MUSIC
虚実1:99
総武線猿紀行

第27回

新作映画が実証する世界の「情けない男ブーム」

ハーイ!! みなさんお元気ですか? 
総武線もすっかり初夏。
午後早く乗れば、もう汗ばむほどで、
窓も全開にされてあったりします。
(窓を開けたまま夜まで走って、
すごく寒くなって迷惑なこともある)。
そんな総武線に乗っている
新緑気分の10〜20代カップルも、
イチャツキがサマになる頃合いともいえましょう。
いや、いいっすねえ。

しかし、日本人というのはバランスのとれた民族だなあ、
と思うのは「このまま行ったらどうなんだろうなあ?」
と思っていても結局「行きすぎない」ことです。
ウォークマンが流行った15、6年ほど前は、
「シャカシャカ」、「シキシキシキ」と
ヘッドホーンから漏れてくる高音で、
車内が満たされたことさえありました。
 
そんなある日、安部譲二さんのような人が、
満員電車で大きく漏れいずるヘビーメタルを聞いている
青年のヘッドホーンをつかまえもぎとり、
「にいちゃんの好きな音楽、
他の人も好きとは限らんのじゃイ!」(正論ではある)
と亀戸駅に引きずり降ろしたこともありました。
このまま、ウォークマンが増えたら、
毎日そんなことが起こるのかな? とさえ思いました。
それが今では、音漏れしないように
ヘッドホーンが進化しましたし、
そもそもウォークマン自体をつけた人が
あまりいなくなってしまいました。

同じ事は携帯電話にもいえます。
車内放送で「携帯電話の使用は禁止させていただきます」
と放送しても、着信してしまい、大声で話すオジサンは
あとを絶たなかったのですが、
さすがにこのところその数は減ってきたのです。
自分のシャベリ声の大きさに気づいた人も
多くなってきたような気がします。

カップルといえば、ここにも書いたように、
公衆の前でベラカミ(ディープキス)を
厭わないカップルが電車のなかにも現われ、
このままでいけば電車の中が日活ロマンポルノみたいに
なってくれるのだろうか、とさえ思いましたが、
それもこのごろは減ってきたようなのです。
 
それに代わり、このところ注目なのが
女性上位カップルです。
(すみません、このトレンドは僕の思い込みにより
作られているトレンドなので、必ずしも、
みなさんがすぐに目撃できるものではありません)
女性がリードしているカップルが増えていることは
みなさんも御存知でしょうが、それが新たな時代を
迎えているというのが僕の感想で、
いろいろなドラマを見せてくれます。

例えば、 この間友人が目撃したカップル。
二人はずっとケンカをしていたらしいのです。
人がケンカを大声でしているのを盗み見しながら
雑誌などを読む、というのはウルサイながらも
電車内イベントの最大の娯楽のひとつです。

「お前のこの間いっしょにいた男はだれなんだよ!」
「電話してもキャッチで出てるのはだれなんだよ!」
「そいつと寝たりしてるんだろう!」
とすごい剣幕で男が怒鳴っていたといいます。
そこまでエキサイトしている状況は珍しい。
周りの人も 知らぬフリをしながら
かなり注意深く耳をそばだてていたということです。

さて、女性側の反論はどのように行なわれたのでしょう。
彼女は、こういった状況証拠に
取り合おうともしなかったばかりか、
彼に浴びせかけた反論がこうだったそうです。

「なによお! あんただってこの間私の髪切ったの、
気づいてくれなかったじゃない!」

確かに髪は女の命ですものね。
浮気問題に対して、髪を切ったことに
気づいてくれなかった問題で応戦。
で、 男の子はこれに対して
全く反論できなかったということです。
冷静に考えれば、次元の違う問題ですが、
人間、勢いに弱い。のまれる。
ひょっとすると僕も同じように、凍りついたと思いました。
がんばれ男性軍。

さて、こうした「女性に対して苦戦している」
という傾向は日本だけなのかな? 
とも思っていましたが、
ポスト「トレインスポッティング」を狙う
今年後半の有力話題映画が、世界で男性のピンチが
拡がっていることを ヒシヒシと
伝えてくれている作品だったので
軽くご紹介いたしましょう。(2本とも超面白い!)
2本とも、テクノを中心とした
ハイパワースピード映画なのですが、
そのスピード感に大胆な、カメラワークが重なり、
すごく未来的なのです。
そのくせ、話はいたって日常的。
その日常感を出している根源が主人公の男の子の
情けなさなのです。
テクノとスピードと情けなさ。
この加速する男子の情けなさこそが、
21世紀なのかもしれません!

