HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

編んで着て(ときどき)うろちょろするわたし

ニットデザイナー・三國万里子さんが
日々のあれこれを写真と文章でお届けします。
編みものの話はもちろん、洋服のことや
街で見かけた気になるものなど、テーマはさまざま。
三國さんの目を通して世界をのぞくと、
なんでもないことにたのしさを見いだせたり、
ものづくりへの意欲を呼び起こせたりする‥‥かも?
期間限定、毎週火曜と金曜に更新予定です。

三國万里子さんのプロフィール

2018-11-30

BETTER IT IS TO GET WISDOM THAN GOLD.
金より叡智を得る方がいい。

ロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバートミュージアムで
買ったバッグですが、実は文言が直球すぎて、
持つときに少し照れ臭いのです。
なのですが、グラフィックとしてかっこいいのと、
厚手のコットン生地で、
重いものをたくさん詰めても平気な丈夫さがありがたく、
資料をどっさり持ち運ぶ日には重宝しています。

さて、このバッグから始まるコーディネートって、
たとえばどんな?
ええと‥‥。
「スコティッシュ」はどうでしょう、
イギリスつながりということで。
目の覚めるようなロイヤルブルーのセーターは
古着屋で見つけたもので、素朴なタグがかわいい。
どこのメーカーとも書いておらず、ただ
「100% Pure Cashmere MADE IN SCOTLAND」とあります。
スコットランドは今も
カシミヤのニットを得意としていますが、
特に昔のものは、ブランドのものではない、
こんな名のないメーカーのものもすてきです。
どこが今のカシミヤと違うかといえば、それは「厚み」。
着古された中古のセーターでさえ、
それなりにしっかりした手応えが残っていて、
その厚さが生む、とろんとした手触りと
暖かさがすばらしいのです。
昨今の手頃なカシミヤセーターは、少し薄手すぎて、
寒がりなわたしには物足りない気がします。

スコットランドといえば、もうひとつ忘れてならないのが
シェトランド諸島のフェアアイルニット。
このコーディネートで首に巻いた
Miknitsの「すみれのマフラー」は、
Made in Japan by Mariko、つまり
わたしが編んだから日本製ですが、
使った糸はJamieson’s というメーカーの、
「Shetland Spindrift」。
かの島の羊の毛を、島の工場で染めて紡いだ、
丸ごとシェトランド諸島の産物です。
この糸のことは話しだすと長くなっちゃうので
今は省略しますが、それはそれは美しい色糸で、
これで編む時間は、ひとことで言うと、至福です。

今日のアクセサリーの主役は
ヴィクトリア朝イギリスの指輪。
叡智を表す鳥とも言われる「フクロウ」が、
輪の上に載っています。
銀の体に散りばめたのはダイヤモンド、
足先には金の止まり木。
今日の文頭の格言など、どこ吹く風というような、
小さくてゴージャスで、賢い風貌のフクロウです。

そうね、ほどほどの金ならば、叡智を邪魔しはしないと、
わたしも思うんですよ。

2018-11-27

Miknits2018、swirl
部屋ばきによし、お出かけにもよしの
厚手のモヘアの靴下です。
合わせたのは「Arts&Science」のごついサンダルと、
「Paul Harnden」のどた靴
(とわたしは呼んでいる、でも大好きな靴です)。
重量感のある履きものと相性がいいですね。
スリッパはMiknitsの撮影の後で、
スタイリストの岡尾美代子さんからいただいたもの。
「もこもこ」プラス「もこもこ」による摩擦係数の上昇で、
家中忙しく走り回っても、脱げにくいし、
言わずもがなですが、すごーくあたたかいです。
足があたたかいと、わたしはなぜか首と頭の力が抜けて、
ふわっと楽になる感覚があります。

2018-11-23

「ロッキー・ホラー・ショー」の
Tシャツを引き出しの隅に発見し、
おお、なつかしい、
久しぶりに着てみようじゃないか、と
コーディネートしました。

なかなかアクの強いTシャツではありますが、
あまり難しく考えず、いつもの服を合わせます。

古着(Tシャツ、茶色のカシミヤのカーディガン、
リーバイスのジーパン)に
古いアクセサリー(ヴィクトリアンのピンキーリング二つ、
ピストルのチャームのネックレス)、
そこに自分で作ったサムシング
(Miknitsのカシミヤストール、starry)をプラスして、
ピアスとバッグだけは新品で買ったもの。

こんな感じに年代やタイプの違う
アイテムを混ぜて着ると、
わたしだなあ、と思えて落ち着きます。

赤いチェーンバッグ、かわいいでしょう?
イギリスのMimiというブランドのものです。
値段もかわいくて、たしか2万円台でした。
財布とiPhoneと、薄い文庫本くらいしか入らないし、
案外ずっしり重いのですが
(チェーンが武器になりそうなくらい
しっかりしているのです)、
それでも素朴でキュートなところが気に入って、愛用しています。

2018-11-20

夏の間に活躍した薄手のワンピースを、
寒さが厳しくなる前にもう少し着たい、
と思うこと、ありませんか?
わたしはあります。
そこで、天気のいい初冬の東京を
こんな格好でうろちょろしています。

