第1回 ほぼ日作品大賞の 審査を終えて。  7人の審査員による終了直後の座談会

糸井 さあ、つぎは、
金賞を受賞した「月を食べる道具」について、
語っていただきましょうか。
ええと、じゃ、ぼくから。
一同 (笑)
糸井 これ、鍛造から焼き物から、
ぜんぶ、ひとりでやっているんですよね。
木工もあって、陶器もあって、
鉄も、ステンレスもあって‥‥。
ぜんぶをひとりでつくってしまっている。
「今」という時代は、
なんでもできるという人間の本来のよさを、
どんどん分業化していってる傾向にあるんですが、
この作品の根底にあるコンセプトには、
そことは明らかに異なる
「これから」が感じられます。
おそらく、苦手なジャンルもあるんだろうけど、
そこも含めてぜんぶ自分でやってみようという、
そういう姿勢に驚かされた作品です。
細井 そうですね。
ここまでひとりで作ってしまうというのは、
ちょっと普通では考えられない。
ホットケーキをつくることを目的に
道具は存在しているはずなのに、
この作者は、ホットケーキをつくるのと
同じくらい心を込めて、
道具をつくっているんですよね。
糸井 卓さんは、どうでしたか?
佐藤 「ホットケーキ」って言われたとき、
人が思い浮かべるのは、
マンガみたいに記号化された
「ホットケーキ」で、
ふつうはそこに道具のことなんて
含まれないと思うんです。
でも、よく考えてみれば、
こういう道具も含めて、
はじめてホットケーキなんですよね。
糸井 なるほど。
佐藤 そのあたりのコンセプトが
とってもいいなあと思うのと、
実際の作品については、
さまざまな技法を使って、丁寧に、
高いクオリティでつくられているのが
なかなか素晴らしいと思いました。
たとえば、このバターケースにしても
ふたがぴったり閉まりますからね。
ケースの形はちょっといびつなんだけど、
木のフタをきちんとそこに
合わせてつくってる。
糸井 大橋さんはいかがでしょう?
大橋 そうですね。
やっぱり、この作品をぜんぶ、
ひとりでおつくりになったということで、
その点を考えると、やっぱり
賞に値する作品だと思います。
まぁ、ホットケーキを焼く道具なんですけど、
実際にホットケーキを焼くには、
素人にはちょっと難しいかもしれませんが。
一同 (笑)
糸井 ひびのさんはどうですか?
ひびの 私も、この作品は、書類を見たときから、
とても気に入っていたんです。
だけど、気に入っている反面、
ここに凝縮されすぎている物語が
苦手でもあったんですよ。
もちろん、この詩的なところが
いちばんの魅力だし、
賞に値する作品だとは思うんだけど、
私には、少し物語が強すぎたんです。
糸井 重い?
ひびの そうですね、ちょっと重かったです。
でも、糸井さんもおっしゃってましたが、
木工もあって、鉄もあって、
焼き物もあって、ステンレスもあって、
ほんと、すごいと思います。
ホットケーキをテーマにここまで広げられる
その思いの強さに脱帽ですね。
商品としても、意外に求められるんじゃないかな。
たしかに、実用性は低いかもしれませんが、
人をその気にさせる作品、というか。
糸井 桐島さんはいかがですか?
桐島 たしかに、この道具を使って
パンケーキを焼くかと聞かれたら、
実際には使わないと思うんですけど、
これら全体で描き出されるポエティックな世界観とか、
それらをひとつひとつを実に丁寧に、
ひとりの作家がつくり出しているということに、
圧倒されてしまった作品です。
とても美しさのある作品だと思いました。
佐藤 絵になる作品ですよね、これは。
糸井 まさに、「絵」なのかもしれませんね。
この作品、僕は、ジブリを思い出したんです。
宮崎駿さんが頭に描いたものを
アニメーションのなかで形にする、みたいな。
きっと、この作品の根底にあるのは、
それと同じような、
まずホットケーキの絵を描いて、
それを食べている自分の姿を描いて、
それを食べる道具を描いてっていう、
強い思いなんじゃないかな。
細井 たしかに、道具なんだけど、
機能を超えてその姿にとことん
こだわってるのが伝わってきますし。
やっぱり、この情熱はすごい。
糸井 大熊さんはどうですか?
