Hobo Nikkan Itoi Shinbun 社長に学べ! おとなの勉強は終わらない。vol.6  株式会社パソナ社長 南部靖之×糸井重里


第3回 知識は伝授される。

  南部さんはご自分で「アナログだ」
とおっしゃいますけれども、
パソナのビルの地下に
ものすごくハイテクなもの
構えていらっしゃいますよね。
 
最初、あそこに小泉総理が来られて
苗を植えたでしょう。
じつは、うまくいかなったんですよ。
小泉さんに申し訳ないことしたんだけどね。
これはみんなには言えないから‥‥
別に言ってもええねんけどね(笑)。

そのあと、東京大学、東京農大をはじめ
いろんなところの学者が20名ぐらい
集まってくださったんですよ。
みんなが研究しあって
照度や酸素、いろんなデータを
ごっそりとまとめました。
そこへ京都の、農家の方が
一人来られて。
  つまり、現役ですね。
「農学栄えて農滅びる」とも
言われますから。
 
そう、現役。
70ぐらいの、森田さんとおっしゃる方なんですが、
その人が僕に
「南部さん、
 これは絶対うまくいかん。3つの原因がある」
と、田んぼを見てすぐに言うんです。
「見たらわかる。まず、この部屋に風がない」
  なるほど。すごいな。  
風がないから、
大きな扇風機を2つ買ってきて、
部屋中に嵐のように
風を送れっちゅうわけです。
過酷な状態にせよ、と。
「魚でもそうだろう?
 寒流と暖流にもまれて、みんな強くなるんだ」
  生きなきゃ、と思うわけですね。  
そう、生きなきゃ。
「人間もそうだろう?
 だから、強くなるために風を送れ」
「へー、ああ、そうですか」
「2つめは、この部屋には雨が降らん」
  水は与えているけど、雨が降らないんですね。  
そう、問題は水じゃない。
雨がバシャバシャとあたることによって、
植物に酸素が入っていくんですが、
そこでは起こらないんです。
  それが、2つめ。
いわゆる、通気ですね。
 
3つめは、
「苗を植える間隔が数センチ狭い」
と、教えていただきました。
欲かいてたくさん採ろうと思うから‥‥(笑)。
  わかります。
ありがちなんですよね(笑)。
 
たった1人の農家の方、
こちら側は20人ぐらいの学者たち。

で、どのデータを信じるか、
迷いまして。

そもそも学者たちの言葉を聞いて
作った畑がうまくいかなかったんだから、
よし、この1人の農家の方の言うことを
信じてみようと思ったんです。
そしたら、うまくいった。
  今までの経験でそっちを選べという声が?  
そう。
ハイテクとかITとかいうけども、
やっぱり、
知識は伝授されるということだったんです。
知識は伝授されて、経験や歴史の中から
いろんなものが成功に導かれていくんですね。
僕は韓国ドラマの『チャングムの誓い』
大好きなんです。
  『チャングム』はあっちこっちで
流行ってますねえ。
 
ビデオを全部、2回見ましたよ。
あれ見はじめたらね、
「ちょっと待てよ」と。
  そうですか。大変だ、こりゃ。  
ものすごい勉強になるんですよ。
歴史は伝授される、知識も伝授される。
その、京都の農家の方は、
おじいちゃん、おばあちゃん、
その前のおじいちゃん、おばあちゃんが
ずーっと、雨風と闘ってきたんです。
自然と闘ったその経験は、
ITに勝るかもしれない。
  僕たちが作った
「だれでもつくれる永田野菜」DVDも
そういう内容なんです。
やらないとわからないこと、
経験を通してしか見えないことは、
じつに多くて、豊かなんです。
いちばんすごいと思ったのは、
買ってきた苗を畑に植え替えるときに
根を洗って、半分くらいに切っちゃうことでした。
買ってきた苗は、肥料たっぷりで
育ってしまっているから、
根を切って、養分を全部取っちゃうんです。
そうやって植え替えることによって、
養分を新しく取り直さなきゃならないんで、
どんどん根が張るんですよ。
 
わかりますねえ。
  ふつうの常識だと、
苗の根についていた土を
壊さないようにして、そーっと植えますよね。
 
守りながらね。
  おもしろいですよ。
人間と同じで、
いま、この土で習うことを全部吸収しろよ、
だから、これまでのはいちど空っぽにしちゃえ、と。
 
そういうことがこのDVDに入ってるんですね。
これは販売してるんですか。
ちょっと買わせてもらおう。
うちのメンバーみんなに研究させます。
  僕、フランスにある
マリー・アントワネットの農園を
見に行ったことがあるんです。
そこは、王宮の野菜を作っている農園です。

農学博士が寄ってたかって
作った農園なんですけど、
野菜をもいで食べたら苦くて食えなかった。

パリの最高級の食材を扱うお店の
本店で売ってるトマトを買って、
急いで外に出て絞って、
糖度を調べたんです。
全然だめでした。
こっちで売ってる
あまりおいしくないトマトと同じぐらいなんです。

ヨーロッパで
いちばんの農業国といえばフランスなんですけど、
それでそのレベルでした。
 
おもしろいねえ。
今ちょうど
いろんな栽培を自分でやりはじめたんですけど、
なかなか難しくて。
  経営者の方がこのDVDを見ると、
わかると思うんですが、
永田農法はほったらかし農法に見えて、
実は「超管理」なんです。
それは、人間も同じかもしれない。
 
(明日につづきます!)
2006-09-07-THU
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