- ──
-
そもそも酒井さんは、
なぜお米からエタノールをつくろうと
思ったんでしたっけ?
- 酒井
-
本当は
生ゴミからエタノールをつくりたくて、
銀行から農大に入り直したんです。
- ──
-
宝くじをやっている
有名な銀行にお勤めだったそうですが、
そうですか、
すでに、その思いを抱いて東京農大に。
- 酒井
- はい。
- ──
-
日々お札を数えながら、
生ゴミとエタノールに思いを馳せて。
- 酒井
- そうです。
- 鮫島
- どんな銀行員だ(笑)。
- 酒井
-
まあ、以前から環境問題に興味があって、
「生ゴミっていっぱい出るなあ、毎日」
と思っていたんですけど、
あるときに、
生ゴミをエネルギーに転換している
東京農大の先生を、テレビで見たんです。
- ──
- それで、その先生のところへ?
- 酒井
-
そう、実際に会いに行ってお話を聞いて、
「ビジネスにもなるよ」と言われて。

- ──
- へえ。
- 酒井
-
ごらんのように、
すぐにはビジネスにできるような話でも、
なかったんですが‥‥。
- ──
- ご苦労、さまざまありましたよね。
- 酒井
-
まあ、苦労はともかくなんですけど、
同じくらいの時期に、
岩手県奥州市の胆沢というところに
休耕田があって、
それを、活用したいって思っている
農家さんがいたんです。
で、穫れたお米はどうするかと考えて、
「アメリカではトウモロコシから、
ブラジルではサトウキビから、
エタノールをつくってる。
だったら俺ら日本人は米からだ!」
「俺たちの米で車、走らせるべぇ!」
と盛り上がって、
盛り上がりすぎてしまって、
アメリカまで見学に行った人たちがいて。
- 鮫島
- おもしろいね(笑)。
- 酒井
-
その農家さんたちが
「オレたち、
お米でエタノールやりたいんだ」って
市役所に言ったら、
その市役所の担当者が農大にやってきて、
「誰か興味ある人いませんかー」と。
- ──
-
じゃ、東北に縁があったというわけでも、
なかったんですか?
- 酒井
-
ないです。縁もゆかりもなかったんです。
所属していた農大の研究室に、
奥州市から、声が掛かっただけなんです。
あれは、2009年のことでした。

- ──
-
僕、東京から「通っている」というのが、
すごいと思うんです。
お子さんもいらっしゃるそうですけれど、
奥州へは、どれくらいの頻度で?
- 酒井
-
多いときで1週間に1回、1泊ですね。
それ以上、家をあけちゃうと、
子どもがちょっと、かわいそうなので。
- ──
-
ちなみに、休耕田のお米でつくってると、
先ほどおっしゃってましたが、
なんて名前のお米で、できてるんですか。
- 酒井
- つぶゆたか。
- ──
-
その品種名は、聞いたことなかったです。
人間が食べるためのお米ですか?
- 酒井
-
いえ、餌用ですね。
その名のとおり、
粒が豊かで、たくさん取れるんですよ。
- ──
- たわわに実る、と。

- 酒井
-
そのお米を発酵させて、蒸留すると、
エタノールができるんです。
そうやってつくったエタノールを
化粧品原料としてメーカーに売ったり、
自社で製品化したりしてるんです。
- 鮫島
-
里奈さんのお仕事のこと、
こうやって
ちゃんと聞いたの、はじめてかも(笑)。
- 酒井
-
いつもは、居酒屋で
呑んだくれてるだけだもんね(笑)。
- ──
- なるほど(笑)。
- 酒井
-
でね、発酵すると粕がいっぱい出るんです。
お肌にいいので、その粕をもとに、
石鹸とかボディミルクも、つくっています。
- ──
- いっぱい、とおっしゃいますと‥‥。
- 酒井
-
1回の仕込みで、
だいたい100キロくらいの粕ができます。
- 鮫島
- 100キロ!
- 酒井
-
石鹸やボディミルクにする以外の粕は、
ニワトリに食べてもらうんだけど、
今、何羽くらいかな‥‥
300羽くらいで、2週間くらいかけて。
- ──
- 100キロの粕を。
- 酒井
-
そう、ドロッとした液状なんですけど、
これが、めちゃくちゃ人気なの。
- ──
- 行列のできるエサ。
- 鮫島
- ニワトリが行列(笑)。

- 酒井
-
そうそう、もう、大人気なんです(笑)。
そのエサが来るってわかると、
ニワトリたち、
鶏舎でスタンバイをし出すくらいだし、
乾いたエサは苦手なんですけど、
粕をかけると、
もう、よろこんで食べてくれるんです。
- ──
- そんなにおいしいんだ‥‥米の粕。
- 酒井
-
で、そのニワトリたちの産む卵が、
こんどは、
地元の「人間」に大人気なんです。
農家のおばさんがお菓子をつくったり、
地元のカフェでプリンになったりして。
- ──
- うまく循環してるんですね。
- 酒井
-
さらに、粕をエサとして食べていると、
フンがくさくならないんです。
そのために、フンが、
米や人参、ブルーベリーなどの栽培に、
肥料として使えるんです。
- ──
-
さらには、
農家の人たちに人気の肥料になる、と。
- 酒井
-
で、そこで栽培されたものの、
かたちが悪くて出荷できないハネ分を、
うちでエタノールに漬けて、
エキスを製造したりとか、しています。
- ──
- みごとに無駄のない仕組みですね。
- 酒井
- 捨てるものは、ほとんどないです。
- ──
-
酒井さんが岩手で事業をはじめて、
今のサイクルをつくりあげるまでには、
どれくらい‥‥。
- 酒井
- はい。7年、です。

<つづきます>
2017-05-18-THU