「木漏れ日をそのまま布にした」
というような柄の薄い絹を、
細く細くプリーツにして、
柄の一色とぴったり合った裏地をつけ、
裏地の共布を肩のストラップにした、
フランスのヴィンテージのサンドレス。
タグがついておらず、
作りにホームメイドらしい特徴が見えます。
一体どんな人がこんな詩的な服を作ったのだろう、と
ぼんやり見つめているうちに時が過ぎるような、
そんなワンピースです。

合わせたのはMiknitsのhoneybee柄のカーディガン
シルクのふわふわプラス、モヘアのふかふか。
これだけだと風を通してしまうので、
間に少し厚手のダンガリーシャツを挟みます。

アクセサリーは、
おそらくワンピースと同じ年代に作られた、
水色のプラスティックに
ラインストールを散らしたバングル。
猫のイヤリングは表情がおかしいでしょう?
これも古いもので、
ベースになっている白いプラスティックは、
カゼインプラスティックといい、
牛乳を原料にして作られたものなのだそう。
猫とくれば、ということで、指輪はネズミ。
イギリスのヴィクトリア時代の、
おそらく子供用のもので、
わたしはピンキーリング(小指用)にしています。

2018-11-16

こんにちは、三國万里子です。
仕事はハンドニットのデザイナーで、
ほぼ日では「Miknits」という
編みもののキットとグッズを扱うお店を
仲間と一緒にやっています。
なかなかかわいい、いいお店なので、
よかったらたまにのぞきにきてくださると
とてもうれしいです。

さて「編んで着て
(ときどき)うろちょろするわたし」という
コンテンツをここに始めることになりました。
ごあいさつ方々、どのようにして
この場所ができたのかをお話しさせてください。

ひと月ほど前のこと。
ほぼ日で担当していただいている渋谷さんに
「三國さん、インスタグラムをやってみませんか」と
声をかけていただきました。
「それは同時に、ほぼ日でコンテンツにもします」とのこと。
そうね、何かしらできるといいよね、
でも自分に、人にお見せできるようなものがあるかなあ、と
しばし考えました。
わたしは都内の私鉄沿線の賃貸マンションに
家族3人で慎ましく暮らしていて、
日々取り立ててゴージャスなことなどないし、
スーパー主婦でもないし、
キラキラした人付き合いもありません。
わたし自身は仕事も家事も楽しくやりはしますが、
とくに「ここがすごい」といえるようなことはない、
ふつうの女で、母で、職業人です。

ないない尽くしですみません、
でもお話を引き受けました。
それは、わたしにも何か言えるようなことが、
ちょっとはあるかもしれないと思ったからです。
それはわたしの中の
「ものが好き、着ることが好き」という部分についてです。

わたしのクロゼットには年月をかけて集めてきた
洋服やアクセサリーがそれなりに
(おそらく一人の女性のワードローブとしては十分に)あって、
引き出しを開けてそれらを見る時、
わたしはほのぼのとうれしい気持ちになります。
「やあやあ、また会えた」
という気持ち。
あなたたちを着ることで、今日のわたしは出来上がる。

ブラウスを一枚手に取り、そこにスカートを合わせ、
気温に応じてニットの厚さを考え、
下着を決め、合う靴は何か、アクセサリーはどうしよう、
コートは、バッグは‥‥。
とたあいなく、ひととき集中します。
それは一人でする「おままごと」のようなことです。
着ることは、誰にとっても
それぞれに楽しいことであると思うのですが、
わたしは多分その楽しさが、平均より濃いのではと思います。
もう若くもない割には、
「似合う服がわからなくなった」
というようなことがないのも、
毎日小さく悩んでは
答えを出し続けているからではないかと思います。
そして、その小さく悩むことがわたしには楽しいのです。

そういうわけで、ここでは、
わたしの「着る」にまつわることを
主に書いていこうかな、と思います。
偏愛し、仕事にまでなっている「ニット」は、
中でも登場の機会が多いことが予想されます。
わたしがデザインした Miknitsのニットも
しょっちゅう現れると思いますが、
それらも他の、諸々の服たちと
同列に眺めていただけると幸いです。
(もちろん、いっちょ編んでみるか、と思っていただけたら
それはとてもうれしいことですが)

さて、すみません、始める前に
ひとつ言い訳をしておきます。
ここにこれから書く文章には、
洋服や、ものの説明の一部として
しばしばブランドや、お店の名前が出てくると思います。
それはある人にとっては意味があり、
他の人にとってはなんのことやら、
ということだろうと思います。
わたしには、それはものの来歴と結びついている
確かなことでもあり、書くわけですが、
もしみなさんにとって面倒なら
読み飛ばしていただければと思います。
おままごとに使う「あかまんま」の花が
イヌタデのことだ、なんて知らなくても
遊びにはなんの差し障りもなく、
お赤飯召し上がれ、
ぱくぱく、ちょっと固いわねえ、
なんてやって終われるのが、遊びとして
気楽でいいと思いますから。

ええと、あと言っておくことはあるかな?
そうですね、「うろちょろ」の内訳として、
「買う」や「見る」
「会う」や「作る」なんかがあるんじゃないかな、と思います。

まだどうなるか、自分でもわからないですが、
楽しんでもらえるといいなあ、と思います。

どうかよろしくお願いいたします。