PHILADELPHIA
お医者さんと患者さん。
「遥か彼方で働くひとよ」が変わりました。

手紙200 日本のHIV
40代・会社員
1)不安から目をそらしてきた日々



こんにちは。

今日からは、また別の患者さんにお願いして
ご自身の経験をお話ししていただこうと思います。

この方は、昨年末に
初めてHIVに感染していることがわかった、
とても穏やかな、40代会社員男性です。


1)不安から目をそらしてきた日々

20代の学生の頃から
私は「エイズ」という言葉を
常に恐れながら生きてきました。

プライベートでは
それなりに遊んでもきた自覚がありますが、
感染に関しては、友人達の中でも
「神経質すぎるのでは」と
言われるくらい気を使ってきたのです。

コンドームは基本的に必ず使用してきましたし、
セーフ(安全)でない行為をする友人たちに対して
熱く説教することもしばしばありました。

しかし一方で、
完璧にセーフな行為が極めて困難なことも、
常に感じ続けていました。

ですから私は、その言葉を恐れながらも、
直視することはせず、その日まできたのです。

2〜3年前から、風邪をひきやすくなっていました。
40度を越す高熱に至ってしまうこともありましたが、
年齢のせいで無理がきかなくなってきたのだろうと
自分に言い聞かせました。
実際、数日休めば、体調はちゃんと戻りましたし。

口内炎が口の中に
5つくらい同時に出たりすることもありました。
でも、自分は子供の頃から口内炎がよく出来たし、
きっと食事が不規則で
栄養も片寄ってしまったからだろうと納得していました。

しかし、そういった言い訳も
だんだん苦しくなってきました。
その冬ひいた風邪は、なかなか治らなかったのです。
病院に行くたびに、別の風邪をもらってしまうようで、
今度は咳の風邪、次はお腹の風邪という具合で
きりがありません。

発熱もかれこれ1ヶ月くらい続いていたでしょうか。
会社も随分長く休んでしまいました。
はじめは気楽に休んでいましたが、
いつまでも戻らない体調に
徐々に不安がつのってきたのです。

もしかして自分に、
これまで最も恐れていたことが
起こっているのではないか?

そう考え始めると不安はどんどん大きくなり、
これまでのように目をそらして平静を取り戻すことが、
出来なくなってしまったのです・・・

私は一部上場企業に勤める
40代のビジネスマンです。
仕事はとても忙しいですし、
ストレスもそれなりにありますが、
まあ人並みにがんばってきました。

夢だった自分の城も(マンションですが!)、
新入社員の頃から始めた住宅財形をもとに、
30代に入るころ手に入れることができました。
かれこれ14年以上になるパートナーとは、
毎週家を行き来しながら、楽しくやっています。

「エイズ」という病気は、
そんな私にとって「死刑宣告」にも等しい言葉でした。
「ゲームオーバー」と言ってもいい。
とにかく「おわり」を意味しました。

これまで、不安でも
決して検査を受けに行くことをしなかったのは、
その疑いをできるだけ
直視したくなかったからです。

しかし、その疑いを
押しとどめておくことはもはやできません。
考えはじめると不安で眠れず、
自分が、もしその病気であったら
これまでの体調変化のすべての辻褄が
合うような気がしてきました。

そして遂にある日の午後、
自宅のパソコンから『エイズ』の3文字を
googleに初めて打ち込んでみたのです。

膨大な情報がそこにはありました。
1〜2時間の間、
様々なサイトをむさぼるように読みあさりました。

中でも国立国際医療センターのページは、
わかりやすく最新の情報がまとめられていて、
何より検査を受ける手順が
画像入りで丁寧に解説してありました。

そして初めて私は、
「検査を受けに行く」という行動を
具体的に考え始めたのです。

その夜、
仕事帰りに様子を見に寄ってくれたパートナーに
私は意を決して切り出しました。

「もし、僕がエイズだったらどうする?」

そう言った瞬間に涙が溢れてきました。
情けないですが、思い悩んだあげくに
やっとの思いで言葉にしたら、
これまで押し殺していた不安が
一気に吹き出してしまったのです。

でもパートナーは、穏やかな声で答えてくれました。

「大丈夫だよ。○○がエイズでも別れたりしないよ。」

「いざとなったら、ちゃんと面倒見てあげるから・・・。
○○とはお互い老人になるまで一緒だからね。」

そして、心配なら
ぜひ検査に行くべきだと奨めてくれたのです。
私にもう選択肢はありませんでした。
パートナーの確約を得て
翌日さっそく検査に行くことに決めたのです。



次回は、
検査を受けにいらしたときのことを
お話しいただく予定です。

では、今日はこの辺で。
みなさま、どうぞお元気で。

本田美和子

2006-06-16-FRI

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