MUSIC
虚実1:99
総武線猿紀行

第31回

「強熱! 水木一郎先生とのクラブ一夜・・・」

クラブ(右上がり発音)って知ってますかあ?
銀座のクラブ(右下がり発音)じゃなくって。
DJがいて、わりと地味めなフロアにバーがついたスペース。
まずはクラブの事情から・・・。

「ディスコ」は、黒服のボーイさんがいて、
服装チェックがある場合があって、内装が豪華。広い。
80年代で4、5000円と高かった。
フリーフードの所も多かった。
DJはアッパーな曲かチークしかかけてはいけない。

「クラブ」は、入り口にカジュアルでダウナーなお兄さんか
お姉さんがいて、お客が店出入りを可能にするための印に、
手の甲にハンコ押させられることがあり(強制)、
2000〜〜3000円で入れる。
音楽分野はもうほとんどオールジャンルで
イベントによって違う。
音楽ニーズの多様化が生んだスペースともいえる。

で、問題はディスコは風俗営業法が適用、
0時で終わらなければならないが、
クラブは朝までやってる。
では、クラブはどうして風営法が適用されないの?
かといいますと、クラブは踊る所として
登録されてないのです。
飲み屋、サパークラブ、ラウンジなのです。
だから警察が入ったとき、
あからさまにみんなが踊っていると営業停止になる。
事業者しょっぴかれる。

その対策として、どうするかというと、警察が入ると
「皆さん、壁やテーブル、どっかに手をふれて下さい!」
とアナウンスをする。
みなさん立ったまま大急ぎで、壁際、テーブル際にもたれ、
すました顔をする。警察、それを見て帰る。
なつかしの「ダルマさんころんだ!」みたいな話だが、
立って踊っていても、身体の一部が施設のどっかに
触れていれば、「舞踏しているとはみなされない」らしい。
法律ってそういうものなんですね。
これは実話だそうです。

しかし、最近は大きいスペースには
いろいろウルサイらしいのです。
そこで、今年になって流行しはじめたのは
朝4時半ぐらいからの「アフターアワーズ」
と呼ばれるイベント。
なんとあのベルファーレ(ここはディスコ営業)と
クラブ老舗のイエロウが朝4時30分から
12時ぐらいまでの営業を、不定期で開始した。
「やるんなら日が昇ってからやれよお」という警察の勧め!
もあったらしい。
ベルファーレでは2000人を動員する日もあるらしい。
すげえ時代になったな。朝の10時に2000人がおどっちょる。
ただでさえ夜更かしになった若者がここまできた。
さすがに、徹夜で朝11時ぐらいまで踊るのは
キツい人も多いらしく、軽く寝てから始発で来る人も
かなりいるらしい。
新聞少年とスレチガッテ[朝遊び]しにベルファーレ。
いやあ、すごい時代になりました。

さて、僕は総武線の終電に乗り、クラブに出掛けます。
本八幡0時16分。ガラガラの電車に乗って
1時ぐらいに新宿や六本木、渋谷に着くと、
ちょうどイベントのピーク。
メインDJは1〜3時に設定されているイベントが
多いのです。

この日は六本木のクラブ「CORE」で
知り合いが「アニメのイベントがあるから来てよ!」
というので出掛けたのです。
アニメ? それがクラブで?
いやあ、全く結び付かないなあ。
それが興味を呼び、初めていくCOREに出掛けた。

交差点のハンバーガーイン側1本裏の道。瀬里奈のそば。
このへんは、美人のクラブ(右下がり)のお姉さんが
たくさんいて、思わずゾクゾク。
そんなビルの地下にクラブ(右上がり)COREがある。
地下2階。降りる、降りる、グルグル。
フウ! あれ、まだB1? なんて深い地下2階なんだ。
普通なら地下4〜5階の距離を階段で降り、
(ちょうどテレビ中継の機材が入ってきたので
エレベーターが満員だったのだ。
この模様は、おそらく「快進撃TVうたえモン」
という番組で放送されるのだと思う。
水木先生がレギュラーらしい)。

COREの内装は、クラブにしてはハイテック風に
適度に凝ってる。天井はさすがに歩かされただけあって
高いというか、2階構造になっている。
2階に昇って高みのギャル見物だ!
おお、平日なのにギャルがたくさん。
男よりギャル。わりと普通な茶髪。アニメファンなのか?
DJはごくごくノーマルなハウス系のDJ。

そうこうしている内にメインイベントの幕が
切って落とされた! アニメ歌手ナンバー1の
水木一郎先生の登場だ。
おお、水着ギャルが4人が出てきた。ウチワを持って。
そして後ろには「祝24時間イベント敢行!」
とノボリを持った男。コメディアンのコンビ
(すみません、だれだかわかりません)があおる。
「水木一郎!!」
「マジンンッガアアアアアアアZ!」
テーマと共に登場したのは今年52歳だが
まるで年を感じさせない横分けでアナウンサーのような、
サンダーバードの隊員のような風貌の、水木先生その人!
マジンガアアアアアZのZで
決めの敬礼のようなポーズをとる。流し目がギラリ!

