えるのだけれど、
こういうことをアナウンサー氏が訊いた。
「これは、私なども、
 ぜひお聞きしたいのですが、
 『自己のコントロール』ということ、
 これは、どうなさっている・・・?」
それに対して、
早指しのように羽生さんが答えた。
「忘れることですね」。
ほんとに、びっくりしたし、
なるほどと感心してしまった。
「自己のコントロール」とは
「忘れること」!
こんなにアイディアに満ちていて、
単純な言い方が、
いままでにあったろうか?!
自己をコントロールするということは、
どうしたいかについては、
自分も知っているということだ。
しかし、その自分は、
したいことを
できなかった過去を持っている。
それを、「忘れること」ができたら、
したいことができる、あるいは、
できるようになるための
今日が送れるはずだ。
もちろん、羽生さんは将棋について
語ったのだろうが、
これは、あらゆることに言えるのだ。
遅刻をしないようにしよう、と、
自己をコントロールする。
そのためには、
いままでの遅刻をしてしまったことを、
「忘れること」なのだ。
絶のつく不調に陥ったチームが、
立ち直るのにも、
たぶん昨日までの不振を
「忘れること」が大事なのだ。
むろん、勝っている人も、勝っていることを
「忘れること」が、
自己をコントロールすることだしね。
すごい極意だと、思わない?


7月17日

【上條恒彦さんの歌声】

テレビのスピーカーから、
男の太い声が聞えてくると、
なんだか珍しいものが
流れているという気がする。
ひょっとして、
もう見ている人も多いと思うんだけれど、
ハウスカレーのいま流れているCMは、
宮崎駿さんの描きおろしアニメーションで、
流れている歌の作詞も、宮崎さん、
歌っているのは上條恒彦さんだ。
高い声の女性の歌声ばかりが
世の中にあふれていることに、
もうみんなが慣れきってしまっていて、
こういう男の太い声を、
耳にする機会は少ない。
売れなそうなもの、なのかもしれない。
こういう音楽状況のなかで、
おとなの男の聴く歌、
おとなの男の歌う歌がないと、
ずっと思っていた宮崎さんが
言い出しっぺになって、
去年からずっとつくっていた
アルバムが完成した。
アルバムのタイトルは
『お母さんの写真』という。
16曲の選曲は、何度も話しあって、
宮崎さんを筆頭とする
「親父たち」で決めた。
こんな時代に、逆行するかのような
作品づくりだけど、ぼくも含めて
ほんとにたくさんの協力者が集った。
「ほぼ日」でおなじみの人としては、
矢野顕子、宮沢和史なんて名前も見える。
ぼく自身も、作詞家としては、
『ひとつやくそく』と、
『豚の丸焼き背中にかついで』の
ふたつの詩で、
このアルバムに参加している。
いまが、こういう詩に曲がついて
CDになるような時代じゃないことは、
よく知っているつもりだけれど、
もしかしたら受け容れられる
可能性に賭けてみたかった。
それは、宮崎さんをはじめとして、
このアルバムに参加した全員の
冒険的な気持ちだった。
上條さんの歌ってくれた
それぞれの歌には、
こういう時代にやっと口を開いた、
という風情の
無口でたくましい父親の声がある。
このアルバムが人々に、
どんなふうに迎えられるか、
ぼくらには見当がつかないまま、
7月の30日には発売だ。

2003-07-19-SAT


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