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虚実1:99
総武線猿紀行

第11回
「両国でL-1を見る(その3)」…最終回

第5試合は全日本女子プロレス所属の堀田佑美子と、
アメリカのレスリング、ボクシング、キック、空手
となんでもござれのアンジェロ・アムロッソだ。

全日本女子プロレスとは、
あの元目黒エンペラー裏手の目黒川沿いにある、
由緒正しい女子プロの牙城だが、
現在は2年前に不動産事業の失敗という
絵に書いたようなバブル崩壊により、三派に別れている。
あまりにも分裂しすぎたので、
元々は神取のLLPWより2倍の大きさがあった団体なのに、
今はLLPWより小さくなってしまった。
これは30年以上の歴史を誇る
女子プロの歴史を知る人には考えられないことで、
自民党が、ある日突然、
公明党より小さくなってしまったという事態
と思ってくれてよい。
自民党が、自由党ぐらいの大きさの党に3つに別れ、
ひとつひとつは公明党より小さく、
公明党が第一党になってしまったという雰囲気なのだ。
(女子プロレスには民主党や共産党がない)
フロントの情けない経営ミスの分裂劇による、
いかにも90年代的な事件である。

そんな中、堀田佑美子は、そのトップを守る人で、
No.6ぐらいだった人が突然
No.1になってしまったわけで、
大変なのだが、がんばっている。
対するアンジェロ・安室ッソは、
写真によればドレッドヘアー、
故ジョイナーが薬中毒になったような形相で、
どんなヒール(悪役)か? と期待させたが、
実際は、ドレッドでもなく
まったく普通の黒人オバサンで、がっかり。

カ〜〜〜〜〜〜〜ン!
最初、しばらくつかみ合いのようなものもあったが
ほどなく堀田がおさえこみ数分。
堀田の勝ち。
ああ、つまらん。

第6試合。
全日本女子のヒーローだったクラッシュギャルズの
片割れで、いったん引退はしたものの、
リングに帰り咲いて現在はフリーのライオネス飛鳥と、
中年ハリキリ係長のような風貌のオランダのムエタイ選手
イルマ・ヘルホーフ。
同じクラッシュギャルズの片割れだった長与千種選手は
ひたすら現役でいるため、
その迫力は衰えを知らないが、
飛鳥選手の方は一度退いているため、
往年の強さにはイマイチ欠ける。
しかし、そこはさすが元頂点を極めた人で、
まだまだ十分に中堅以上の迫力が出せるところが
格闘技だなと思った。

男子格闘技にヨワイ僕は、よく強い友人に
「猪木選手は現在でもどのくらい強いのか?」
といった質問をするのだが、
みなさんが異口同音に唱えるのが、
「日本でヒクソンに勝てる人間はいないと思うが、
可能性が少しでもあるとしたら猪木だと思う」
という答えだ。
ヒクソンと勝つ可能性があるのが前田や橋本、
あるいは全日の三沢といった答えなら納得できるが、
新日の中でも最後は
けっこうやわらかに扱われた感のある猪木選手だから、
これはあまりにも意外な答えだった。
しかし格闘技を知る友人は異口同音に、
「真剣勝負は違うのだ。気迫と場数がものをいうのだ」
と口をそろえる。

飛鳥選手がまだまだ強いという話は、
そのミニチュア版の雰囲気を持つ。
かつて頂点を極めたものが、
まだまだ負けまいとする飛鳥選手の気迫は相当なもので、
短髪で侍的なしまった容貌からは、
会津藩白虎隊的なゲイ風味な色気さえただよう。
現役としての格は堀田佑美子より下なのでは?
と思うのだが、本日は堂々のサブメインマッチだ。

カ〜〜〜ン!
ハデに派手に張り手しあいながらの始まりは
今までの試合にない華がある。
やっとお金をはらって見てる実感がする。さすがに見せる。
互いのスキを見合いながらの攻防戦、
いやあ、大物の戦いは違う、
と楽しませてくれたこと2分ぐらい。
またしても寝技に入り動かなくなる。
3分ぐらい経過か?
飛鳥選手の勝ち。
オランダの係長はあまり見せてくれなかった。
ううむ。プロレス以外の格闘技選手に対して
すべて寝技で、これまでのところ全部、
日本プロレス選手の勝ち。
これは八百長ではないにしろ、
そもそもこの大会の制度自体に
なにか重大なプロレス有利の理由があるのでは?
と感じ始めた。

