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虚実1:99
総武線猿紀行

総武線猿紀行第220回
「え、その場面ホント?
 『ラストサムライ』を2倍楽しもう!」
 〜佐伯先生と新春・武士の勉強〜その7〜
 明治の戦いにヨロイカブトは使わないンダヨ!

先日は、英国の王子が、
パーティでナチスのかっこうをして
(ザ・フーのキース・ムーンみたい‥‥)、
大ヒンシュクをかい、
王家の命でドイツに研修にいくことになったとか‥‥
その際の報道で目を引いたのが、
英国でもアウシュビッツを知らない10代が
50%を超えたとか。
日本でもアメリカと戦争をした過去を知らない若者が、
すごく増えているんですよね。

そうした状況からすれば、武士について
ある程度メチャクチャな知識になってもしょうがないのか?
しかしですよ、たとえば
「江戸時代に電気があった」とか
「鎌倉時代に洋服を着ていた」
みたいなこと考えてるような頭の中では、
なにか心の基本的な形が崩れるような気もします。
自分の姿を整えるための歴史知識がほしい。
いついつにはヨロイカブトが使われたてたとか、
そうじゃないとかは、
日本人の記憶を作るベーシックな知識のような気がします。

明治を迎えるころの武士はどういう姿だったのか?
レンタルDVDにワイン、カマンベールでも片手に、
佐伯先生による、確かにお得なウンチク、
新春、新しいジャパネスクなひとときを貴方に‥‥。


先生、こんにちわ。

「こんにちわ」

さて、舞台は江戸。
なぜか天皇に接見が許された
反乱軍の勝元(渡辺謙)のところに、
ネイサン・オルグレン(トム・クルーズ)が
会いにいきます。
勝元は、さすがに政府により監視されてます。
オルグレンが訪ねた勝元の宿舎には、
政府の刺客<またしても忍者など>が送られます。

「あらためて、政府側が忍者なのがすごいですね。
 『時代は変わった』というのは、
 一時代古い方に変わってしまったのか、
 とか言いたくなるような光景ですね。
 カタナの戦いにしないと面白くないからでしょうが、
 ここでは、狭いところでワザワザ弓も使っています。
 西部劇が入っているんでしょうか?」


西部劇ではインディアンが弓矢、白人は鉄砲ですね。

「『野蛮人側は鉄砲を使わない』のが西部劇の原則ですが、
 ここでは逆ですね。
 政府側が弓矢ですから」


勝元側の身内が弓矢を一身に受けて壮絶な死を遂げますね。

「弁慶の立ち往生をここに加えたってことでしょうか?
 明治に弁慶の立ち往生というのは、スゴイですね。
 それにしてもわからないのは、勝元の立場、役割。
 彼は、民を守っているのか?
 それとも武士制度を守ろうとしているのか?
 それともお上(天皇)を守る役割なのか?
 全くもって、勝元はナゾの立場です」


さて、いよいよ富士山麓から、
勝元の軍団がイクサに向かって出陣です。
小雪は自分のカタキであるオルグレンに亡き夫の服を着せ、
ちょっとラブラブな雰囲気にもなります。
死んだ夫の型しろを、
トム・クルーズに着せて喜ぶ感じですか。
う〜ん。どうっすか? そのへんは。

「現代人が見ればいいシーンでしょうが、
 敵討を何よりも重んじる『武士道』精神の人から見れば、
 『これが夫の敵を討つ最後のチャンスなのに、
  何をやってるんだ、この女は!』
 と、大憤慨でしょうね。
 『そもそも指導者の勝元に少しでも武士道精神があれば、
  こんなことにはならんぞ!』
 とか」


そんなに大きな村でもないですが、
農民も一丸になって戦うんですね。この村は。

「勝元はこの村の何なんですかね。
 こんなに小さくて一致団結している村の親分が、
 中央政府にも顔が利く、というあたり、不思議です」


何度も触れることですが、
農民が軍人にさせられて戦争にかり出されたのは、
明治政府側ですよね。
いざとなるとこうして戦うというようなことが
鎌倉以後にはあったんでしょうかね?

