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第35回 気配を写す“広角レンズ”。


at 05:15 Biwako, Shiga
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今回は、前回の“標準レンズ”の話に続いて、
“広角レンズ”のお話です。
(はじめて読まれた方は、
 前回の話を先に読んでからお読み下さい。)

写真の印象というのは、その画角によって
大きく変わっていきます。
だから、その様々な印象を写し出すために
多くの種類のレンズがあるわけです。
そして、前回はその中でも、
“標準レンズ”と呼ばれている、
“見たまんまの印象”を、
ふつうに写すことが得意なレンズのお話をしました。

ところが、実際にぼくたちが写真を撮ろうとした場合、
いつも“見たまんまの画角”では、
困ったことに“見たときの印象”が写ってきません。
そんな時にこそ、レンズの画角を変えてみましょう。
たとえば、前回お話しした“標準レンズ”を付けて、
あなたの目の前に拡がる、空の写真を撮ってみてください。
するとどうでしょう。
そうやって写された写真の中にある空は、
おそらく、その空の下に立ったときに感じた印象に比べて
かなり狭くなってしまっているはずです。
このように、対象物が空であったり、
広い世界であったり、
あるいは、大きなものに包まれているような
印象を感じた時は、
“広角レンズ”を試してみて下さい。

ぼくは、以前にも(第4回)お話ししましたように
毎日の空の写真を撮っています。
そして、そんな空の写真を撮るときには
“GR Digital"というカメラを使っています。
その最大の理由は、
このカメラにはズームレンズではなくて
とてもいさぎのいい単焦点の“28mm”という
優秀な“広角レンズ”が付いているからなのです。

ただし、この“広角レンズ”というのは、
独特の拡がりのあるレンズ効果を持っています。
しかし、その極度に誇張された遠近感が
面白いからといって、
その描写ばかりを多用してしまうと、
本来は“見たときの印象”を写すためのレンズなのに、
やもすると、“レンズ効果の印象”しか写っていない
つまらない写真になってしまう時もありますので、
そのあたりを少し気を付けて使ってみて下さいね。

時には、そういった失敗を
生み出してしまうこともあるのですが、
とにかく、“広角レンズ”というのは
数あるレンズの中でも、
その場の雰囲気であるとか、
その時の感じを写すことが
得意なレンズだったりしますので、
ある意味では、
とても写真的なレンズと言えるのかもしれません。

そういった意味でも、もしもあなたが写真を撮っていて
何となく印象が写っていないなーと感じた時は
一度、“広角レンズ”を使ってみたらどうでしょうか。
中でも、この“28mm”という
画角のレンズがおすすめです。
それは、このレンズは“広角レンズ”の中では、
きわめて自然な描写をすると感じるからなのです。
たとえば、同じ“広角レンズ”でも、
どちらかというと“標準レンズ”のグループに近い、
スナップ写真などで多用することが多い
“35mm”レンズだと、
“見たまんまの印象”に、少しだけ
“まわりの気配”みたいなものが
プラスされる感じになります。
しかしそれだけだと、
それこそ空のような広い世界を撮るときには
時には物足りなく感じることもあると思います。
だからといって、いきなり“20mm”であるとか、
“24mm”といった
より広い画角のレンズになってしまうと、
それこそ慣れないと、
広角レンズ独特のレンズ効果に
振り回されてしまうと思われます。
そこで、ちょうどいいのが
“28mm”ぐらいなのではないでしょうか。

デジタル一眼レフで交換レンズを使う場合、
機種によって「実撮影画角」がことなります。
たとえばEOS KISSでは「1.6倍」なので、
28mmの画角で撮影したいときは
18mmの画角の交換レンズをつける必要があります。
くわしくはお使いのカメラの説明書を
たしかめてみてくださいね。

一枚目の写真も、琵琶湖の湖畔で早朝に撮影したものです。
それこそレンズは、“28mm”です。
この朝は、目が覚めて外に出てみると、
あたりはまだ、夜明け前の青い世界に包まれていました。
やがて夜明けと同時に、
あたりにはゆっくりと色彩が生まれていったのです。
ぼくはそんな光景を目の前にして、
その何となく霞んだような大気に、
光が染み込んでいく気配を写してみたいと思いました。
その時に迷わず選択したレンズも“28mm”でした。
今でもその光景は、目に焼き付いていますし、
思い描くことが出来るのですが、
なかなか言葉では上手く言うことが出来ません。
その感じは、ぼく自身もとてももどかしいのですが、
だからこそこうやって写真を撮るのかもしれませんね。


最近では、秋めいてきたこともあって、
すっかり空も高くなって、
そうなると、いきなりいろんなかたちの雲が
その中を漂うようになってきました。
だからそんな時は、たまにはビルの屋上に上がって
流れる雲を追いかけてもいいですし、
いつもよりも、少しだけ広い場所に目を向けてみて下さい。
たとえば、時間があるときなどは、ちょっと都会を離れて、
郊外に出かけてみるのもいいかもしれませんね。
きっとそこには、毎日のふつうよりも
ちょっとだけ気持ちのいい世界が拡がっているはずです。
そして、そんな時にこそ“広角レンズ”で
写真を撮ってみてください。
すると、撮影しているときは、
目の前の拡がる広い世界に比べて、
ファインダーの中の世界が、
小さく感じるかもしれませんが、
そこには必ず、実際には写るはずもない
よく“空気感”と呼ばれている
その時に感じた、気配のようなものが写っているはずです。



この写真は、そんなある秋の晴れた日に、
散歩がてら郊外の農道で撮った写真です。
ゆったりとした風が、気持ちよかったことを思い出します。
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次回は、レンズの画角についての最終回。
「視点を写す、“望遠レンズ”」
というお話をします。お楽しみに。


2006-09-22-FRI
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