POMPEII
「ポンペイに学べ」
青柳正規教授と、鼠穴で対談しました。

第5回 価値って、どこに置いたらいいの?


糸井 ぼくが、最初にお会いした時に、
   いちばん驚いたのは、
   「豊かさとは何か」という問題を
   青柳先生が、ずっと考えていらっしゃるんだと
   わかったからなんですよ。

   これは、人間が生きるって、
   いったい何だろうという、ちょっと
   青臭いもの言いともつながることなんですけど。
   つまり、価値をどこに置くか?
   という話になってくると思うんです。

   文化財としての価値のお話なんかも
   いま、自然に出ましたけれども、
   まだまだ今は価値というものが、いわば
   「量」であらわされてしまっていますよね。

青柳 そうですねえ。

糸井 だけども、計量化したうえで
   数字がたくさんあがるほうが、
   価値が高いとでも言わんばかりの状況は、
   ストック中心の考えかたにすぎないわけです。
   工業社会から情報社会に移ったと言われるのに、
   まだ工業的なものさしで見てしまうことになる。

   ストックの考えかたを
   はずしてものを考えたほうが、
   これからの時代をよくわかる気がします。
   まず、その「ストックではない豊かさ」を、
   ローマ時代の人々の暮らしを通して、
   ぼくは青柳先生に学んで、うれしかったんです。
   日本で言うと、何時代でしたっけ?

青柳 ちょうど、弥生ぐらいです。

糸井 そんな昔に、
   あそこまで豪華で装飾に満ちた文化がある。
   もう、いまぼくたちの持っているような要素が、
   すでにぜんぶ、あるじゃないか、と思えたんです。

   だったら、
   最近の出来事を見てあくせく考えるよりも、
   いま起こっていることにしても、
   「すごい昔に、すでにあったものだ」
   というように考えてみるほうが、
   これからの生き方のヒントになるような……。

   以前に、青柳先生に
   「いまのコンピュータが、
   ローマ時代の奴隷にあたるわけですね」
   と訊いてみたら、
   「いえいえ、いまのサラリーマンが、
   ローマ時代の奴隷にあたるんですよ」
   と言われて、それがまったく当たっていたから
   すごくおもしろかったんです。
   いったん古い時代の何にあてはまるかを考えて、
   「ああ、奴隷なんだ」
   と一度きちんととらえてみることが、
   次のステップを探る時には、
   とても重要じゃないかとも思いますから。

   そういう、青柳先生が
   昔のことを調べたうえで現在を見るとわかる
   いろいろなことっていうのは、
   この本を読んでくれる人には、
   生きていく上でのヒントになるんじゃないかなあ。

   どこからお話を進めようかなと思うのですが、
   「豊かさ」ということについて、
   青柳先生ご本人とくっつけて考えると
   おもしろいんじゃないでしょうか。
   つまり、青柳先生も、実は以前は
   ストック式の考えかたを、当然お持ちに
   なっていた時期があったと思うんです。

青柳 ああ、ありましたね。

糸井 けれどもおそらく、いまやっているような
   お仕事をなさっているプロセスで、
   研究が進むにつれて、自分の中にも
   豊かさをどうとらえるかについて、
   変化がおありになったんじゃないかと思うので、
   そのあたりのお話から伺えたら、
   いいんじゃないかなあと考えました。

青柳 はい、わかりました。


(つづきます)

2001-10-17-WED

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