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虚実1:99
総武線猿紀行

第20回

「ビックカメラはハルマゲドン(その1)」

この連載の新年日記で、どちらかがつぶれるまで
ポイント還元セールを続けるという
「ビックカメラ対サクラヤ」ポントセール戦争
ハルマゲドン説を提唱してすぐ、
1月17日をもって、ビックカメラの12%ポイントセールは
終了した。
そして、サクラヤと同じ10%還元セールへと
ソフトランディングした。

ハルマゲドンは終わったという説も出ようが、
見方によってはより、泥沼化したといてもよいだろう。
なにせ両社のポイント還元はもともと5%。
それがビックの創業記念で12%にしたのが、
タマタマちまたの消費税還元セールと同期してしまい、
後にひけなくなったのだ。

さらにそこにサクラヤが10%にしたので、
ビックが完全に意地になったのが
ハルマゲドンだったわけだから、
これで両社は長期戦に突入したといってもよい。

12%が定着しつつあった 昨年1998年の8月のある日、
僕はビックの店員に聞いた。
「この12%還元セールはいつ終わるのですか?」
すると、店員は「こうマニュアルで答えろと教わっている」
といわんばかりに答えた。
「明日終わるかもしれないし、
ずっと来年まで続くかもしれないんですよねええ」。
イ? なんちゅう答えかたや? と僕は思った。
みなさんもそう思うだろう。
しかし、この答えこそに、ビックカメラ戦略の
本質が隠されていたのだ。

例えば、「来月までは最低でも続く」といった場合、
その客は「そうか、今日買わなくても、来週にでも来よう」
と今買うのをやめてしまうかもしれない。
だがそうしたら、ビックカメラじゃないところで
買ってしまうかもしれないし、
だいたいその物を買うのをやめてしまうかもしれない。
だから「明日終わるかもしれないし、
ずっと来年まで続くかもしれない」と答えるのだ。
“目の前の客からはなにがなんでも今日買わせろ!”
ちょっと商売というものを学んだ。
 
僕はたまたまその1月17日12%最後の日、
どうしてもプリンターを買わなければいけなくなり、
終了間際のビックカメラに突入したのだった。

文字通りの突入。
渋谷は東口(ハチ公と反対側)、
映画館が入っているビルの1〜4階のビックカメラ。
20時終了とは聞いていたが、19時59分到着。
普通のスーパー、デパートならもう「お客さん、閉店です」
と入り口で、ケンもホロロに追い返されるはず。
でも僕はそういうことはないと踏んでいたね。
だからタクシーでわざわざ1900円もとばしてきたんだ。

なにせビックカメラについて、
電気屋ではないと思っている。
前記のようないんぎんな応対に加え、
羽毛布団や洋酒まで売れる物は何でも売る、
世紀のバッタ屋ディスカウント店なのだ。
そんな店が、少しでも売れる客が残っているうちに
店から客を締め出すわけがない。

案の定、あっさりと1階突破、
併設のマクドナルドに来たギャルをかきわけ
猛然とエレベーターで4Fに到着すれば、
そこはグシャグシャに客が入り乱れて活気を作っている、
いつものビックPCフロアだったのだ。
20時閉店など、どこ吹く風なのだった。

話題のiMacはいきなり17万から
12万8000円になっていた。
なんだ! その突然の値下げは!

これからが勝負。
実は、ビックカメラで一番のスター、
それは客ではなく、店員なのだ。
店員をつかまえなければ、物が買えない。
PC関連商品の場合、
最低でも店のフォロウがどうなっているのかとか、
少しの質問があるだろう。
そのためにはレジに行く前には、
店員に何かを聞かなければならない。
その店員の数は、客に対して、圧倒的に少ない。
需要と供給の関係でスターは生まれる。
とにかく店員を確保しなくては話にならない。

ところが、ザっと見渡したところ、この時間、
つまり20時5分過ぎになり、
もはや残っている客のだいたいが、買う気満々なのに、
それに対応する店員の数は少ない。
ざっと5〜7倍の倍率なのである。

それにしても、閉店時間を過ぎて、異常な活気である。
と思い、ふと張り紙を見たところ、
「好評の12%還元ポイントセールは今日までです」
というチラシを発見したのである。
なるほど、それでみんな粘って
今日中に買おうとしていたのである。

(つづく)

1999-02-04-THU

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