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第26回 黒にもいろんな黒がある。


この写真は、ある午後の奄美大島の木陰で撮りました。
あたりはものすごく暑かったけれど、
その場所は、気持ちのいい風が抜けていく場所でした。
そんな場所だったので、プリントも、
少しだけ温黒調に仕上げてみました。
(クリックすると拡大します)


今まで、何度も光の話をしてきました。
おそらく皆さんにも、こと写真においては
それ程に、光というものが、
大切なものだということは、
理解してもらうことが出来ましたよね。

そして、その光によって描き出された世界に対して、
感じたことに対して、
まずは素直に、シャッターを切ってみてください、
という話もしてきました。
しかし、そんな光に対する思いを
理解することが出来たとしても、
なかなか思ったような写真が撮れないことも、
まだまだ多いかもしれません。

そこで今回は、今までよりも少しだけ具体的に
そんな時の解決策について、
お話ししたいと思います。

「色鮮やかな写真」には「黒」が不可欠なんです。

皆さんが、普段撮られている写真のほとんどは
いわゆるカラー写真だと思います。
特にこのカラー写真だと、とかく色については、
色鮮やかであるとか、
自然な発色であるとか、
いろいろ語られることが多いのですが、
実は、それには別の理由があるのです。

それと言いますのも、
仮に、普段語られているように、
黒以外の発色のいい色という要素だけで
色が構成された場合、
その色は、決して色鮮やかにはなりませんし、
ましてや、自然な色合いなどには、
とうていなりません。
そこには、特に写真の場合は、
常に黒という色が不可欠な要素となります。

とにかく、ここは単純で構わないので、
まずは、黒という色こそが、
写真においての大切な下地なのだということを
頭に入れておいて下さいね。

そして試しに、デジカメでも構いませんから、
花でもいいですし、何でも構わないので、
色鮮やかな被写体を選んで、
いつもよりも、少し暗めに撮ってみて下さい。
すると必ず、その写真の中に存在する色彩は、
より一層、鮮やかに見えるはずです。

(カメラの「露出補正」というところで
 「−(マイナス)」にしていくと
 画面全体が暗くなっていきます。
 あるいは、カメラの液晶モニタ中央に出る
 光をとらえるポイントを、とりたい景色のなかの
 「明るい(白い)部分」にあわせてシャッターを半押しし
 それから構図を決めて撮ると
 全体が「暗め」にうつります。
 逆に、「暗い(黒い)部分」にあわせると
 全体が「明るめ」になります。
 ためしに、やってみてくださいね。)

そうやって単に写真が暗くなることで、
当然、黒い部分が増えることにもなりますし、
自然と、影の部分などは特に
引き締まって見えるはずです。
その具体的な理由を、ここで説明すると
あまり意味のないことで、
長くなってしまいますので、割愛します。
まずは、自分で撮って、
自分の目で確かめてみて下さいね。

とにかく、撮影後の結果としての写真においては
そこにある、光の有り様もさることながら、
その中に存在する、黒の有り様で、
その印象は、大きく変わっていきます。

たまにはモノクロで写真を撮ってみませんか。

しかも、今回のタイトルにありますように、
そんな黒だって、いろんな黒があるのです。
具体的に上げてみますと、例えば、
どことなく温かい印象を与える少し茶色っぽい黒
(これを写真では、温黒調と言います)。
それに対して、
何となく冷たい印象を与える少し青っぽい黒
(これを写真では、冷黒調と言います)。
今でも、数こそ少なくなってきましたが、
モノクロの印画紙は、
温黒調、冷黒調、純黒調といった具合に、
その特徴を表記してあります。

そんなわけで、たまにはそんな黒のことを知るために、
モノクロフイルムを使ってみたり、
デジカメの中にその機能がある場合は、
モノクロモードを使ってみたりしながら、
モノクロで写真を撮ってみて下さい。
そうすることで、今まで何となく色で誤魔化されていた
黒という色の大切さが、
きっと、わかってもらえると思います。
そしてもしも、2台以上のカメラを持っている場合は、
その2台のカメラで、同じものを撮ってみて、
比較してみるのも、面白いかもしれませんね。
この場合、特にレンズの特徴が顕著に表れます。
あるレンズは、すごくシャープなんだけど、
深みがないであるとか。
またあるレンズは、何となくやわらかいけれど、
その黒にとても深みがあるであるとか。

とにかく、写真においては、
すべてが黒次第だったりするのです。
そして、だからこそ、その部分に着目することで、
出来上がって来る写真も、
はっきりと目に見えるかたちで、
がぜん引きしまって見えるはずです。
すると今度は、そうやって黒がしまることで、
色が引き立つのと同じように、
いつもお話ししている光の表情も、
その写真の中で、生き生きとしてくるはずです。

だからといって、決して写真はやっぱりモノクロだ、
という話ではありませんよ。
ただ、写真においては黒という色がとても大切で、
しかも、そんな黒にもいろんな色があったり、
様々な表情があることは、この機会に、
是非とも知っておいて欲しいと思っています。

そしてもうひとつ、
ぼくがいつも写真を見ていて面白いなーと思うのは、
実はその黒という色が、写真の個性というものに、
とても関係があるということなのです。

例えば、先日ご紹介した
ダイアン・アーバスの写真にしても、
そこには、彼女ならではの、独特の黒の世界があります。
しかも、たとえその写真がカラーだったとしても、
独特の黒の世界は消えることがありません。
これは他の多くの写真家にも当てはまるように思います。

だからと言うわけではありませんが、
少しでも、自分なりの写真にするためにも、
写真をプリントをするときには、
(デジタルの場合は、まずはモニター上で)
あくまでもあなた自身が感じた印象に対して、
正直に、黒の色を意識しながら調整をして、
プリントをしてみて下さい。
(現像に出すときには、専門店ならば、
 「黒がしまるように、少し暗めにプリントしてください」
 などと、伝えると、やってくれますよ)
すると、特に今まで何となく、
なかなか思ったように写ってくれないなーとか、
感じたものとは、違う感じにしか写らないなーと、
思っていた人たちにとっては、
その作業の中に、必ずヒントが見つかるはずですよ。



カラー写真も「黒」があることで、全体が引き締まる。
同じように、光の表現にも、闇の部分が大切だし、
同じ黒でも、いろんな黒の表現がある。
明るいばかりが写真ではありません。
「ちょっと暗めに撮ってみる」ことや
「ちょっと暗めにプリントする」ことで
そのことが見えてくるかもしれませんよ。


この写真は、冷たいアイルランドの空の下で撮影しました。
その凛と張りつめた空気を写したかったので
プリントは、少しだけ冷黒調に仕上げました。
(クリックすると拡大します)

2006-06-30-FRI
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