MUSIC
虚実1:99
総武線猿紀行

総武線猿紀行第238回
「モーガン・フリーマンに会ってきたよ」(その2)
 
インタビューの場所は、
新宿のパーク ハイアット東京。
話題の映画
「ロスト・イン・トランスレーション」の舞台にもなった、
新東京御三家ホテルといわれているホテルだ。
(他は、フォーシーズンズ、ウェスティン)

オスカー受賞役者としては、ぴったりな舞台といえよう。
インタビュー開始45分前に到着すると、
インタビュー会場の部屋の回りは、
さすがに物々しい雰囲気。
部屋にはカメラがセットされ、
お目付役のような配給会社の人が
ニラミをきかせている。

もちろんモーガンは、
別の部屋で待機しており、
時間ぴったりにあらわれる。
プレゼントにはCDを持ってきた。
黒人だから、当然R&B好きだろうと思い、
考えをめぐらせた。

結果、昨年末に発売されたばかりの
「バーバーショップから
 ヒップ・ホップまでアメリカン・コーラスの歴史」



という中村とうようさん監修の
黒人歌モノR&Bのヒストリー・オムニバスにした。
ドゥーワップ調の貴重な古い音源がつまっており、
しかも、どの曲も華やかでウキウキと楽しめる、
かなりイケてるCD。
歌モノが好きな人には、
クロシロ問わずものすごくスイセンだ。
スイセン文を山下達郎さんが書いている。

これなら、なんとかなるかもしれないと思ったが、
「プレゼントがあるんですけど。CDです。」と申し出ると、
お目付役が眉をピクっと動かし、
「そうですか?それではちょっと調べます」
といわれた。

オミヤゲ等にも、安全対策なのか、
すごく制約があるようだ。

10分ほどして、
「CDならかまわないそうです」という返事。
ほっとした。大変だなあ。
こりゃ、食べ物はゼッタイあかんな。

いきなり渡そうとしたら
取り押さえられたかもしれないな(笑)。

モーガンが現れる時間が近づき、
部屋はとんでもない緊張に包まれ出した。
ツバを飲み込む音さえ聞こえる。
その部屋にいる人は、ほとんど初対面。
アイテはオスカー受賞の世界的俳優。
気分を害したら大変なことになる。
(撮影拒否とか)

僕もものすごいプレッシャーがかかる。
なにせ初体験の「英語によるインタビュー撮影」なのだ。

ドア周辺がざわめいた。
「モーガンさん、入りま〜す!」突然だった。
ドカドカとモーガンさん御一行が入ってきた。

「ハローナイストゥーミーチュー!」

「ファイン、アンジュー?」

「オ〜ヴェリーファイン」

中学校の英語がまず大事だ。

しかし、現実は常に予想を裏切る。

まず、顔が想像していたより、全然小さかった。
向こうの役者も顔が小さいのだ。

そして・・・顔は怒っているかのようだったのだ!

あの映画で見られる、
柔和な優しそうな笑顔はみじんもなかった。

東洋のメガネは
一体どんなクダラン質問をを聞いてくるのか?
といわんがばかりの
警戒心に満ちているように思えた。

ヒエエエエエエエエエエエエエ!

コワイ!

もうすぐにでも土下座したい気分だったが、
そこは胸に秘め、
できる限りの愛想笑いを浮かべながらいった。

「コングラッチュレイションズ  フォー、
 ユー リシーヴィング  オブ
  アカデミー アワード」
Congratulation for
 your receiving of Academy Award


すると、である。

ウルトラQのイントロのように
顔の筋肉が複雑な動きをはじめ、
怒ってたように見えた顔が、
クシャクシャのひとなつっこい笑顔に変貌していった。

あの見覚えのある、笑顔に。

その間0.5秒なのか0.1秒なのか。

しかし、僕には見えた。

ウルトラQのイントロの、
バケツにいれた絵の具の
スジの群れを逆回転でグルグルまわしていき、
「ウルトラQ」という文字にたどりつくように、
笑顔がそこに現れた!

(ウルトラQのイントロは、
 もともとウルトラQという文字があったミソ状のものを
 下からかき混ぜることで、崩していく映像、を撮影。
 それをフィルム逆回転にすることにより、
 文字があらわれる映像に作った)

あのモーガンさんがそこにいた。顔は小さかったけど。

これが俳優か!

これがオスカー俳優の表情なのか?

感動と動揺が隠せなかった。

それは、常人の表情制御を超えた、
ダイナミックで不思議な表情筋の動きだった。

その後の状況は、番組でとりあえずご確認ください。

ひとつだけ、ヘエ?と思ったのは
「クリント・イーストウッドと撮影後、
 のみにいったりするのか?」という質問に対しては
「ノー、アブソリュートリー!」
(ゼッタイそういうことはない)
という答えが返ってきたこと。
そういう仕組みになってないらしい。
日本とはずいぶんちがう。


(『英語でしゃべらナイト』は
6月20日(月)NHK総合で
夜11時15分から放送される予定です)

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2005-06-17-FRI

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