「戦国時代までなら、
 身分がはっきりわからない人が
 戦闘に参加しているというのは普通ですけど、
 江戸時代は武士とそれ以外の身分を
 はっきり分けたわけですね。
 その結果としてできてきた『武士の誇り』を
 守ろうとしているはずですから、変ですよね」


鎧(ヨロイ)と兜(カブト)に身を包んでの出陣です。

「いやはや、笑えますね。
 明治期の戦闘は、もう鎧兜の時代ではありません。
 長州征伐では、まだ先祖代々の鎧兜で
 出陣した人もいたでしょうが、
 そういう人たちは、高杉晋作の奇兵隊や、
 大村益次郎が導入した近代兵器に
 こっぱミジンにされてしまうわけです。
 大砲の弾が飛んでくるわけですからね。
 幕府も最後に頼るのはフランス式の軍隊ですよね」


反乱軍は500人の軍勢だそうです。

「また鳥居が出てきます。
 鳥居くぐっての出陣、
 これはこの映画の白眉ともいえる、
 何とも不思議な光景です」


で、いよいよ合戦ということになります。
戦闘意思の確認がなされますね。

「戦闘意思の確認を、なんと大将である勝元がしている。
 これはヤバい。
 古今東西、どこの戦争でも使者がいくところです。
 なんたって一発撃たれたら、
 もうおしまいですよね(笑)」


戦闘意思確認は明治の戦争でもやっていたんですか?

「戦争をする以上は、
 『本当にやるのね?』という意思確認は
 し合ったと思います。
 降伏の意思があるかどうかは
 確かめておかないといけませんから」



第七回のまとめ

明治期の戦争では、鎧兜が使われることはほとんどない。
鎧兜は大砲でコッパミジンである。
戦闘意思の確認に、大将がいったら、ヘン。
殺されちゃうから。

残念、ギリ!


それでは佐伯先生の著書
「戦場の精神史」を読んでみましょう。
113ページ

合戦現場の武士にとって、もっとも必要な名誉とは、
強さや勇敢さについての評判だっただろう。
「名誉」といえば抽象的だが、その起源は、
おそらく戦場で生き延びるための必要から発している。
動物は戦うときにできるだけ強そうに見せる。
たとえば、猫は全身の毛を逆立てて背を丸め、
尻尾を竹ぼうきのように太くする。
自分の体を最大限、大きく見せているのである。
それと同じように、
合戦がいまだ個人技に頼っていた時代、
敵と対面する時にもっとも重要なことの一つは、
戦う前から敵を威圧すること、
(中略)
向こう見ずで何をしでかすかわからない男だといった
勇気についての評判も、
自分を守ることにつながったはずなのである。


<サエキの解説>
「名誉」という言葉は、現在では、
お金などの財産と同等に、
自分を「エライ」と見せる道具である、と思われています。
しかし、生きるか死ぬかの時代には、
「勇敢だ=向こう見ずだ=なにをするかわからない男だ」
といわれることが名誉。
すなわち、
そんな男とかかわり合いにならないほうが身のため、
と思わせることだったのです。
そんな感覚を思いやることで、
昔の戦いの世のイメージが少しわいてきませんか?
再び今の世を振り返ってみますと、
名誉というか実績や評判が、
ひきつづき世を渡るための武器である、
といえばそうですね。
かかわりあいになりたくない人のことを
指すことはありませんが。
「名誉」、攻撃的な言葉でもあったのですね。

佐伯先生に質問を受け付けます!
シリーズも7回を迎え、そろそろ
「ここはどうなってるの?」
という方もいらっしゃるでしょう。
気楽にメールをいただけるとうれしいです
(お答えできるかどうかは、ケースバイケースですが)
ほぼ日編集部まで「佐伯先生に質問」というタイトルで
よろしくお願いします。


佐伯真一先生
1953年生まれ
専門は中世文学
同志社大学文学部卒
東京大学大学院文学研究科博士課程終了。
著書に「平家物語遡源」(若草書房)他




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所在地:東京都新宿区百人町1-5-1百人町ビル1階
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■内容
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涙と笑いのその波瀾に富んだ人生を描きます。
今や、ギタリストとして
日本でも3本の指に数えられるテクニックは、
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そんな失意の中で彼に救いの手を差しのべたのが、
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尚、巻頭16ページに、
スパイダース時代の写真を入れ込みまして、
往年のスパイダース・ファンにも
懐かしく楽しん頂けることはうけあいです。

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サエキのHPがブログになったよ。
トラックバックとか、コメントとか入れてくれんかいのう。
http://www.saekingdom.com/

サエキさんへの激励や感想などは、
メールの表題に「サエキさんへ」と書いて、
postman@1101.comに送ってください。

2005-01-30-SUN
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