大熊 僕は、いままで、この作品の物語性を
あんまり追っていなかったので、
今、皆さんのお話をうかがって、
この作品のものづくりの姿勢のあり方は、
とても「作品大賞」的だなぁと、
あらためて感じました。
「ホットケーキをつくりたい!」という
自分の強い気持ちを発端にして、
効率を度外視して
やりたいことをやっていくっていう、
その、ものづくりの姿勢のあり方は、
「作品大賞」という企画を
象徴するように思いました。
糸井 これ、ぜんぶできるまでに、
どのくらい時間がかかってるんでしょうね。
ひとりでぜんぶやってるとしたら、
1年くらいかかってるかも?
佐藤 かかるかもしれませんねぇ(笑)。
大橋 このボウルは叩いてつくってるわけでしょう?
細井 ぜんぶが専用の袋に入ってるし。
ひびの 実用性は高くなさそうって言いましたけど、
この泡立て器は、
ちょっとつかってみたいですね(笑)。
糸井 いや、いろんなご意見、ありがとうございます。
それでは、銀賞を受賞した
「marron」という作品について
話していきましょうか。
じゃあ、まず大熊さん、お願いします。
大熊 はい。
僕にとって、この作品は
ビビッときた作品というわけではなくて、
なんとなく、かわいくて、
手近で、身近な感じがいいなぁっていう、
そういう作品なんです。
これを手に持っていじっていると、
妙に落ち着くんですよ。
「marron」という名前の
かわいい音の響きも手伝って、
なんだかホッとさせられるものがある。
そんなところが
実際の機能を超えたところで、
魅力的に感じられる作品でしたね。
糸井 この作品、高さとか、重さとか、
ひとつひとつの形が微妙に違うんですよね。
正直、一等賞になる作品ではないと
感じていたんですけど、
「残るといいいな」って
妙に応援したくなるような
不思議な雰囲気を持っている作品なんですよね。
細井さんはどうでしたか?
細井 あの、生産の視点からなんですけど、
この位の大きさのものって、
端材をうまく利用してつくれると思うんです。
つまり、普段だったら、
廃材にしてしまうものが、このサイズにして、
機能を持たせてあげれば活きる。
そのあたりは、ものづくりのコンセプトとして、
いいなあと思いました。
あと、ひとつひとつの「marron」に、
それぞれのケースがあったりするのも、
愛情が持てていいですよね。
たとえば家族みんなで
自分専用のものを持ったりしても
自分の「marron」を区別できるでしょうし。
そんなふうに、実際に使っているシーンや
つくっているシーンがイメージできた作品でした。
糸井 なるほど、なるほど。
卓さんはどんなふうに見ましたか?
佐藤 自分でも、木材をつかった立体作品を
つくっているからわかるんですが、
シンプルでつくりやすい形だと思います。
もし商品化ということになっても、
おそらく、ある程度の数を
常識的な価格でつくれるでしょうから、
お客さんに届けるという現実的な面からも
よくできている作品だと思いました。
形も、とてもかわいいですよね。
ケースは、バリエーションとして、
トゲトゲのイガグリケースも
あっていいんじゃないかな(笑)?
ひびの (笑)
糸井 いや、卓さん、これは
フェルトのケースに入った状態が
「実」ですから。
佐藤 え?
糸井 つまり、イガグリから出たところが
ケースつきの状態で、
それをむいたところが、
この、無垢の木の状態。
佐藤 ‥‥ああ、ああ、そうか(笑)!
糸井 フェルトのケースに入ってるところが
甘栗として売られている状態。
ケースから出すと、
甘栗むいちゃいましたの状態。
佐藤 ああ、なるほど。
しかし、なんという
かわいい会話でしょうか(笑)。
一同 (笑)
糸井 では、女性陣の意見も
聞いてみたいと思います。
大橋さんはどうお感じになられましたか?
