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第20回 スナップ写真を、
     ゆっくりたくさん撮ってみよう。




それこそ数年前のゴールデンウィークのこと。
ぼくは、ベトナムの
ちょうどホーチミン市とハノイ市の中間点ほどにある、
山間のダラットという街に
こんな、かわいらしい飛行機で
降り立ちました。
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このダラットという街は
日本でいえば、軽井沢のようなところで、
ベトナムの人々にとっても、
憧れの土地とのことでした。
そして、気持ちのいい空気を満喫しながら
飛行場を出すると、
あれっ、こんなところにも飛行機が。
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何とそれは、カフェだったのですね。
もちろんぼくは、おもしろ半分で、
早速、そのカフェに入りました。
そして、中に入ると、
彼女たちが、恥じらいながらも
満面の笑みで、迎えてくれました。
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前回の予告では、
「光にも温度があるのを知っていますか」
という話をしようと思っていたのですが、
考えてみたら、世の中は明日からゴールデンウィーク。
だとしたら、そんな時に、
こんな面倒な話をしている場合ではないと、
今回は、予定を変更して、
スナップ写真についてのお話をしたいと思います。

おそらく皆さんも、スナップ写真という言葉は
何となく理解されていることと思います。
人の表情をとらえたもの、
街の中で見る、ちょっとした光景、
動物たちの愛くるしい表情をとらえたもの、
家族や友人たちと共に写す記念写真、などなど、
その種類も、方法も、それこそいろいろです。
要するに、被写体はあなたが撮りたいと
思ったものであれば、何でも構わないのです。
でも今回は、せっかくのゴールデンウィークですから、
ぼく自身も一番面白いと思っている
「人物」のスナップ写真についてのお話をします。

実は、もしかしたら面白い分、
一番難しいのが、人物のスナップ写真かもしれません。
しかし、考え方ひとつで、
ちょっとした工夫ひとつで、もしかしたら、
もっともやさしくて、
もっとも楽しい写真でもあるのです。


記念写真に、なんでもつめこまない。

ではまず最初に、人物の入ったスナップ写真の中でも
もっとも一般的な「記念写真」について。

例えば、もしあなたが、誰かとどこかを訪れたとき、
そこが観光地だとしても、どこであったとしても、
写真を撮るとするならば、
その人と一緒に、その場所を訪れたという
単なる記録として、その状況を写すだけではなく、
誰だって、出来ることであれば、
その楽しい記憶も、一緒に写しておきたいものですよね。

そこで、まず最初に、
そんな記念写真を撮るときに注意して欲しいのは、
「一緒に訪れた人も含めて、
 そこにある状況のすべてを、
 一枚の写真の中で、一度に撮ろうとしない」

ということです。
その理由は、いつでも写真というのは、
後で見るとよくわかるものなのですが、
その一枚の写真の中に写っているすべての物事は、
意味を持って語りかけてきます。
ですから、一枚の写真の中に写っているものが
多ければ多いほど、うるさい写真になってしまいます。
騒音の中では、会話の声が聞こえないように、
せっかくの、楽しい瞬間が、
なかなか、うまく写りません。

そして、もしあなたが、
その場所に、共に出かけた楽しい記憶を
何よりも大切にしたいと思ったときは、
尚更のこと、目の前にあるすべてを、
無理矢理フレームの中に
入れ込もうとしないで、
まずは、出来るだけ単純なフレーミングで
撮ってみて下さい。

たとえば、友達とどこかに出かけて
記念写真を撮りたいと思ったとき、
一度に、その場所もすべてを
入れ込んで写真を撮ろうとはしないで、
まずは、友達のその楽しそうな表情や、
いきいきとした動きを撮るつもりで
シャッターを押してみることから始めましょう。
そして今度は、その合間に、
友達と一緒に見ている風景を、
一緒に過ごした瞬間を、
もちろん、その日の空だって構いません。
それでも、そんなふうに、別々に、
ひとつずつ撮った写真は、
あとで並べてみると、かえってその日の思い出も
くっきりとよみがえってくるでしょうし、
まとめてみれば
その時の楽しかった思い出が
そこには、必ず写っているはずです。


撮るときに、慌ててはいけません。

そして、もうひとつ。
これも人物のスナップ写真を撮る上で、
とても大事なことなのですが、
とにかく、写真を撮るときに決して慌てないことです。
確かに、時にはゆっくりしていると、
過ぎ去ってしまう瞬間もあるかもしれません。
それでも特に、写真を撮ることに慣れないうちは、
そしてあなたが、少しでも、
その人のいい表情を、いい写真を、
撮りたいと思った場合は、
やみくもにシャッターを切ってみたり、
その最初に撮れるのか、撮れないのか
わからない瞬間を、やたらと追いかけるよりも、
次に訪れる瞬間を、捕まえようと試みる方が、
おそらく、いい写真が撮れる確率だって、
グンと上がるはずです。

それに、ゆっくり時間をかけるといっても、
ほんの少しの時間でいいのです。
それがたった10〜20秒だとしても、
その短い時間の中で、
ちょっとした想像力を働かせながら
もうすぐ笑いそうだな、とか
この人の、この表情が一番いいんだよな、
といった具合に、想像してみたり、
それこそ、その相手の人と、
楽しい会話でもしながら
写真を撮ってみて下さい。

すると、そうすることで、
「あ、今だ」と思える瞬間が、必ず訪れます。
そして、その時にシャッターを切ってみると、
おそらく今までのように、
何となく急いで、慌てて撮った写真とは
比べものにならないほどに
いい写真が撮れるはずです。

それこそ、「決定的瞬間」といえば、
間もなく日本でもドキュメント映画が公開される
スナップ写真の大家
“アンリ・カルティエ=ブレッソン”。
こんな大家だって、晩年に、
「私は、いつだって、その決定的瞬間を待っていた」
と言っているのです。

だから、慌てることなんて、何ひとつないのです。
しかも、ただの記念写真だって、
そんなぼくたちなりの、決定的瞬間を、
たくさん撮ることが出来たとしたら、
きっと写真を撮ることだって、
今よりも、ずっと楽しくなるはずですから、
とにかく、たくさん撮ってみて下さいね。

今回は、予定を変更して
スナップ写真の心構えと、
そして記念写真の撮り方、みたいな話をしましたが、
実はこのことは、他のどの被写体を撮るときにも
当てはまることでもあるのです。

何はともあれ、せっかくのゴールデンウィークです。
ゆっくりと、楽しく過ごしながら、
写真の方も、それに合わせるように、
いつもよりも、少しだけゆっくりと時間をかけて、
しかも、それを楽しみながら、
たくさん、写真を撮ってみて下さいね。

そして、もしこの方法で、いい写真が撮れたときは
是非とも、その成果をおしらせ下さい。
楽しみに待っています。


スナップ写真に「入れる」ものは、ひとつだけにしよう。
そして人物を写すときには、
慌てずゆっくりかまえて、
「これだ!」という表情や、瞬間を、とらえよう。
もし一回のがしても、
次に訪れる瞬間を、待つくらいの気持ちで。



美しい山と湖に囲まれた、ここダラットでは、
清々しい空気の中を歩いていると、
農家に混じって、
とてもきれいな色にペイントされた
かわいらしいお店が、たくさんありました。
何だか、そんなすべてが
とてもあたたかい街でした。
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次回は、ゴールデンウィーク中の更新になりますが、
番外編というかたちで
「The Bright Forest〜Made In The Shade」
という、5月5日よりシンガポール、
そして5月30日より東京と続く、
ぼくの2つの展覧会についてのお話をさせていただきます。
お楽しみに。


2006-04-28-FRI
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