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第37回 適正露出って、何だろう。


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秋になって、すっきりとした、
気持ちのいい青空が続いています。
そんな空から降り注ぐ光は、
やはり、一段ときれいですよね。

今回は、そんなきれいな光を写す上で、
欠かすことの出来ない
“露出”についてのお話をします。

カメラは、光を捕まえる道具。

そもそも、露出というのは、
その言葉だけ聞くと、
ちょっとややこしい、写真の専門用語のように
思われている方も多いかもしれません。
確かに、日常生活で「露出」という言葉は
あまり使うことがありませんよね。
(「あの芸能人は露出が多いね」なんて、
 マスコミに登場することを指したりもしますが、
 それとはちょっと違います。)

写真の世界では、「露出」はとても大事なキーワードで、
露出が、写真の仕上がりに大きな影響を与えます。
けれど、そんなに難しく考えなくたっていいのです。
単純に、“露出”というのは、
“カメラに取り込む光の量”とだけ、覚えてください。

シャッターボタンを押すと、
シャッターが開いているほんの短い時間のうちに、
光がカメラに取り込まれます。

そう、カメラは、“光を掴まえるための道具”。

露出(光の量)は、
●シャッターをどのくらいの時間、開けておいたか。
 (シャッタースピード)
●シャッターをどれだけ大きく開いたか
 (絞り)
の組み合わせで決まります。

そして「フイルムの感度」によっても、
取り込むことができる光の量が変わってきます。

フイルムの感度は国際規格の「ISO」
(アイエスオー/イソ、などと読みます)
という単位で表されていて、
フイルムを見ると「ISO 100」とか「400」などと
書かれているのがわかります。
デジタルカメラも同様に、
その感度は同じ単位「ISO」であらわし、
ただし厳密には異なるため、
「ISO 400相当」などと表記されています。

ISOの数値は、大きいほど
「感度が高い」つまり「少量の光でも、写りますよ」
ということになっています。
ISO 400の感度のフイルムなら、
ISO 100のフイルムの4分の1の光の量でも
写すことができるわけです。
逆に言うと、
ISO 400の感度のフイルムに比べて、
ISO 100のフイルムは、4倍の量の光を必要とします。

ちょっと専門的な話題になってしまいましたが、
これが決して難しいことではないとお話ししたのには、
もちろん理由があります。
それは、特に屋外においては、
明け方であるとか、夕方のような、
刻一刻と、光の量が変わっていく時間帯は別にして、
昼間の時間帯であれば、その光の量は
それ程大きくは変化しないのです。

なぜなら、太陽と地表の距離は、
有り難いことに、いきなり大きくは変化しません。
もちろん、季節によっても、
時間帯によっても、少し変化したりしますが、
その絶対的な量という点では、
ほとんど一定なのです。
むしろ、時間帯よりも
光の量に一番大きく影響を与えるのが、雲。
影になれば、何だって暗くなるように、
雲の存在によって、光の量は変わっていきます。
とはいっても、どんな悪天候であったとしても、
昼間に真っ暗になるということはないわけですから、
それだって、考えようによっては
大きな変化ではないのです。

なんで「オート」だと失敗するんだろう?

カメラの設定において、
少しだけ具体的なお話をしましょう。
(このあたりのことは、
 自動でやってくれるカメラがほとんどですから、
 絶対に知っておかなければならない、
 ということではありません。
 けれど「知っておくと、もっと楽しい」と
 ぼくは考えています)

快晴の場合、この時期ですと、
ISO100の感度のフイルムで、
シャッタースピードが1/125秒の時、
絞りがF11ぐらい。
それに少し雲がかかると、
絞りがF8ぐらい。(ちょっと開きます。
よくカメラに表記のある“+1”と同じ量の変化です)

そして曇天の空の下で、たとえ雨が降っていたとしても、
絞りはF5.6ぐらいなのです。
(この場合は、さらに”+1”を加えるという感じです)
 だから、昼間であれば、おそらくどんな場所でも、
 この“+2”の範囲内であれば、
 全ての状況が、きちんと撮れることになります。)

このように、太陽の光の量は変わらない、
という前提で考えてみると、
後は、その場その場の状況を見ながら、
「あっ、ここは影の中だからこのぐらいかな?」とか、
「ここは、明るい場所が多いからこのぐらいかな?」と、
その範囲内で、その分だけ調整していけばいいのです。
(もちろん、最初のうちは失敗もあるかもしれませんが、
 まずは、勘を頼りに調整してみて下さいね。)

ちょっと難しそうだなと思って、
露出のことを無視して、オートに頼っていると、
失敗することもあります。
優秀なコンピュータの判断が
なぜ失敗をまねくのかというと、
たしかに以前のものに比べると、
格段に性能は上がったとはいうものの、
残念ながら、カメラ内蔵の露出計には、
どうしても、太陽からの距離は同じなどという
感覚もありませんし、
実際に見ているわけではなく、
単純にフレームの中の光量を計っているだけだからです。
機械が失敗することは、よくあるのです。

おそらく皆さんも、
たとえば、黒いものが多い被写体を撮ったときに、
思った以上に、明るくなってしまったり、
または、白いものを撮ったときに、
少し暗く写ってしまった経験が、
あるのではないでしょうか。
実は、この問題の原因こそが、
まさにカメラ内蔵露出計の問題なのです。
簡単に言うと、カメラからすると、
黒いものも、暗いものも同じなのです。
同様に、白いものと、明るいものも、
同じこととして、認識してしまいます。
だから、結果的にこのような失敗が起きてしまうのです。