大橋 たしかに、名前もかわいいし、
「小人のお帽子みたい」とか
そういう風には思ったんですけど、
じつは、あまり引っかからなかった作品でした。
でも、売るということを考えれば、
売りやすいものなんでしょうね。
糸井 ああ、わしら男は
考えてしまいますね、
売れるか、売れないかは。
大熊 そうですね、
これは売れるんじゃないかな。
細井 売れる力はあると思います。
大橋 たぶん、未完成なところもあるけれど、
ここに何かをプラスしていけば、
とてもよい商品になる。
そんな可能性を感じさせる
作品なんでしょうね。
私は、売れる売れないという目では、
あんまり見なかったんですけど、
実際に売ることのできるものとして
作品を評価するっていう視点を、
今回、勉強させてもらった気がします。
糸井 そのあたりはぼくにも勉強になりました。
なにしろはじめての賞ですから、
どのくらいアートに寄せるか、
どのくらい売れる商品に寄せるか、
という微妙な線引きは、
実際のところ、やってみないと、
僕にもよくわからなかったんです。
逆にいうと、おそらく、
こうしてやってみる以外に
そのあたりを決める方法って
ないんじゃないでしょうか。
その意味では、この「作品大賞」は、
固まりかけた自分の考えを
ぐらぐら揺さぶるという意味で、
とてもおもしろかったし、勉強になりましたね。
ひびのさんはいかがですか?
ひびの 実は、私も、あまり引っかからなかったんです。
たしかにかわいいけど、
なんか踏むのもかわいそうですし、
小さくてなくしちゃいそうですし(笑)。
現実的なことを考えていくと、
ちょっと、どうかなぁって、
考えてしまったんです。
でも、きっと男の人にとっては、
ロマンなんでしょうね。
マロンじゃなくて、ロマン(笑)。
一同 (笑)。
佐藤 そういうことか(笑)。
糸井 ロマンというか、甘えかもね(笑)。
桐島 あの、中国に行くと、
中国人の男の人って、
手の中で胡桃をふたつばかり持って、
それを手の中で転がして、
遊びながら育てているんです。
そういうことするのって、
男の人なんですよね(笑)。
糸井 うわ(笑)。
ということは、かれんさんも‥‥?
桐島 正直、あんまり興味が持てませんでした。
糸井 見事に男女で評価がまっぷたつ(笑)。
一同 (笑)
桐島 だって、女性は手の中で
なにかを転がして遊んでいる
ヒマなんてないですから。
やることがたくさんあるんですよ(笑)。
糸井 なるほどーー。
つまり、男の、甘えん坊な部分というか、
幼児性が出た形なんですかね。
大橋 そうね。
そこらへんは、女性には
ないものなのかもしれない。
え? 胡桃を手のなかで
転がしながら育てていくんですか?
桐島 中国では、そうらしいですよ。
糸井 いや、中国にかぎらず、
わかりますよ、その気持ちは。
胡桃に入っているシワや筋が、
手の中で遊ぶことによって、
どんどんピカピカになっていくんですよ。
ジーパンを育てるのと似ているのかなぁ。
細井 とろとろになって、最後には、
筋がなくなっちゃうんですよね。
佐藤 男子は身の回りに、
いっぱい属性をつくりたいんですね。
ひびの ‥‥そういうヒマはないですねぇ(笑)。
一同 (爆笑)
桐島 やっぱり、この作品は、
男的な作品なのかもしれない。
ビール飲みながら
野球を見ている男とは違って、
女は、いろいろ日常が忙しいですからね!
大橋 たしかに、これを愛でるのは
男の人っぽいかもしれない(笑)。
糸井 いやぁ‥‥。
佐藤 ははははは。
大熊 さっき、売れるって言ったとき、
僕は、女性に受けて、
売れると思っていたんですけど、
どうも違うみたいですね(笑)。
いや、勉強になるなぁ(笑)。
細川 あの、途中から胡桃の話になっちゃいましたが、
この「marron」は、握って育てるものじゃなく、
ふんだりするマッサージ器具ですからね。
糸井 ああ、そうです、そうです。
でも、たのしい脱線でしたね。
それぞれの人の目線、ものの見方があって。
それも、この「marron」が、
最後まで残ってくれたおかげですよ。
一同 (笑)
(つづきます)


2010-08-27-FRI