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虚実1:99
総武線猿紀行

第15回
「恋愛風景と私」

カップル観察はおもしろいですね。
なにげに、流行りすたりありますね。
総武電車の中ですと、
最近はヘヴィーなのが減ったみたいで残念です。

15年ぐらい前によくいたのは、ヒッシと抱き合いカップル。
満員電車にですな。朝のるとよくいたんですよ。
けっこう背の高い、ガッシリとしたヤンエグ風
(これ、もうすぐ死語になりそうな予感)が、
髪の長いわりとイイ女タイプの女性を
「ガシッ」と音が聞こえそうな勢いで抱きしめながらの
ご通勤というのがよくいたんです。
これはけっこう迫力ある風景です。

フレッシュな朝の空気の中、赤の他人同士が、
かなりの密度で肌と肌を合わせる「異常」な空間、
それが満員電車。
その中で、いきなりこの二人だけが、
恋人同士の「正常」を演じている。
もう、「君は俺が守るんだ!」といわんばかりに
「ガシ」なのです。
恋人の正常の距離と、普通人の異常な距離、
似て非なるものが同居している空間の面白さ。
それで、目的地まで、ピクリとも動かないんだな。

僕は本八幡からだから、
どっから彼らが乗ってたのかしらないけど、
秋葉原まで乗ってたから、
まあ最低で28分以上その状態が続いたわけだし、
もうひとつ問題は、二人の様子から、
毎日そうして通勤しているのではないか? 
と思われたこと。
恋はエネルギーです。

さて、我が事務所パールネットは
糸井さんの家の近くと思われる表参道近辺にあるのですが、
例のイルミネーションで、さすがにカップルでいっぱい。
住民訴訟の効果か、人出は去年よりかなり少ないけど、
それでもけっこうスゴイし、なんか警備員みたいのが
「ピッーピッー」と年がら年中、笛ふいてるので、
異様な雰囲気に包まれてます。
やっぱ一般大衆・群衆には
「ピッーピッー」がないとだめだと
当局は判断してるのでしょうか?
それほど問題が起こっているとは思えない人出で
「ピッーピッー」です。
これで「ピッーピッー」なら朝の新宿・丸の内なんか
機動隊出動でしょう。

ここかしこにカップルがいるのですけど、
取り壊しが懸念されてる例の同潤会アパートの前など、
ちょっと暗がりがあるところにさしかかると、
ちょっと「チャ〜〜〜ンス」とばかり、
なんとかチュウしようと女の子に唇をとんがらせ、
女の子から「こんなトコじゃイヤ!!!!!」
とピシャとやられてるのを2回も目撃しました。

このように男が、あらぬ場所でチュウを迫り、
あえなく撃退されているのは
男同士としてはシンパシーが沸くエピソードです。
が、見るととりあえず「クフフ」と笑っちゃいます。
(でも体験あります。)

とにかく今のカップルは総じて
スタスタ歩く女を男が無理にかかえるようにして
かなり不自然な状態で肩を組んでいるのが多いですね。
カップルが歩く時、
男は彼女を利き腕の右手で守れるように、
女の子を左側に歩かせ、左手で肩を組んだり、
手を握ったりして、右手は常にフリーにしておくべきだと、
どこかで読んだことがあります。
みんな知ってるのかな。
もう今の男の右手はそれどころじゃないかも。
彼女をどうにかしなきゃいけないアセリで一杯です。
もはや女性は守る対象じゃないのでしょうか。

先述した総武線の「ガシ! カップル」はある意味では、
過ぎし良き時代の風物詩なのかもしれませんね。
ああ、中村正俊サンのような男らしい男が、
彼の奥様のような小柄な女性をだきしめてる図を、
もう一度、街角ナマで見てみたい!
女をガシっと抱きしめてるカップルを見なくなったかわりに
増えたのが、ワイルド男たちで、
この間、そんな男が友達としていた会話がすごかった。

「どうしたんだよ、あの女、あのパーティーの後お?」
「あれ? すぐ食っちった。」
「ええ? 食ったって、あんなすぐ? 
でも、お前には本命って迫ってたA美もいたじゃんよお?」
「ああ、あれはこの前、ちっとイジクった」

ううむ、とても男女交際の話とは思えない。
なんか珍味か袋物菓子でも食べてるようなカジュアル感。
「食った」という会話は、
かなりスレた男同士の恋愛話で
耳にすることが多くなった用語ではあるが、
女性は違和感あるだろうなあ、どうですか?

で、今回初耳だったのは「イジクった」(!!)
なんか猫のおっぱいやゴムのおもちゃを思い出しました。
まあ、こういう男子は昔なら、
不良と呼ばれたのだろうけど、
ためしに、想像の中で60年代の映画に出てくる
石原裕次郎などに「食っちった」とか
「いじくっちった」とかしゃべらせてほしい。

やっぱ男は変わったのでしょうか。

(終わり)

1998-12-23-WED

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