佐々木俊尚 × 糸井重里  メディアと私。  ──おもに、震災のあと。


第2回 インターネットの両極端な世界。

糸井 震災のあと、
佐々木さんはまさに当事者として、
たくさんの情報を取捨選択して、
ツイートしていたという印象があるんですが。
佐々木 それは、徐々にですね。
震災の直後はもう、大混乱でしたから。
原発が爆発し、情報が錯綜し、
なにもわからないままに1ヵ月くらい過ぎて。
糸井 あ、佐々木さんでも、
そこは1ヵ月、過ぎましたか。
佐々木 過ぎました。
ものすごい混乱のなかで、
なにをしていいのかよくわからないっていう。
で、とりあえず、
自分にできることをしようと思って、
目の前にあるものに取り組んでいくんですが、
ぼくの専門はやっぱりメディアなので、
現地に取材に行くっていうよりも、
混乱している情報をどうにかしようと。
糸井 なるほど。
佐々木 日々、行き交う膨大な情報のなかで
みんなが混乱している姿を
まざまざと見ていましたから。
だったら、キュレーション
(無数の情報の海の中から、
 自分の価値観や世界観に基づいて情報を拾い上げ、
 そこに新たな意味を与え、
 そして多くの人と共有すること。
 『キュレーションの時代』より)的なことというか、
自分から見てこれはまともだなと思った
情報だけを選んで流してみようかなと。
そういう作業をはじめたのが、
震災の数日後くらいでした。
糸井 飛び交う膨大な情報のキュレーションが
佐々木さんの「できること」だった。
佐々木 ええ、最初はもう、それしかなかった。
とにかくものすごい量の情報が行き交ってましたから。
ぼくはそもそもウェブでの情報収集を
自分のジャーナリスト活動の
中心に据えている部分があって、
2年くらい前からかな、
かなりの量の情報を読んでるんですよ。
グーグルリーダーっていう新着記事の未読件数を
教えてくれるツールがあるんですけど、
それで登録しているブログとかニュースサイトの数が
だいたい700強ぐらい。
糸井 うわぁ、想像しただけで、やだなぁ(笑)。
佐々木 1日にね、見出しの数だけでいうと
1000から1500くらい。
糸井 びゅんびゅん飛んでる情報を
空中で捕まえる感じですね。
佐々木 そうなんです。
もう、とにかく空いてる時間はすべて使って。
じつはさきほども、糸井さんが来るまでの数分間、
グーグルリーダーをチェックしたりしていて(笑)。
糸井 その日常にもう慣れちゃってるわけですね。
佐々木 そうですね、それはもう別に苦じゃない。
ところが、震災直後の1週間くらいは、
1日の見出しの数が3000とか4000とか‥‥。
糸井 はーー。
佐々木 膨大な量の記事が流れていく。
だから、ほとんど1日中、
ネットをチェックしてました。
それだけ見ると単なる変な人なんですけども(笑)。
行き交う膨大な情報のなかで、
いったいなにが信用できるのかって、
やっぱり、わからないと思うんですね。
たとえばマスコミの言ってることは信用できるのか。
たいていは信用できますけれど、
信用できないものもたくさんあります。
でも、その当時は、
「マスコミの言っていることは信用できないけど、
 ネットでは真実が流れてる」
みたいに思ってる人がたくさんいて。
糸井 そういう幻想はありますよね。
佐々木 すごく強い幻想なんですよね。
でも、フタ開けてみると、ぜんぜんそうじゃない。
で、一方で、ものすごいデマも流れている。
けっきょく、あの時期は、
自分の信じたいものしか信じない人がたくさんいて、
そういう状況のなかでは、
とにかく信頼できる情報源をフォローすることが、
たぶん、とても大切なことだろうと。
で、自分が信頼できる情報源に
なれるかどうかわからないけれど、
自分のいままでのメディアでの経験を活かして、
このぐらいは信頼できるだろうなっていう
最低限の情報はたぶん探せるはずだと思って、
毎日、時間が空けばチェックして
1日50本くらい紹介してましたね。
糸井 ぼくもやっぱり震災直後には混乱があって、
なかば中毒的にぜんぶの情報を追ってしまう。
佐々木 はい。
糸井 5月くらいに我に返って、
ツイッターのフォローを整理して
がくっと減らしたりしたんですけれども、
やっぱり、両方があるんですよね、ネット上には。
すごく便利なことと、混乱を呼ぶものと。
佐々木 そうですね。
糸井 理解もあるし、無理解もある。
たくさんの人とつながるよろこびもある一方で、
いらだつようなこともあるし。
佐々木 けっきょく、ネットの世界って
ものすごく両極端なんですよね。
2007年くらいに「Web2.0」という
ことばがブームになって、
世の中がネットによってフラットになり、
誰もが個人で情報を発信できるバラ色の時代が来た、
みたいなことが大真面目に語られていた。
ただ、あの頃からすでにノイズはあって、
たとえばブログで、ちょっとナーバスなことを書くと
炎上するというようなケースがたくさんあった。
糸井 はい。
佐々木 だから、同じインターネットを語ってるはずなのに、
一方では、これからはバラ色だって言ってる人がいて、
一方では、もう世の中、ダメになる、終わりだ、
って言ってる人も、たくさんいる。
で、その中間がぜんぜんないわけですよ。
糸井 中間がないというか、
両極端な部分ばかりを見ている人が、
そこだけを語ってるんですよね。
佐々木 そうなんですよね。
で、ぼく自身も、「Web2.0」のころは、
「世の中変わります」みたいなことを
さんざん言っていたりしたんですけど。
糸井 読みましたよ、ぼくも(笑)。
佐々木 一方で、炎上するケースを身近に見たりして、
折り合いがついてなかったんですよね、実際は。
だから、いずれ、もう少し時代が進めば、
そういうのは解決するんじゃないか?
っていうような、ほんとに、
何の根拠もない希望的観測を持っていたり。
糸井 はいはいはい。
だから、その、ぼくは、
そのときの佐々木さんの
ファンではなかったもん(笑)。
佐々木 ああー(笑)。
糸井 佐々木さんの書いていることを読んで、
なるほどなぁ、と思いつつも、
その「折り合いがついてない感じ」は
やっぱり伝わってくるわけで。
佐々木 そうですよね。


(つづきます)

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2012-01-24-TUE