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虚実1:99
総武線猿紀行

第34回

『周防正行監督と彼の処女作「変態家族 兄貴の嫁さん」を
大劇場で字幕付きで観る(後編)』

いやあ、ご無沙汰してしまいました。暑いですね。
本題に入る前に、今度大きなニューウェイブのイベントに
かかわることになりました。
詳しくは続報しますが、とりあえずリンク、
何は無くともリンク。
http://www.loft-prj.co.jp/driveto2000/index.html

ついでに僕のパール兄弟関連の掲示板も出来ました。
http://cgi3.bekkoame.ne.jp/cgi-bin/user/b22462/easybbs.cgi

さて、北海道は札幌映画祭(リターンズ)で会った、
周防監督は、監督監督していなかったです。
監督ってホントに偉いんですよ。
現場では最低でも30人の人を一人の口で
使わなければならないけど、そんなにいっぺんに、
人を使うのって今や建築関係ぐらいしか
ないんじゃないかな。
外科の大手術だってせいぜい20人ぐらいだと思うし。
テレビドラマの現場も人は多いけど、
だれかが一人で使ってるって感じじゃないみたいだし。
テレビで大俳優さんが、若い監督に
すごく気を遣って発言しているのを見ると、
すごいなあ、と思ってしまいます。

で、周防さんらと札幌の単館ロードショウ系の草分け
「キノ」を見学し、飲み物ホルダーがついている座席に
感激しながらバカ話をする。
札幌の映画館はこの後行く松竹もホルダーがついており、
すごくグッド!
周防監督も、ホウ、これは居心地が良い! とご満悦。
飲み物持ちこみ禁止の映画館っていやですね。
(異様にこそこそしながら)
黙って持ちこんじゃったりするけど。
1800円払って飲み物持ちこめないんじゃなア。
 
その後主催の竹岡さんという人たちと会食したのだが、
この竹岡さんが見たところ70歳ぐらいのかた。
そうか、こういう人が映画祭を支えているのかア。
もちろん映画はくわしそうなのだが、
話の接点が一向に見つからない。
というか、「話の間」そのものが見つからない。
シーンとした店内。午後のたるんだ店内。
黒澤、小津映画の話でもすればいいのだろうか?
でもなあ。
周防、篠原両監督もなにもしゃべらないで、
もくもくと食っている。
こういうとき、僕は場をどうにかしなければ
いられなくなる性格なのだ。
なにか話題はないかな? そうだ。僕は札幌で
映画に出たのではないか? その話をしよう。

その映画は「アンモナイトのささやきを聞いた」
という映画で、札幌在住だった山田勇男監督の作品
(制作ユーロスペース)。
全部札幌のボランティアスタッフによって作られ、
橋本一子さんなどが出演した。
セリフは全部で5つぐらい! という実験映画的作品だが、
イメージフォーラムを中心に活躍していた山田監督の映像は
美しく、なんと92年のカンヌ映画祭の批評家週間に
ノミネートされたのである。
でカンヌに行きました。自腹で。
ああいう映画祭は、招待作品以外は
たいていみんな自腹で行くのだ。

映画祭というが、要は映画の見本市で、
映画会社の人が平穏そうな顔の下に、血相違う形相を隠し、
必死になって、売れそうで、できれば安い映画を
探しまくる、そういう場所だ。
みんな朝10時から映画を見始め、
夜11時ぐらいにパブに帰ってくるのだが、その時に
「あの映画どうだった?」
「まあまあだね(ホントはスゲエよかったよ。でも
もう契約しちゃったかんね)」
みたいな腹の探り合いの飲み会をやるのだ。
スゴそうでしょ!
てな話をしたら竹岡さんも「ホウ!」と喜んでくれ、
一気に場も盛り上がった。
で、「Shall we ダンス?」がアメリカで
盛り上がりまくり、その奮戦記も出版された周防監督も、
招待された米サンダンス映画祭の話をしてくれた。

