社会で指揮をとっている社長たちから、じかに学ぶ連載。
第3弾はCulture Convenience Club の増田宗昭さんが登場!
Culture Convenience Club は、TSUTAYA事業の、
おおもとを担う会社、というと、わかりやすいかもしれません。



ぼくは忘れやすいから、
書いたメモはかならずコピーして、
社長と社長秘書が
見られるようにしています。

「これはやらなければ!」
と思うことも
すべてメモに書きだすんですが、
書いた瞬間に忘れてしまいます……
だから秘書には
「ぼくを動かせ」と言ってあります。

ぼくはすぐに忘れるプレイヤーになり、
秘書がぼくのマネージャーになるんです。

そのマネージャー役と
セットになって自分が生きるんですね。
はい。
極端に役割を認識しています。
ぼくは新しいなにかに
気づくとかいうことは大得意なんですけど、
管理とか操縦はできません。
社長業ではあるんだけど、
同時にいちばんよく働く
部下の役をしていますね。
はい。

メモはものすごい量になります。
年度計画も朝のメモで
ぜんぶ書くときもあるぐらいですから。
ぼくのメモに書かれたチャートを
パワーポイント化する人がいて、
それをぼくに持ってきてくれるんです。

それをぼくが白紙の状態で見て
また筆を入れて、
そうやって戦略ができあがったり……
そういうものが、
次から次へと生まれていくんです。

ちいさい会社の時は、
そういうことを
ぜんぶ自分ひとりでやっていたんですか?
そうです。
創業のころは手書きの企画書ですよね。
ぼくは創業以来のぜんぶの企画書を
取ってあるんですけど、何十坪とあるんです。
ディレクTVの時のものだとか。
あのう、お言葉ですが……
そんなにあっても、ムダじゃないですか?
(笑)
「生む」っていうことは、
かならず過去からのプッシュがあるんです。

未来は人に伝えにくいけど、
過去は人に伝えやすいじゃない?
過去をシェアすることによって
未来を共有できたりもするんです。

つまりそれはどういうことかというと……
比較的最近にうちに参加したパートナーに、
いきなりぼくが
戦略的なイメージを伝えたとしても、
ぼくの言うことは飛んでいますから
「なんやこれ?
 詐欺師のおっさんちゃう?」
と思いかねないんです。

だけどぼくの過去を知っている人なら
「あいつは言ったらかならずやりよるで」
とわかってくれるわけです。
だからその過去を
シェアしておかないといけません。
そうでないと
話を聞いていても動けませんからね。


なるほどなぁ。
優秀なやつが来ていて、
動ける能力があるのに
すぐに動こうとしません。
そこには理由があるんです。
その整理の仕方も、
いつかどこかのメモに書いたわけですね?
(笑)そうです。
ぼくは思ったことを
ほとんどぜんぶ書くからね。
(笑)つまり増田さんは、
メモを生みだす女王蜂のような人なんですね。
他のことは、
基本的には得意ではないわけでしょう?
はい。
ただ、アイデアがどんどん出て、
熟達していけばいくほど、
いらだつことも増えていきますよね。
見えることがどんどん増えるから……
そこは、どうしているんですか?
企画のクオリティは、
情報とお金に比例します。
ただ、情報は配れば
どんどんシェアできますが、
すると次は配られた相手の
「プログラム」や
「経験」が問題になるんです。

たとえばTSUTAYAには
千百のお店があるけれども、
直営店は百店舗しかありません。

会社の立ち位置はなにかというと、
店舗パッケージの企画、
品揃えの企画、販売促進の企画、
サービスの企画、システムの企画……
「こんなキャンペーンをしたほうがいいですよ」
という企画を提供して、
売上に対してロイヤリティをもらう、
というメカニズムができているんです。

簡単に言うと
フランチャイズという言葉になりますが、
ぼくはその言葉はあまり好きではありません。
あくまで企画を企業に
買っていただいているのであって、
だから企画を生みだすのが
ぼくらの仕事だと思っています。

ではその企画をどう作ればいいのか?
たとえば一か月に一店舗で
百万円売りあげがあがる企画を考えたら、
ロイヤリティとして
会社にいくらお金が入るかというと
一か月で五万円です。
これが千百店舗ですから五千五百万円です。
その企画が継続性のあるものだったら、
年間でそのひとつの企画が
六億円のお金に変わるわけです。
印税のような
ロイヤリティのメカニズムがありますから。

だけどもしも
その企画を生みだしたのが
入社したての若い社員なら、
日本の古い人事制度だと、
「給料は年間二四〇万円で
 いいじゃないですか」
という話になってきます。
だけど彼女が生んでいるのは六億円なんです。

かたや偉そうなことをいうおっさんが
「納まりがいい」というだけで
何も生まないまま年間二〇〇〇万円や
三〇〇〇万円の給料を取っていると……
これでは企画会社は成りたちません。

え? 今、その給料体系を、
ひっくりかえそうとしてるんですか?
もちろん。
ひっくりかえす方法論は、
できつつあるんですか?
着手したばかりです。
あぁ、いちばんドキドキするし
おもしろい時ですね(笑)。
創業のころから
世界一の企画会社になるぞと
恥ずかしげもなく言ってきたんです。

ただ、ある時期に
それを見あわせたことがありまして……
企画会社というと、それに憧れてくるから、
けっこう変わったやつが集まるわけ。
そうすると使い勝手が悪いのね。

小売業の経験とかを積ませると
「こんなことじゃなくて、
 ぼくらは企画会社をやりたいんですよ」
みたいなことを言う若者がいまして、
ある時期に人事担当が
「社長、もう企画会社という
 看板を降ろしてください」と──。

やりづらいからなんだ。
フワフワしたやつばかり
来るんだろうね(笑)。

わかります!
だからある時期、
企画会社という言いかたを
ちょっと控えたんですが、
だけどやっぱり
小手先のことでしのぐのではなくて
直球でいこうと心に決めました。

2005-04-04-MON