ポカスカジャンの脱線マガジン。

ツアー日記

9月3日(金) ハードボイルド風

AM9:30、ヤニとサンダルウッドの香りが
俺の鼻孔をくすぐり、俺は目を覚ました。
このスプリングのイカレた硬いベッドで
朝を迎えたのは約1ヶ月ぶりだ。
だが、この朝の情景を懐かしがる時間は無い。

そう、俺は約2ヵ月の懲役の様なツアーの途中で
2日間だけ仕事の為に呼び戻されただけ。
今日はその2日目、仕事に取りかかる日だ。
寝起きの一服もそこそこに準備を始める。
今日の仕事は日本テレビの「THE夜もヒッパレ」に
出演し、Mr.シュガー(佐藤正宏)と
Mr.プラム(梅垣義明)と一緒にラルク・アン・シエルの
ドライバーズ・ハイという曲を歌う、という内容だ。

AM10:45、待ち合わせ場所の地下室(稽古場)に
着いた。まだ誰も来ていないらしい。
と、その時、牛を絞め殺したような絶叫が響いた。

「誰だ!!」

俺は振り返り、その正体を確認し、
そして深いため息をついた。

Mr.プラムが今日の歌の練習をしていただけだった。

「キーが合わなくて高いところが出ないんだぁ」(いい声)

「フー……脅かすなよ」

俺はそう言うと、冷蔵庫からBeerを取り出し
プルトップをひねった。
350mlのBeerが半分ぐらいになった頃に
Mr.アゴ(大久保乃武夫)と
Mr.アップル(玉井伸也:青森出身)がやって来た。
そして俺達はこの仕事(ヤマ)を成功させる為に
慎重な計画を立てリハーサルをし、現場へと向かった。

PM2:00、日本テレビのパーキング入口、
セキュリティに車を止められ、俺達に緊張が広がる。

「どちらへ行かれるのですか?」

「…………」

「すいません、どちらへ行か……」

「夜もヒッパレのトリ(収録)に来たんですが」

Mr.J(平間淳マネージャー)だ。
彼がうまく切り返し、俺達はピンチを切り抜けた。
頼りになる奴だ。

俺達はスタジオに入ると、すぐにカメリハをすませて
楽屋へと戻った。

「この分なら本番もうまく行きそうだ……」

そうつぶやくとテーブルに積まれた2種類の弁当に
目をやり、そして頭をかかえて崩れ落ちた。

「のり弁とそぼろ弁当……どっちにすればいいんだ」

俺は悩んだ。

「俺にのり弁に付いてる一口カツを裏切れというのか……
 うぅ、でも、そぼろ弁当の煮卵の魅力もそこはかとなく
 ……うぅー」

俺は10分ほどの自分との戦いの中でやっと答えを出した。
昔からの付き合いの、のり弁を裏切る事は出来なかった。
俺はオカズの華々しさよりも、メインであるのりご飯の
シンプルさを受け入れざるをえなかった。

俺は夕食という名の格闘を済ませて、
本番のPM7:00を待った……。

PM7:15。
15分遅れで計画を実行するハメになった。

「何か、イヤな予感がする。
 この15分遅れが、全てを狂わさなければいいが……」

いよいよその時が来た。
カウントダウンが始まる。

「ハイ本番行きまーす。5秒前、4、3……」

Mr.アップルのギターのリフで始まるイントロで入り、
Mr.プラムがメインで歌い始めた。
Mr.アゴのブルサンダー99(バケツドラム)が
鋭くリズムを刻み、
Mr.シュガーのシャインヘッドダンスを引き立たせる。

「OK! 何もかも順調だ」

そう思った時に神は俺達に背中を向けた……。

Mr.アップルのメガネが落下し、それに気を取られた
Mr.アゴのスティックが手を滑り、それを見ていた
俺がキメのフリであった帽子を投げるのを忘れ、
リズムを失ったMr.プラムの歌が走り出した……。
(この模様は、9/11オンエアの「夜もヒッパレ」で
確認してほしい)

戦いは終わった。
何はともあれ終わった。
俺は最後の1本のハイライトに火をつけ、
楽屋の椅子に深く沈み、
このまま眠ってしまいたいと思った時、
Mr.Jが言った。

「時間だ……」

「……?……」

Mr.アゴ、Mr.アップル、そして俺は困惑の表情を
浮かべたまま、そう言ったMr.Jの後に付いて
表へと出た。

俺達は笑った。笑うしかなかった。
そこに待っていたのはポカスカ号。

PM10:00に俺達は今から福島県へと向かう。
まるで強制送還でもされる様に……。

                 つづく(ツアーが)

(PSJ/中山省吾)

1999-09-09-THU

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