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虚実1:99
総武線猿紀行

総武線猿紀行48回
我が愛しのドラァグクイーン


先日6月23日、ゲンスブールナイトというイベントを、
遊び人の由緒深い、六本木はキャンティの側、
飯倉片町のプラスチックというところでやったのですが、
この日はドラァグクイーン(過剰な装飾のオカマ)の
ヴィヴィアン&ヴィーナスが来てくれました。
ルポはまた書こうと思ってますが、
実は夜明けにそのうちのヴィヴィアンの、
ラメが2瓶以上はまぶされたような唇に、
僕のオカマ童貞唇を何度も何度も奪われ、
顔中にラメを付けたまま帰還することになった。
ラメは何度顔洗ってもしぶとく残り続け、
最後の一粒は、僕の眉間に2週間後も残っていたのでした。
僕の周辺でも華やかな肢体をさらす
ドラァグクイーンではあるが、
世間的にブームだったんですね。

ダ・ヴィンチの8月号はこんな特集です。
「オカマに学ぼう!人気者への道、徹底研究 藤井隆」
これはウレそうだなああ。
(でも表紙をオカマにはできないのね…)
ゲイ・バーで人付き合いを楽しむ、
ドラァグ・クイーンを体験する、
ゲイ・カルチャーでセンスを磨く・・
なんていうか、見出しはイイこと箇条書き的でいいのです。
文芸誌がオカマを扱うのは、時代ですね。



けれど、、ああ、残念なことがひとつう。
オカマの文章が載っていないことがとっても残念!!!
オカマの事に注目するなら、
オカマの文章載せなきゃダメぢゃないのよ!
オカマの文体こそ、この文芸誌「ダ・ヴィンチ」に
取り上げてほしいスパークポイントなのだからです。
みなさんも、おすぎとピーコの面白さはご存じでしょうけど、
あの面白さって、語り口から出ていると思いません??
そう、おしゃべりは語り口・・。
内容も、も〜ちろん大事なんだけど、
その人の立場、態度、そしてシニカルな批評性までもが、
言葉の滑り出しの中に潜んでいるんです。
一方で「男の文体」って、日本男性文化の衰退の中で、
やばいとこにいると思うんです。
中年ターゲットの男性雑誌の内容にしても、
あまりにも自分の立場を棚にあげた内容、文体、精神背景で、
同性の僕が見てもけっこうやばいんじゃないかなあ、
と思わせられる瞬間さえ、ある今日この頃なんです。
そんな問題意識を持ちながら、オカマの文体を見ると、
けっこうショッックですよ。

そのショックを受けた本は、先日6月23日の
ゲンスブールナイトで、有名ドラァグクイーンの
ヴィヴィアン&ヴィーナスに押し売りされ、
仕方なく買ったドラァグクイーン本
「シークレット・ドラァグ・クイーン」。



その中にとんでもなく面白い文章がいくつか(全部ではない)
入っていたのです。面白かったのはすべて
オカマ言葉による文体のものだったのです。
試しに冒頭に載っていて、
ダ・ヴィンチでもインタビューを受けている「ホッシー」の
「ホッシーの‘あーん、イヤーン’回想記」の文章を
引用してみましょう。
ホッシーが自転車泥棒をついついしてしまい、
お巡りさんに捕まるはなし・・。

「あっ!! そうそう、ゲンチャリで想い出したわ。
 いまでもまあ時々あるけれど自宅からドラァグの支度して
 いくときってあるのね。(サエキ註、もちろんあの
 ドハド派手なかっこう)そういう時って、
 まあたいていタクシー使うんだけど、繁華街でさえなのに、
 自宅の近所じゃなかなか止まりゃしないのよ。
 でね、あの日も、まあ、仕方ないやとわかっていても、
 んまあ! 私を誰だとお思い! あたしを乗車拒否なんて、
 10年早くてよっ! など、心の中で悪態をつきながら、
 ムカっ腹立てながら、ヒールをカツカツいわせてたらば、
 あらーっ!素敵。鍵のかかってない自転車を発見したの。」

このアッパーな文章のボルテージ!
そして自分に対するつっこみの鋭さ!
いやあ、流れるような文章なんだけど、
「っ」を多用する文章ってワープロで打ち込みにくいよう。
で、続き。

「当時、家から駅まで結構な距離で、
 これは、神様の思し召し。乗らなきゃバチが
 当たるわよねぇと都合のいい事を思いつつ、
 自転車乗ってルンルンよぉ、んもお、私ってば超ラッキー!
 と・こ・ろ・が。前方より、私と同じく自転車に乗って
 こちらに向かってくる殿方ふたりは、ああ。
 見紛う事はなき、その、お姿は、おまわりさん。
 イヤーン。神様どころか悪魔の囁きだったのね。
 後悔しても後の祭り。どうしましょ。どうしましょ。
 気は動転して心臓バクバク。隠れる所はないかしらと、
 さりげに周りは見渡せど、悲しいかな、一本道。」

この演劇さながらに息づかいで伝わる文章のリアルなこと。
耳のソバで吐息ふきかけながらしゃべられてるみたい。続く。

「ほら、だんだん近づいてくる。平常心、平常心、
 普通にしてれば大丈夫。挙動不審にならないように、
 怪しまれないようにしてればいいのよ。
 目を逸らせ、目を逸らせ。うひゃあ、目が合っちゃったわ。
 いやん、まだ、みてるわ、みてるわ。でも慌てちゃダメよ。
 ポーカーフェイス。ほうら、擦れ違ったわ。
 一安心、一安心。と思いきや、
 はい、充分、見るからに怪しいです。
 怪しい奴は職務質問、地域住民を守るは警察官の任務。
 職務に忠実な、おふたりでした。
 『君、君、どこへ行くのかな』
 『ええっ?!ワタシ?!』
 あくまでとぼけてみる私。
 『そう、君』
 あたりまえだろがとでもいいたげな、
 そっけない言いっぷり。
 『えっ、えっとですねェ。あっ、そうそう、
 友だちんとこですゥ。』
 思いきり愛想良く、笑顔満面のつもりが、
 かなりひきつっているのがわかるわ、自分でも。
 それに、あーもう! なんでよ、こんな格好して、
 友だちの家に行く奴なんている訳?
 ますます怪しいじゃない。絶対嘘ってバレバレよ。
 名前は? なんて言われたらどうしよう。
 誰にしよ、誰にしよ、と思っていると。
 『あっそう。まあ、いいや、
  ところでその自転車、君のもん?』」

てな感じで続いていくのでした。
どうですか? 文体の新鮮さにしても、
テクニックにしてもスゴいなあ、と思わせるものが
あるのですけど。ホッシーの他にもレイチェル・ダムールの
「おぼんそっわっぁあああある!!
 あなたのレイチェル・ダムールよ!」とか
バビ江の「バビ江的日常」とかかなり面白いのが
たくさんのっているのですけど、
面白いのはやっぱりオカマ言葉のものなのでした。
オカマ文体には有無を言わせぬパワーがあるのです。。。


この美女がホッシー。右は、素顔のホッシーです。

2000-07-10-MON

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