河原	あとは、そう、 ラーメンを作るときに大切なのは、 湯切りとか、麺入れるタイミングとか、 そういう部分ですね。 「いかに手早くできるのか」、 これがおいしさにつながってきます。
糸井	手早く。
河原	もう、俺はそんなこといちいち考えんですけど、 20秒ぐらいのときに麺の状態はこうなるとか スープはちゃんと熱い、みたいなこと、 そういうのはわかっとらんとだめです。
糸井	はい、はい。
河原	以前、「がんこラーメン」の一条さんが、 ラーメンとは？　って聞かれたときに 「熱さとしょっぱさ」って答えたんですよ。 たしかに、 日本では食事における熱さは大切ですよね。
糸井	はい、熱さはすごく大切です。
河原	しょっぱさっていうのは、 最初に飲んだときの味っていいますかね、 スープのひと口目みたいなところ。 まぁ、でもやっぱり熱さでしょうね。 熱さを逃したら、もう話になりませんから。
糸井	ラーメンをつくるときには、 熱さを失わせる過程がいくつもありそうです。
河原	チャーシューやネギを入れるとか。 温度が１度、２度下がったら、もう、 口の中に入ったときの印象がまったく違います。
糸井	料理の中で、熱のやり取りは ものすごく加減がむずかしいところですよね。 だから‥‥やっぱり早さですかね。 「この人は上手だな」って思える料理人は、 加減がむずかしいところも含めて、 全体的に「早い」気がします。
河原	うん、早いですね。 「一風堂」は60軒ぐらいあるんですけど、 やっぱり店によって 速度のばらつきがあるんです。
糸井	そうですか、ばらつきますか。
河原	はい。 何かが良くない店は、やっぱり遅い。 もう、最初から遅いんですよ。 ラーメンを作る前からです。 いらっしゃいませから注文聞きに行く、 ひとつひとつの動作が、 １秒半ぐらいずつずれていって、 すぐに10秒とか20秒とかの違いになって‥‥。 それって心地悪さになりますよね。
糸井	うーん‥‥。 ‥‥あの、今、ふっと思ったんですけど、 そいういうのは、 サッカーと野球の違いかなって。
河原	サッカーと、野球？
糸井	サッカーって、 どうしよう？　って考えてる間に もうだれかがじゃまに入ったり、 不意にパスが来たりするじゃないですか。 でも野球って、 １プレーごとに時間が止められますよね。
河原	‥‥ああー、そうですね。 はい、はい、わかります。
糸井	時間が止まってるときには、 「次のボールはフォーク？」とか考えたり。
河原	腕なんかまくったりするね。
糸井	いったん帽子をはずしたり。
河原	監督さん来たりね。
糸井	そうそう（笑）。 野球のやり方で考える人と サッカーのやり方で考える人では、 ラーメンの作り方が きっとぜんぜん違いますよね。
河原	ああー、もうぜんぜん違いますね。
糸井	ステーキ１枚焼くにしても、 「火を通さなきゃいけない」 って義務感がある人が焼くと、 やっぱりおいしくないじゃないですか。
河原	そうですね。
糸井	その一方で、 ちょっとリスクがある調理をする 料理人っていますでしょ。 「ほっとけばいい感じで焦げる」とか 「すこーし生」っていうのが計算に入っているとか。
河原	はい、はい。
糸井	そんなふうにね、調理場という場所は、 料理人がもっとわがままにしていい、 そういう場所だと思うんです、本来。 「誰かに食べさせるため」を考えすぎてると、 なんていうんでしょう‥‥ 「料理」が「時間」を、 どんどん食っていくような気がします。
河原	時間、食ってきますね。
糸井	「俺が王様」って料理人は、 野菜炒めでも、 「これ生？」っていうぐらいのを 平気で出しますもんね。
河原	そうそう、そうですね。 だから名人といわれる人はほとんど、 サッカープレイヤーですね。
糸井	うん、たしかに サッカープレイヤーですね。
河原	うん、ほんと‥‥（立ち上がる） もう、具とかのっけんのは、ちょんちょんの、 最後にこっち向いたときに、 塩をこっから、ばっ！
糸井	そうだ、そうだ（笑）。
河原	失礼なやつだなと 思われるくらいの動きで。
糸井	ほーんとにそうだ。
河原	こうやって（ぴしっと立ち、一礼する）、 深々と礼なんかしないもんね。 「料理長、お客さんがお見えに」とかいわれて、 うむ、とかいって（笑）。
糸井	（笑）
河原	おもむろに立ってね、 かっこよく見えるようにしてね。 ゆっくり腕まくりばして、 「じゃあ、始めます」みたいな。
糸井	そんなこと、 サッカープレーヤーは、しない（笑）。
河原	こういうのは、 なんだか、おいしゅうないですわな。
糸井	「食」って、生きることに近いから、 何か必死さがないと、おもしろくないですね。 きっと、気分が沸かないんだな。
河原	あー、そうだと思います。 （つづきます）