MUSIC
虚実1:99
総武線猿紀行

第30回

「熟女とロック、歯科医のロック」

実は、先々日、「快傑熟女!心配ご無用 」に
ちょっと出たのです。事務所で取材という形で。
またなんでかと申しますと、
「バンドやりたいので歯科大学やめたいという女の子が
いるので意見がほしい」と言われたので。
実は先日も自分が籍を置く大学の教授から電話があって
「サエキ君、知り合いの教授の担当学生の女の子が
ロックやってて、バンドやりたいから大学やめたい
って言うんだけど、説得しにいってくれないかね?」
と頼まれたので、おっとりがたなで千葉は稲毛の
歯科大学まで説得にいっていたのです。

おっとりがたなはなぜ? といえば、僕は大学の講座に
まだ一応籍をおいており、そこでは兵隊だからです。
教授の言葉にはまずリアルタイム服従。
といっても戦時中の軍隊みたいなことは
滅多にありませんが。(たまにある)
歯科医師免許取得後、そういう組織の中での兵隊経験、
これも大変勉強になりました。
というか、それは面白いことなのです。
僕の著書「歯科医のロック」ではそういった
組織のペーペーになることの面白みについては
かなり描写したので、あれを読んでくれた多くの学生は
けっこうちゃんと歯科医にもなったのです。

稲毛の歯科大というのは大変質実剛健な大学で、
稲毛の埋立地にガツンと敷地を持つ、環境抜群の大学です。
担当教授は解剖の教授で、解剖の研究室を
見せてくれましたが、胎児がお腹のなかにいる女性の
断面解剖ホルマリン漬けというかなり珍しいものがあり、
「すごい」とただうなりました。

相談相手の女の子は髪を紫色に染めた子で、
大変素直ないい子でした。(やっぱりいい子、
たいていこういう子はいい子)。 
こういうことは結局は本人の意思に
任せるしかないのですが、やはりもったいない。
私立歯科大だとさらにもったいない。 
授業料めちゃくちゃ高いからね。 

日本にはアメリカで評価されている
カントリーギターの名手の歯医者さんや、
プログレ界で高い評価を受けている
「kenso」というバンドの歯医者もいる。のである。 
とにかく、言えることは言って、あとは本人の意思のみ。 
今は大学休んで、居酒屋でバイトしてるそうだ。
それが気持ちいいみたい。なんか気持ちわかるな。
ずっと親からの期待一身に背負って、勉強してきて、
大学に入って、居酒屋のバイトしてると、
新鮮なんだと思う。
い、いかん。すぐ気持ちにほだされちゃう。
とにかく今の学生は純真だからな。
僕みたいにヒネてないからな。 

あ、そうだ。ロックとはヒネた子の音楽だったはずだ。
なんたってカウンターカルチャーだからな。 
反抗の音楽だったはずだ。
それがなぜ、純真な子が相談にくる音楽に
なっちゃったのだろう。
そういうのはクラシックのほうが似合うよ。
 
で、熟女のテレビのほう。
事前に事務所のほうにカメラが来て、コメント収録。
カメラはソニーの3CCDのハンディカムでの撮影だ。
すごい。電気屋で30万円ぐらいで売ってるカメラでも
もうゴールデン枠の取材どりくらいは
できるようになってきたのだ。
聞いたら「ガンガン使ってます」とのこと。

まあ、それは置いといて、番組への僕の意見はひとつ。
「気持ちはわかるが、相談しにくる時点ですでに弱い」。
だってロックの人ってスケコマシとか男狂いとか、
ドス持って歩いている人とか、すげえホラ吹きとか、
金返さない人とか、もう、人にいちいち相談しに来る人
なんて昔はいなかったからな。 

で、快傑熟女!心配ご無用の本番TVを見ました。
相談の女の子はほぼ同じケース。
ほとんど同じでもう、同じ子かと思ったが、大学が違った。
こういう子が全国で大量発生しているのだろうか? 
面白かったのは、女の子が泣きながら
「バンドやりたいんですう」と訴えると、
いつもは怪気炎の熟女たちがなぜか「おお、可愛そうに」
といわんばかりに、「だから、もったいないじゃない」、
「なんとか親をだましてなだめすかして
両立できないもんかねえ」とか言って、
近所のオバさんのように親身になぐさめていたこと。
なぜか優しい熟女。 

和田アキ子だけが「ロックやろうってのに
メソメソしてたらしょうがねえだろ!」と一喝していた。 
さすがゴッド姉ちゃん。こういうことには
往年の迫力が出る。 
熟女は、男女の修羅場については男の考えつかないような、
激しいアグレッシヴな解決法を出すのだが、
進路問題のような社会的かつ家庭内的問題では、
一人の母親に戻ってしまうのだ。
なんかふと家のおばあちゃんのことを
思い出してしまった。(笑)

熟女の醍醐味は男女の修羅場問題にあり。
社会のアンチテーゼを旨に発展したロック。
大学に火をつける学生を応援していたロック。
そんなロックをやりたい学生が「オーバーサーティ」の
年上に相談に来る90年代。
大学の教授やサエキけんぞうや、熟女が相談に答える。
かなり笑える。ロック伊豆デッド。

1999-06-17-THU

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