1本目は統一で盛り上がる
リアルタイムのベルリンの街を撮って、
現地で国産映画としては本当に久しぶりに
大ヒットしたという「ラン・ローラ・ラン」。
ドイツ映画の新鋭監督トム・ティクヴァの作品で
渋谷シネマ・ライズで夏頃公開です。
この映画はベルリンゆかりのトランス・テクノを
フューチャーし、アニメやスロウモーションを駆使して、
ものすごいスピード感覚であっという間に
1時間20分を見せます。
「時間がちょっと数秒ズレてたら?」
「結果はどうなる?」というアイデアで同じように進行し、
そして結果だけが異なっていく3本のストーリーを
アシッド感覚で描いているのです。

問題はその冒頭。
無職の24歳の男のマニは、麻薬運搬の仕事をしていて、
その代金10万マルク(4月現在約660万円)を
電車の中に忘れ、その事がボスに知れたら
殺されてしまう状況。それが20分後に迫っている。
もうどうしようもなくなり、泣きながら電話をかけて
相談するのがガール・フレンドのローラ。
この相談のしかたがとにかく情けない。

「ぼくちゃんもう殺されちゃうから、
もうどうにもならないから、
このままじゃ20分後に死んじゃうから」。
「どうしたの? しっかりしなさい、
とにかく理由をしっかり話しなさい!」
「ふえええん、こわいよお! 助けてくれよお!」
こんな感じで、今までの僕が見た映画の若い男シーン
断然NO.1の情けなさなのです。
これだけで見る価値がある!

こうして死への恐怖におびえて
あわてふためきった男マニと、
ドンドン根性が座ってくる女ローラの対比が面白い。
ローラは今までは普通の女の子だったのに、
男の子への愛情から、ド根性に目覚め走る走る走る。
その走りっぷりがこの映画の見物なのです。
いざとなると男ってホントに弱いな、っていうことと、
「どうしていいかわからないよおぉ!」
と赤ん坊のように甘えたりするのが、
世界の男の子に共通の甘え方だということがわかり、
感激いたしました。
ドイツっていえば、スキンヘッドのネオナチを
はじめとして、マッチョなイメージの国。
それが、この男主人公マニによって
木っ端みじんに崩れさることまちがいなしです!

もう1本は英国。「トレイン・スポッティング」の
アーヴィン・ウェルシュ原作・脚本の
「アシッドハウス」で、これはもうトレスポファンには
見逃せませんね。
(渋谷パルコスペース・パート3改め、シネクイントで
秋頃公開予定)
プライマルスクリームの新曲テーマをフューチャーした
英国90年代クラブヒットのショウケースのような
サウンドトラックCDがすでに日本でもヒットしています。
これも「アシッドな(しょうもない?)家」をテーマにした
3本のストーリーのオムニバスなのですが、
この「しょうもない」とは「家」というよりは「男」の事。

主人公のボアブは、サッカーチームから突然追い出される。
家に帰ると、今度は両親が自分たちの好きなSMプレイを
心置きなくするため、実家を突然追い出されてしまう!
弱り切って、数年来のガールフレンドに、同棲を申し込む。
しかし優しかったガールフレンドは
突然、彼を無能よばわりして失恋。
そのあげくに、おかしな神様に出会って
「ハエ」にされてしまう。
ハエになった彼は空しくガールフレンドのところに
飛んでいくと
(ムーンライダースの「僕はスーパーフライ」
という曲がそっくりのシチュエイション)
そこで彼女がSEXしていた新しいボーイフレンドは
誰だったか・・・??
空しく、飛び回り、次々に、自分を陥れた人々を
観察に行く彼。

という情けなさの権化のようなストーリーなのですが、
こんな主人公にスピード感のある大胆なカットアップが
似合っている。
そんな悲しい第一話をはじめ、
ヤクザな暴力兄を持つジャンキーアバズレ女と結婚した
気の優しい男が、妻にトコトンまで
ドンドン追い詰められていく第二話など、
とにかく情けない若者話ばかり3話。
映像が安いけどカッコいい!!
そして男の子の情けなさが新しい!
紳士で、サッカー、テニスが強く、タフな男の国・英国
というイメージを大きくくつがえすことは
確実と思われます。

こうした映画を見て、なぜか安心してしまうのは
僕だけでしょうか?
(女の子もきっとスっとすると思います)
きっと世界の若者はこれらの映画に流れる
クラブ音楽チックな音を聞きながら、
似たような青春を送っているに違いありません。
弱いのは君だけじゃないぞ!

(おわり)

1999-05-13-THU

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