そんな時は、黒いものを撮るときは、
光の量を少し少なめに、
(露出補正でいうと“-1”ぐらい)
逆さまに、白いものを撮るときは、
光の量を少し多めに、
(露出補正でいうと“+1”ぐらい)
撮影してみてください。
そうすることで、黒いものは黒く、
白いものは白く、写ってくるはずです。

印象を写すために、露出をコントロール。

時間があるときに、試して欲しいのは、
もしも同じ場所に、黒いものと白いものがあった時、
まずは最初に、オートで黒いものと白いものを
別々に撮ってみてください。
そして次に、同じくオートで、
今度は、黒いものと白いものを
同時に撮ってみてください。
そうすると、おそらく撮影されたデータは、
同時に撮ったものを適正露出(0)としたら、
黒いものは、そこから“+1”、
白いものは、そこから“-1”ぐらいで
撮影されていることがわかるはずです。
そのことがはっきりとわかったとしたら、
“露出”ということに関して、
ちょっとややこしそうだという感覚は、
少しは少なくなるのではないでしょうか。

そのことを、少しでも理解することが、
“印象を写す”という、
写真にとって、もっとも大切なところに
結びついていきます。
それと言いますのも、
たとえ太陽の光の量が同じだとしても、
その光が織りなす光景の印象というのは、
やはり、人それぞれだからです。
単に“印象”と言ってしまうと、
とても抽象的に聞こえてしまうかもしれませんが、
言い換えればそれは、
「私は、何を見て、どう思ったのか」
ということですよね。
そして、これは何度もお話ししていますように、
そんな小さな思いが写っている写真こそが、
いい写真なのだと、ぼくは思っていますから、
“光の量”(つまり、露出)を理解して、
それ程、大きく変わらないということを知ったうえで、
今度は、その同じ光の中で、
「どの場所を見て、どう思ったのか」
ということに合わせて、
露出を決定していけばいいのです。


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今回の写真は、3枚とも
同じ場所で、同じ時間に撮影したものです。
ということは、当然のことながら、
光の量も同じです。
まず1枚目の写真は、
その日の、その場所における
“適正露出”で撮影したものです。
それこそ、撮影データは
「1/125秒、絞り11」。

そして2枚目の写真は、このようにキラキラと光る
ススキの穂が印象的だったので、
そのキラキラした光に合わせて撮影しました。
(明るく白いところに露出を合わせた分、
 全体的に暗く写っています)
撮影データは、
「1/125秒、絞り16」。

続いて3枚目の写真は、
そのキラキラと光るススキの穂が、
このように一堂に会すことで、
そこは白く輝く絨毯のようにも見えたので、
全体的に白っぽく写るように、
今度は、画面の中で一番くらい部分に
露出を合わせて、撮影しました。
撮影データは、
「1/125秒、絞り8」です。

今回はたまたま
ススキの写真を作例にあげてみましたが、
もちろん、それはすべての被写体に対して、
しかも、どんな時でも当てはまるのです。
とにかく、外で写真を撮るときには、
まず最初に、写真を撮る前に、
その日の“光の量”を、少し意識してみて下さい。
露出計を使う場合にしても、
毎回シャッターを切るたびに
計測するのは面倒ですよね。
ぼくも、屋外で撮影するときには、
まず最初に、その日の“光の量”を計って、
その後は、その後の天候の具合や、
被写体の光の状態に合わせて
微調整をしているだけなのです。
これには、もちろん経験も必要ですが、
その時の、標準的な露出を
頭の片隅に意識しおくだけで、
そのことで、それほど露出という問題に
振り回されることもなくなるのではないでしょうか。
それはたとえ、露出計を持っていなかったとしても、
そんな時は、カメラを明るいところと
暗いところが均等にあるような場所を選んで、
何となくで構いませんので、
その時の、標準的な露出というものを
確かめてみることを、おすすめします。

そして、その標準的な露出を中心に、
見る場所によって、あるいはその時の印象によって、
露出を調整してみて下さい。
明るいところが気になった場所の中心であれば、
少し暗めに。
あるいは、暗いところが気になったときには、
少し明るめに、撮影してみて下さい。
すると、そうすることで、
必ずその写真の中には、
あなたが見て感じた光の印象が、
今まで以上に、はっきりしたかたちで
写し出されているはずです。
そうなったら、マニュアルのカメラだって、
そんなに難しく感じなくなるはずです。
だから、失敗をおそれずに、
まずは、気持ちのいい秋の風の中を散歩しながら、
練習だと思って、オートではなくて、
マニュアルで撮影してみて下さい。


そうやってあなたが感じた印象が
きちんと写し出された時の露出こそが、
本当の“適正露出”なのです。
そして、だからこそ“適正露出”というのに
定義などというものは、必要ないのです。
それは、あなたが作り出していけばいいのです。
しかも、写真のいいところは、
そんな試行錯誤を繰り返している間に、
偶然という失敗が、
本当の印象を写し出すことだってあるのです。


次回は、そんな秋の空の下で、
「すべてのものごとは、
 いつの日も、地平線と水平線からはじまる」
というお話をします。お楽しみに


2006-10-13-FRI
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