社長に学べ! おとなの勉強は終わらない。 シリーズ第9弾 「博多 一風堂」店主 河原成美×糸井重里  一風堂のラーメン進化論
 

第2回 時間の長さとスープのおいしさ。
河原 ちょっと話を戻しますけど、さっき、
豚骨スープがベースの「一風堂」が、
東京ラーメンとか博多つけ麺とか、
いろんな種類のラーメンがメニューにあって
びっくりしたって、おっしゃったでしょう。
これには、ちょっときっかけがありまして。
糸井 ほお。
きっかけがあるんですね。
河原 「一風堂」が福岡で人気店になったとき、
新横浜ラーメン博物館から声がかかって、
94年のオープン時に出店したんですね。
糸井 はい。
河原 で、当時のガスって、熱量が低かったから、
博多ラーメンのベースとなる
豚骨スープを作るのに、
24時間ぐらいかかったんですね。
豚の頭は固いですから。
糸井 24時間ですか。
河原 そうなんです。
新横浜ラーメン博物館に出店している
ほかのラーメン屋さんの人たちは、
だいたい夜12時か1時ぐらいには
片づけが終わって、帰るんですよ。
みなさん、3時間とか5時間ぐらいで
スープができるから、
当日の朝に仕込みをやるんですね。
でも、俺たちはスープ取るのに
時間がかかるから、
みんなが帰ってもずっと残ってるんです。
糸井 はい、はい。
河原 やっぱり、
見とかなきゃいけないんですよ。
糸井 定期的に混ぜないと、
温度にばらつきが出ますよね。
河原 そうです。
あと、豚骨スープって、
詰めてはのばし、詰めてはのばしで、
旨味と甘味を抽出していくんです。
そんなことばっかりやってるから
帰れないんですよ。
当時はふたりしかいなかったからですね。
糸井 ふたりでは、帰れませんね。
河原 しょうがないから、
いろんなお店の冷蔵庫を開けまくってね。
糸井 ほ。
河原 やっぱり作りたかったんですよ。
あの店のおいしい味噌ラーメンとか、
この店のしょうゆラーメンとか、
作りたかったんです。
でも、どうやって作ってるのか、
ぜんぜんわかんないんです。
だから、まずは、
どんな食材を使っているのかな、と思って。
そんでもう、人もいないから、
冷蔵庫の中を見てたんです。
「しょうがねえよな、ごめんね」っていって。
糸井 ごめんねっていってたんだ(笑)。
河原 そこは、ちゃんと(笑)。
冷蔵庫にごめんねっていってから開けて、
「これは、どこどこのしょうゆだな」って。
そんなことばっかりしてました。
糸井 はい、はい。
河原 そして、次の日の朝になったら、
ほかの店のみんなが仕込みをしに来る。
で、そのときには、俺の頭の中では、
もう仮説ができてるわけね。
冷蔵庫の中身を見たから。
あのスープはこうやって取るんだぜって。
糸井 もう、頭の中には仮説が。
河原 仮説がたったら、それが合ってるかどうか、
確かめたいわけですよね。
なので、ほかの店のオヤジが
仕込みをしているところに行って、
話しかけるんですよ。
今日も忙しいかなとか、なんとかいいながら、
横目で、あの材料は今入ったとか見て。
糸井 会話していると見せかけて、
盗み見してる(笑)。
河原 じゃあ、またあとで来るねっていって、
3時間ぐらい経ったら、
またそのオヤジのとこに行って、
あ、こんなふうに変わったとかを見て、
ラーメンの作り方を覚えてったんです。
‥‥って、すいません、うれしそうで(笑)。
一同 (笑)
河原 いや、そのことは、
あとでみんなにいったんですよ。
ごめん、あんときね、冷蔵庫の中を見たから、
みんなのラーメン作れるよって。
糸井 へぇー!
それで、仲良くなれたわけですか。
河原 仲はもとからよかったですね。
糸井 ああ、だから
冷蔵庫にごめんねっていって、
中身を見れたんだ(笑)。
河原 いやぁ、まぁそんなことがあって、
いろんなラーメンを作る基礎を覚えました(笑)。
糸井 ははははは。
河原 あと、長く時間をかけたからうまいって
わけではないことも、知りました。
自分の中では、ずっと、
濃いスープを取ることがおいしさだったんです。
長い時間かけたら、
濃くてうまいスープが取れる。
だから、自分が作ってたラーメンのスープは
豚の頭の固いところから、
20時間とか24時間かけて出してた。
糸井 ええ、はい。
河原 でも、新横浜ラーメン博物館に行ってみたら、
ほかのおいしい店って、
スープにかけている時間が、
3時間とか5時間でしょう。
糸井 ああ、ショックですね。
河原 そりゃーショックですよ。
3時間でも、
ちゃんとおいしいラーメンになってる。
だから、長ーい時間をかけて
スープを取ったからおいしいって
わけじゃないんだって、学んだんです。
糸井 うんうん。
河原 これ、家庭の味でもそうですよね。
お母さんは家事とかで手一杯だから、
手抜きじゃないんだけど、
食事の支度に時間をそんなにかけてられない。
糸井 家庭の味は、手抜きではないですね。
河原 時間の長さと、製品のよさ。
これは比例するんじゃなく、
別なんですよね。
糸井 長い時間をかけて努力した分が実ったから、
おいしいスープができましたっていうのは、
理解しやすいし、人にもいいやすいですよね。
あそこのスープは24時間煮るらしいよって。
河原 そうそう。
糸井 あと、具材の種類が多いのもそう。
24種類のスパイスっていうと、
何だかおいしく聞こえますよね(笑)。
河原 あー(笑)。
24種類くらいのスパイスで作るときでも、
やっぱり、柱となるスパイスが3つあって、
残りの21種類は、
もう付け足し程度にひとさじずつ
パッパッと入れるようなもん。
ほんとは、3つのスパイスなんですよ。
糸井 うん、そうですね。
河原 それと、あと勉強になったのは、
固い骨からは時間がかかるスープが取れる。
いりこだしとか、柔らかいもんからは、
20分、30分でだしが取れる。
骨の固さとおいしさの抽出には
そういう関係があるんだなってことも、
学びましたね。
糸井 はぁー、そうかー。
いままでの話って、
だれか先生がいるわけじゃなくって、
自分の目で見たり、食べたりして
覚えていくわけですよね。
河原 そうですね、見たり食べたりしてね。
でも、これまた凝り性だから、
そのあと、いろんな食品の研究所とかに‥‥。
糸井 何か行ってそうだな(笑)。
河原 (笑)。
ま、そんなとこに行ってですね。
そしたら、
研究所の人が教えてくれることと、
頭ん中で思ってたようなことが、
どんどん一致していったんです。
一致していくと同時に、
さらに自分でいろんなものを作っていくことが
できるようになりました。
糸井 へえー。

(つづきます)
2012-05-02-WED
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