場内は異常な興奮に包まれ、約200人のギャルは
ステージ前に殺到。テレビ中継するから
テレビで告知でもしたのか?
曲はすべてメドレーでガッチャマン、
ゴレンジャーと次々とたたみかけるように続く。
ものすごいエネルギーで小刻みに変わっていく曲を
歌いこなし、ポーズもがっちりとる。
曲は「アトム」、「天才バカボン」と続く。
アレ、これは水木先生の曲じゃないぞ?
どうやら自分の曲じゃないのも歌うらしい。
あっと言う間に数十曲のメドレーで
30分のステージが終わった。

アニメの曲は軍歌に似ている
(マーチ調、朗々と歌い上げる)こともわかった。
どうやら水木先生は24時間歌い続けるイベントを
行なうらしい。その宣伝もかねてのイベントなのだ。
深夜のクラブにアニメソング。熱狂するコギャル。
ああ、また一つ異常な光景が脳裏にフォルダされた。

さて、ライブも終わり、友人に水木先生を紹介してもらい、
男5人ぐらいで飲みに行くことになった。
ギャルはたくさんいたのに、2次会には
何故かだれも来ない。というか誘わなかったらしい。
何故だ?

黒人白人がのし歩く道を東京タワーに向かって
飯倉片町の交差点を左折、中華の地下
一階に僕らがよくいくサロン風クラブ
「プラスティック」がある。
ここに名前を書いちゃうのは、
客に増えてほしいからである。木、金はかなり混むが、
クラブはいつだって客が増えてほしい状況にあるのだ。
ここはロック系有名人、代表的には稲垣潤一さん
(この間リミックスアルバム「FMAOR」を
プロデュースさせていただきました)なども
顔を良く見せる。

僕らがすっかり和んでいると、「水木先生ですかあ?」
とゆかたのギャルが寄って来る。
外見はクラブギャルだがアニメが好きなのだ。
水木先生、ただちに上機嫌になる。
プラスチックに来て良かったあ!

僕 「先生、今日の盛り上がりは予測されてたんですか?」

水木 「いや、テレビで人集めしたわけじゃないし、
   クラブなんかで歌ったことなかったからさあ、
   受けるかどうかドキドキだったんだよ。
   だけどステージ上がったら、マジンガーZの頃は
   赤ん坊みたいだったギャルが
   キャアキャア言ってくれるじゃない! 最高だったよ」。

僕 「え、TV仕込みのギャルじゃなかったのですか。
   先生、こんど24時間ですべての自分のアニメ曲を
   歌うんですか?」

水木 「いやあ、とてもじゃないけど歌いきれないね。
    それには3日以上かかるよ」。

僕 「えええ、何曲ぐらい録音されてきたのですか?」

水木 「3日に1曲ぐらいやってるから、年100曲以上で20年。
    そんなペースだからね。アニメの種類としては
    300〜400作品ぐらい。」

ようするに2000曲以上レコーディングされてるわけだ。
全部歌うには曲の長さを1曲3分として
6000分=100時間=4日と4時間かかる。
うわああ、水木先生のおっしゃるとおりだ!

僕 「先生は昔からアニメの帝王だったのですか?」

水木 「いやいや、そんな事はないよ、
    先輩に子門真人さんがいる。
    ガッチャマンとか70年代中半まではほとんど子門さん」。

そうか、「およげ! たいやきくん」は
アニメソングを歌う気持ちで吹き込んだうちの
ひとつなのだ。
エルヴィスなどにあこがれて歌手を目指したが、
ロカビリー歌手になるにはちょっと遅すぎ、
バンドを組んだりしていたが、気が付いたら
アニメ歌手になっていたという。
面白い人生もあるものだ。
レコーディングは譜面のみですぐ歌ってしまう。
その場でただちにイメージをつかんでしまうというから
スゴイ! きっと1度か2度でオオゲエになるのだろう。

「わっはっはっは!」
水木先生のシャープな高笑いでプラスチックの夜はふける。
ステージではDIVA大会が開かれている。
ミーシャ・フォロワーだ。
宇多田ヒカルやミーシャ、TLCのような歌を、
そっくりの手振り身振りで歌う。
ピアスしたりドレッドヘアだったりする子が歌う、歌う。
次から次へと出てきて、なんと20人以上のDIVA
(本来は歌姫の意味だが、最近は宇多田、ミーシャ系の
代名詞になっている)が出演。

日本はホントに流行るとスゴイことになる。
昨日までは存在しない、ヒッピー、テクノカット、パンク、
ボビ男君、などが一夜にして街にあふれる。そしてDIVA。
客にもDIVA系がいるから、全部で100人近いDIVAが
クラブを占拠。壮観である。

右にDIVA、左に水木先生、異常なクラブに夜明けが来て、
5時30分に解散。
ううううう、夏至の近い最近はもう完全に明るい。
カラスがクワークワー泣いちょる。
友だちはこれからバー、カラオケ、飯で
11時ぐらいまでだと。か・か・からだに悪い。
僕はとうに始発を過ぎ、数便目になっている総武線で
帰るのだ。

1999-06-24-THU

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