まず、アメリカには大きな映画祭がない。
いわれてみればその通り。
映画の配給システムが確立されきっているアメリカでは
映画市は必要ないのかしら?
で、ヨーロッパはハリウッドを基本的に軽蔑している。
だからカンヌなどではハリウッド作品は、
ほとんど無視されてきたのだが、
最近はフランス映画も弱いし、
さすがに無視できなくなってきているので、
例えば僕が行ったときもアメリカの「ツインピークス」が
招待されたりしていたわけなのだ。

そんな中、若手を中心とした米サンダンス映画祭は
ハタから見ていると、ハリウッドに革命を起こす
新鮮な映画祭に思えるのだが、周防監督が見てきたところ、
どうも事情はそうではないらしい。
サンダンスはこれからハリウッドで伸びそうな、
つまりアメリカで、世界で金をかせぎそうな、
有望な監督を探す「青田刈り」あるいは「売りこみ市場」
だという意図が見えすぎて、その露骨さが鼻につく
映画祭だという。ハリウッドの金の匂いが
ハナにつくのだそうだ。
で、地元でも映画祭が嫌われてるのだという。

それで、ここからがアメリカっぽいのだが、
そんなサンダンス映画祭を良く思っていない映画関係者が、
同時期にソバで対抗する若手中心の映画祭を
開催しているというのだ。
東京映画祭に対抗して同時に新宿かなんかで
「東京馬鹿おげれつ映画祭」をやる
といったようなノリだろう。

そんな話で盛り上がりながら、映画祭の会場に向かう。
会場の松竹遊楽館は、映画館としてはかなり大きく、
500〜600人収容できる会場で、スクリーンも爆・巨大。
(しかし、ここにも飲み物ホルダーがついているのだ)。

ここで挨拶の後、いよいよ周防監督の処女監督作品、
「変態家族、兄貴の嫁さん」を上映する。
これは、小津安二郎の「晩春」で原節子が演じたヒロインの
嫁ぎ先がもし変態一家だったら?(笑)
という設定で作られた映画で、
セリフはかなり小津映画から
そのまま引用されているという。
とくにセリフの間はそっくりだ。
映像も、シーンごとに引用される喫茶店の看板が、
小津映画にそっくりでもワザと横に倒してあったりと、
芸が細かい。

超満員の観客は、たいていが「Shall we 〜」などの
周防さんしか知らないわけである。
変わりだねピンク映画とはいえ、れっきとした成人映画。
ちゃんと濡れ場はチンコが立つ。
観衆のゴクリとノドを鳴らす音が聞こえてきそうな始まり。
そうそう、そして今日はなんと英語字幕版なのだ!
「なによ!」「What are you!」
「風邪をひきますよ」「You cahch cold!」
といちいち英語字幕が付く。
これが全くニュアンスの違うイメージがして、
めちゃくちゃおかしい。
セリフは小津映画の調子で
たんたんとゆっくりしゃべるのだが、
字幕はなぜかドライに、高飛車な感じがするのだ。
やはり同じ事をいっても英語は調子がきつい。

ある家族に嫁いだ妻、夜の濡れ場はみんながその声を、
階下で、家族団欒で聞いている。
妹はOLを「女は人生はつまらない」といって、
いきなりソープ嬢になってしまう。
夫婦生活はだんだんうまくいかなくなり、
SMをしようとするが失敗。
ダンナは近所の喫茶店のママとハードSMで結びつき、
帰ってこなくなる。嫁さんは体をうずかせ、
ダンナの弟とできてしまったりもするが、
基本的には気丈に家を守る。
そんな嫁を大杉漣扮する義理のお父さんはいちいち、
「いい嫁じゃ」と笠智衆よろしく暖かく見守る。
別に犯したりしない。

いやあ、いい体験でした。
大画面で女性ファンを多く含むみんなと、
そして周防監督本人と、乳首をもんだりナメたりする
小津パロディピンク映画鑑賞。照れる周防さん。
いい夜でした。
  
と、ここで冗談映画では東京で草分けのナニワ天閣さんから
「ハンブルグ国際短編映画祭」に出品したというレポートが
届いた。これがたいそう面白いので
次回(あるいはその次)にその特集をしたいと思います。

1999-08-21-SAT

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