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社長に学べ!<おとなの勉強は、終わらない。>

社会にでてからの勉強には、
答案用紙もないし、満点の答えもありえない……。
大きな生きた組織を動かしている経営者たちは、
そういう、誰も答えを知らないことや、
学校で教えてくれないことを、たくさん知っている!

よし、おとなの勉強をしてみよう。
いまの社会で指揮をとっている人たちから、
じかに学ばせてもらう連載の第2弾に登場するのは、
任天堂の社長、岩田聡さん(いわたさとるさん)です。


第10回 面談はこんなに大事なのか!



おそらくこの「社長に学べ!」の会話は、
若い女性とかが読んでいるのでしょうし、
「なんで社長に学ぶ必要があるんだ?」
という気分も、あるとは思うんですけど、
やっぱり、学べるんですよね。

たとえば男女がつきあっている状態で、
「明日ふられるかもしれない」
ということについて
心配しつづけてつきあっていたら、
もうなにもできなくなりますよね?
(笑)ええ。
で、どんどん
ますますふられる方向に向かって、
愛の死に進むわけですけど、
ふられてもいいやと思ったときに
「あんた、万引きはやめなさい」
といったら……。
(笑)それは、
ほれなおすかもしれないですよね。
会社の自転車操業状態と男女の別れぎわは、
まったくおんなじなんですよ。
だいたいもう小学生のときから、人間って
ずっと、そんなことで悩んでいるんですよね。

……じつはぼくも、
貸本屋の本を返しそこなって
毎日延滞料がたまっていくということで、
子供のときにうなされていたんです(笑)。

まじめに計算すると、
日が経てば経つほど
延滞料が増えていくわけですから、
もう、子供の金額じゃなくなっちゃうんです。

一日五円だとしても百日で五百円ですし、
「……もうだめだ!」といった日に、
また五円加算されていくわけです。
学校休んで熱のある日とかに、
いつもそのことも考えちゃっていました。

その貸本屋の人たちに道で会って
「おはようございます」
といわれたりするときに、
毎回苦しくて苦しくてしかたがなかったんです。

それが結局、どういう話になったかというと、
もうちょっとワルなともだちの家にいったら、
貸本屋のマンガがズラッと揃えてあって、
「え? こういうの、どうしたの?
 だいじょうぶなの、これ?」
「もうわかりゃしねぇよ、何年も経ってるし!」
もちろん悪い例なんですけど、
どちらにしてもただなにもせず
日々悩むということには
ロクなことはないですよね。

悩むんだったら、大きく悩めばいい。
わたしは思うんですけど、
考えてもしょうがないことに
悩むんですよ、人って。
(笑)うわ! ほんとにそうだ!
悩んで解決するなら
悩めばいいんですけど、
悩んでも解決しないし、
悩んでも得るものがないものを、
人間って、考えてしまうんですよね。
ほとんどすべての人が、
それで悩んでいますね。
クリエイターや受験生の悩みも、
基本的にそういうものが多いですし……。
はい。
それにしても、
わたしがHAL研から離れた場所にいるのに、
HAL研の昔話ばかりに極端に
スポットライトが当たるのは考えものなんですが、
どうしても当たってしまいますよね。
思えばすごい教材をくれましたよね。
つまり岩田さんがその後
任天堂で社長をやっていることにしても、
そのときの経験がなかったら……。
あぁ、絶対できません。
どの教科書読んだって、できないですよね。
といいますか、本読んだって、
そんなこと、できっこないですよ。
似たようなケースが
抽象化して書いてあったとしても、
意味ないですよね。
ええ。
岩田さんの面談については
ぼくは名物みたいに
おもしろがって眺めていたんですが、
「半年にいっぺん全員に会う」ということは、
岩田さんみたいに、ルーティン化した
ムダなことはしないという人からしてみれば、
敢えていちばんムダに見えるような
手仕事にあたるものですよね。

面談する相手の「全員」というのは、
多いときは何人ぐらいだったんですか。
多いときには八十人から九十人ぐらいです。
ひとりについて、
どのぐらいの時間をかけますか。
すごく短い人で二十分ぐらい、
長い人で三時間ぐらいです。
それを、何年間、やっていたんですか?
六年か七年ぐらいです。
それは、ものすごいことだと思うんです……。
はい。
それって
「あんまりおそろしいこと」なので、
そのことをいままで
きかないようにしていたんですが……
その面談というものの内容は、
どういうものだったんですか。
最初に全員に話をきいてみて
「面談してはじめてわかったこと」が
ものすごく多かったんです。

「人は逆さにして振らないと
 こんなにもモノをいえないのか」
とあらためて思いました。


わたしなんかはわりと
相手に機会を作ってもらわなくても
機会を自分で作って伝えればいい、
と思っているほうです。

自分のような人の集まりなら
面談は要らないでしょう。
必要なことは相手にいいますから。
でも、そうではありませんよね。

わたしは
「人は全員ちがう。
 そしてどんどん変わる」
と前から思っていました。
もちろん変わらない人もたくさんいます。

でも、人が変わっていくんだということを
理解しないリーダーの下では、
わたしははたらきたくないと思ったんです。

自分が変わったら
それをちゃんとわかってくれる
ボスの下ではたらきたい……
自分がどんな会社ではたらきたいかというと
「ボスがちゃんと
 自分のことをわかってくれる会社」や
「ボスが自分の幸せを
 ちゃんと考えてくれる会社」
であってほしいと思ったんですね。


それが面談をはじめた動機です。
たいへんだけど、
自分の得るものも多いなとわかりました。
第一回目をはじめるときというのは、
とても苦しい状況でしたよね?
はい。

第一回目というのは
とにかく無我夢中で、
自分の判断の材料を
とにかく集めるんだという気持ちでした。

「どうして会社がこうなったと思う?」
「なにがいけないことだと思う?」
「なにがうちのいいところだと思う?」
「なにに不満があった?」
という話を、ふだんきいたことがない人に、
いっぱいきくわけです。

そしたら、
いろんなことをいってくれるわけですね。
そうして面談をしているなかで、
話をきいてくれるわたしに対して
信頼してくれる気持ちが
強まることがわかるんですよ。

いろんな人に面談すればするほど、
わたしはいろんなことがわかりまして、
そのなかから
どういうふうに
組織を作りなおして、
どういう運営をしたらよくて、
なにがみんなのやる気を
ひきだすことに役にたっていて、
なにがみんなの
やる気を阻害しているのかとか……

すべて見えてくるんですね。


第10回おしまい。明日に、つづきます
2005-03-14-MON