社長に学べ! おとなの勉強は終わらない。 シリーズ第9弾 「博多 一風堂」店主 河原成美×糸井重里  一風堂のラーメン進化論
 

第8回 ライブ感のある店。
糸井 店舗数としては、
「一風堂」がいちばん多いわけですよね?
河原 そうですね。
糸井 で、「一風堂」には
新しいニュースはそんなにないけど、
しっかりとお客さんが付いてて、
ラーメンを食べに来てくれてる。
河原 はい、ありがたいことです。
糸井 そういう安定した状態を
ありがたいと思うと同時に、
開発してきたご本人は退屈になるんですか?
河原 あーそうですね、
自分が飽きっぽいのはあるかもしれません。
糸井 会社は飽きたっていわないですもんね。
河原 うーん、でもやっぱり、まだまだ
「一風堂」もできあがってませんので‥‥。
糸井 あ、そう思われているんですか。
でも、あんなに安定しているのに、
すごく変化させることはむずかしいですよね?
河原 そうですね。
「一風堂」のメニューとか、
商品はよく変化させるんですけど。
糸井 よく存じております(笑)。
河原 (笑)
あのー、この対談のいちばん最初に、
ラーメンは情報になってしまったって、
話したじゃないですか。
やっぱり、そうじゃなくて、
あのラーメン屋行こうぜっていって、食べる。
情報じゃなくて、
ちゃんとラーメンを体験してもらえる店を
作りたいんです。
糸井 ちゃんとラーメンを食べる店。
河原 ちゃんと、お客さんの中で
あそこの店のラーメンが食べたいって
決まってるんです。
「なるほど、こんな味か、わかった」っていう
ラーメンの情報を仕入れるだけじゃなくて、
あの店のおばさんの接客を見に行くとか、
この店のおっさんが
相変わらずダサくておもしろいとか。
で、ラーメン食べて、あぁうまかったって帰る。
そういう店を作りたいんです。
糸井 はい、はい。
河原 一次情報ですよね。
誰かの情報を見て、
自分に引き寄せるんじゃなくて、
自分が食べたもの、見たもので判断していく。
そういうものを、俺から出していきたいんですね。
糸井 もう、体ごとですよね。
ライブが流行ってるっていうのは、
そこだと思います。
この間、ぼくが監修して出した
『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』
っていう本があるんですけど、
グレイトフル・デッドっていうバンドは、
ライブを楽しくやれるっていうことを
ずーっと守ってきたんです。
ライブが楽しくできればいいから、
お客さんがそれを録音するの、
オッケーしちゃうんです。
河原 ほおー。
糸井 録音するのにいい場所まで、用意したんですよ。
で、素人が撮った海賊版が
いっぱい世に出たことが
逆にチラシ代わりになって、
ライブのチケットはいつも売り切れ。
この楽しさは体験しなきゃだめだって、
お客さんが思ったんですよね。
河原 すごい人気に。
糸井 うちにレコードがあるからライブはいいやって
なっちゃってたら、グレイトフル・デッドは、
もう商売になんないんですよね。
河原 飲食店舗、ラーメン屋も含めてですが、
食を体験できるようなところが、
やっぱり伸びてるんです。
飲食業でも、
一次情報の発進力で勝ってるところが
流行ってますね。
糸井 いわば、ライブ感のある店ですね。
河原 そうそう、ライブ感のある店。
今の「一風堂」に足りないものは、
ライブ感なんです。
糸井 ラーメン屋のライブ感が足りない。
河原 そうです。
たとえば、スープを店で作るのと、
工場で作ったのを温めてだすのとでは、
ライブ感がぜんぜんちがう。
糸井 違いますね。
「一風堂」のスープは工場で作ってるんですか?
河原 店舗で作ってるところと、
工場のものを使っているところがあります。
最初は店舗で作っていたんですが、
スープを各々の店で作ると、
味にブレができてしまうんです。
なので、ある時期から
工場で一気にスープをとって、
それを店に配送するようにしました。
糸井 味のブレは、気になりますよね。
河原 これも最初はずいぶん試行錯誤して。
工場でもおいしいスープは取れますが、
その場で作っている感じ、
つまり、ライブ感がなくなりますから。
糸井 悩んだでしょうねぇ。
河原 で、今、やっぱりラーメン屋には
ライブ感が必要なんじゃないのって考えていて。
全店でスープをとろうぜって話をしてます。
糸井 うん、やっぱりライブ感は欲しいですよね。
あの、わさわさ揺れた感じっていうか。
河原 まずは、「一風堂」全店にスープ釜を置いて、
もういっぺん、わさわさした感じとか、
がさがさした感じに置き換えていく。
「一風堂」がライブ感を取り戻せれば、
何とかなっていくんじゃないかなと思うんです。
糸井 うん、うん。
河原 だけん、そのエネルギーのもとを作るために、
原点になるようなラーメン屋を
俺に新しく1軒作らせてみないかといってます。
で、俺が作りたかったラーメン屋って
こんなんだよっていうのを
スタッフとか、みんなに見てもらって。
糸井 はあーー。
エネルギーの源になるお店ですか。
河原 俺が考えてる商品は、もうできてるんです。
でも、これを「一風堂」で出したら、
「一風堂」じゃなくなってしまうんです。
糸井 それはだめだ。
河原 やっぱり、ライブ感を出すためには
商品を180度変えないかんけん。
糸井 だから、もう1軒新しい店を作って、
別の照明を当てたいんですね。
河原 そうなんです。
そして、スタッフたちと、
こういうライブ感のある店を作っていくぜ。
それが俺たちのコミュニティだ、みたいなことを
いっていきたいわけですよ。
糸井 なるほどー。
河原 やっぱり現場仕事の立ち上げとか、
やりたいことをする機会が少ないと、いかんね。
自分のエネルギーがどんどんなくなっちゃう。
糸井 プレイヤーとして活躍してなきゃ、だめ。
河原 そう、自信がなくなるのよ。
糸井 え(笑)。
河原 いや、ほんとほんと(笑)。
俺、大丈夫かなって。
国内に店はたくさんあるし、
ニューヨークの店にもいっぱい人は来てます。
でも、俺、なんもしてないもんって感じで。
やっぱり、
プレイヤーとしてグラウンドにいないと
だめなんだな、と思いますね。
糸井 そうかー。
あんなに味には自信があるのに(笑)。

(つづきます)
2012-05-10-THU
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