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虚実1:99
総武線猿紀行

第33回

『周防正行監督と彼の処女作「変態家族 兄貴の嫁さん」
を大劇場で字幕付きで見る(前編)』

ちょっと前の話になりますが、
札幌映画祭リターンズという映画祭に
セルジュ・ゲンスブール映画の解説とイベントのために
行ってまいりました。
往きの飛行機は、北海道の経済事情を背負って発進する
(僕的に)がんばってほしい話題のエアドゥ。

羽田の受付は、エスカレーターを上って
すぐの場所だったのでビックリ。
けっこう優遇されてるじゃん。
今まで飛行機の乗降りは、
「バスに揺られ揺られて羽田の最果て」
という感じでしたが、それもなんか良かったですよ。
旅って感じで。後はサービスは何にも
気になりませんでした。
雑誌や飲み物は、まあ、あるにはこしたことないけど、
ないことにより経済効果があるならね。
20年前に札幌に行ったときは、JALで128人乗り=DC-8で、
2時間以上かかるので、2回おやつが出て、
スチュワーデスが3回衣替えしてくれました。
僕は飛行機に乗るのが初めてだったので
「これは竜宮城か?」と思いましたね、マジメに。
避難具の装着のパフォーマンスも
「鯛やヒラメの舞い踊り」に見えました。
それだけ当時の飛行機の雰囲気は
今よりエロチックだったような気がします。
まあ、YS-11=60人乗りが
ガンガン活躍していた時代ですから、
飛行機旅はまだまだ貴重なものだったのです。
今は新幹線と競合し、バス代わり気分に使っている人だって
いるかもしれない。
だからサービスが変わってもしょうがないです。
とはいえ心の底では、竜宮城の飛行機が
死ぬほど懐かしいのです。
団体旅行向きにでもスチュワーデスの綺麗どころや、
女性向にホスト風スチュワードを乗せた特別便を
つくってくれないでしょうか?

さて札幌につき、引率の映画祭のメンバーに連れられて
JRに乗りこむのですが、だれか他に2名います。
僕はゲンスブールの事以外に
ほとんど予習してこなかったので
とっさに誰がいっしょか思い出せませんでした。

若い監督(「月とキャベツ」の篠原哲雄監督)と
もうひとり、車窓に顔を寄せながら、
だれとも話さず文庫本をひろげている人がいる。
だれだろう? コワイ!
ところが名刺を渡されてビックリ。
あの「シャル・ウィー・ダンス」の周防正行監督では
ないですか?
といっても実は、失礼なことに、
僕はそれにすぐ気づいたのではないのです。
なぜなら周防という名前は珍しいし、
すぐ認知したのですが、あまりにも気配が
監督っぽくなさすぎたので、信じられなかったのです。
それほど腰が低いというのかなんというのか。
気配を殺してるような方なのです。

「サエキと申しまして、音楽業界などで
ウロチョロしているものですが・・・」。
「知ってるよ!」と苦笑したような表情は忘れられません。
「知ってるよ」と言われるのも無理はないのです。
まず僕が「周防さんと同年代は「神田川淫乱戦争」
という映画が処女作の黒沢清監督あたりですよね」
と聞いたところ、
「僕はその映画の助監督(撮影だったかも?)
してるんですよ」。
うわあ、その映画は僕の友人界で奇人ナンバー1の
岸野雄一(ヒゲの未亡人)が主演級で出演した怪作でした。
ピンク映画館でやるヘンな映画。
「家族ゲーム」なども生まれた80年代初期の
奇妙な時代感覚を表したエロ? 傑作です。

その次に作られ、話題になったのが周防監督の
「変態家族 兄貴の嫁さん」だったのです。
これも観ていたのです。
しかし、僕はそんなことは完全に忘れていたのです。
「いやあ、そういえば「変態家族 兄貴の嫁さん」
というのもあったな」。
「それがボクの作品!」
「それを上映しにきたの!」
ひえええええええ失礼しました!
映画祭の予習してくるんだった。

それにしても「シャル・ウィー・ダンス」の人の処女作が
「変態家族 兄貴の嫁さん」とは・・・。

(この項つづく)

1999-07-28-WED

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