さて、いよいよ、神取選手の登場だ。
さすがに、今までおとなしかった観客が騒然とし始める。
「カンドリー!」
金髪の彼女が登場すると、すごい声援。
僕も心の底から声を出したが、その想いとは、
男子選手を応援する同性的な同胞意識
とまるで変わらない。いや、それ以上だ。
猪木に負けない受け口風の顎に秘められた闘志こそは
野獣の濃厚さ。
神取の役割はまさに「燃える闘魂」、
忘れていた男性的な闘志を思い出させるのだ。
キャットファイトに通じる女プロレスの
戦いの情念の黄色いオーラが魅力で
女子プロファンをやっている僕も、神取に対しては違う。
幼なじみの隣の兄ちゃんがボクシングで出世し、
ここ一番の試合で応援にいったときのような
純粋な男気で彼女を応援できるのだ。
それほど彼女は男の魅力にあふれている。
そんな彼女が女なのが、なぜかよけいにうれしい。
僕の友人の神取ファンなどは、
彼女に首を締めてもらう夢をよく見るという。
もちろんウットリするのだ。
流行中の、猪木にハリ手をしてもらうような感覚だ。
なにせ全日本女子柔道3年連続日本一の彼女。
本物の強さだ。

LLPWは非常にバランスの悪い集団で、
強い選手と弱い選手の差が激しく、
正直、神取のまともな試合が見られる集団ではない。
LLPW=公明党という比喩はそういう意味で正しいといえる。
彼女のリアルファイトが見られるチャンスは
年に2回あればいいほうで、
(今年は豊田真奈美戦とこれ合わせて2回あったので幸せ)
だから、L-1でも5000人も集まるのだ。
対する前回の勝者、グンダレンコは今日も
195cm、140kgの巨体。
ロシアの大熊さながらにドスドスと登場。
八角形のリングに二人がほうり込まれ、
周囲を囲む金網のドアが閉じられると、
さながら猛獣同士の戦いだ。

カ〜〜〜〜〜〜〜〜ン!
大熊が手をあげてふりかかろうとする。
対する神取は・・・・・・
なんと今日はボクシングスタイルで、
前にだした両手を交互に上下させながら、
せわしなく細かくピョンコピョンコ
ととびはねて逃げ回る。
元柔道の神取がピョンコピョンコとんでいる!
元3年連続日本1の選手が!
ピョンコピョンコピョンコピョンコ
ピョンコピョンコピョンコピョンコ
ピョンコピョンコピョンコピョンコ
これは笑ってはいけないが、微笑みを誘う光景だ。
プロレスではこういう試合法はない。
しかし、とてつもなくテンションの高いリング上は
笑うどころではない。
巨体すぎるグンダレンコには
細かい動きで勝負ということか?
大熊を相手では、通常の攻撃ではダメなのか。
そこで編み出されたのが
このボクシング風のピョンコピョンコ攻撃なのか。
グローブを気ぜわしく上下させているのが
とにかくおもしろい。
あれだけでかく見える神取が、
今日は熊の前のウサギさながら。
リングが前回より広くなったことが
そうした攻撃を可能にした原因と考えられるが、
とにかく神取は、ひたすら熊の手中に入ることを防ぎ、
時間をかせいだ。

そして、数分後、ついにつかまり、二人は寝込む。
よく見えない。
「やばい!」
「カンドリー!!!」
「キャーーーーー!」
悲鳴のような声援が場内を包む。
あんな熊がおおいかぶさるので
全くどうなってるのか見えない。
今日もまた負けるのか。
また数分、突如として、小さな歓声。
状況はやっぱり見えない。
カンカンカンカンカンカン!
どうなったのだ!
と、両手を挙げて、泣くように踊り上がる神取。
勝ったのだ。
全く見えなかったが、最後の方で突如巻き返したらしい
(首をとったのだろう)。

今日もよくわからなかったが、
とにかくよかったよかった。
これで、LLPWも少しは安泰だろう。
外に出たらまだ明るい。
15時に始まり17時には終わる。あまりに早い終了。
人混みに流されながら客層を観察すると、
かなりカワイイ女の子が
たくさんきていることにビックリする。
両国にこんなにカワイイ女の子がたくさん来ることは
あまりない。

(終わり)

1998-11-07-SAT

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