PHILADELPHIA
お医者さんと患者さん。
「遥か彼方で働くひとよ」が変わりました。

手紙181 WHO4・HIV診療の講習会


こんにちは。

ベトナムの南部の街ホーチミン市で
WHO(世界保健機関)が
HIV診療についての講習会を開くことになり、
そのお手伝いに出かけたときの話の続きです。

街の中心にあるホテルから車に乗って
わたしたちは郊外にある会場へと向かいました。
道はバイクで埋まっていました。
丁度通勤時間帯のせいだからでしょうか、
一台のバイクに少なくとも2人、多ければ4人も乗って
すごいスピードで
街へと飛ばしながらすれ違って行きいます。

ホーチミン市の中心は
とても都会的な雰囲気なのですが
5分も車で走ると、
窓から見える景色は一変しました。
細い川筋には船上生活を送る人たちのボートが並び、
舗装されていない、狭くて水たまりだらけの道の脇には
傾いた家並みが続きます。

20分ほど走った後、
わたしたちの乗った車は
湿地の中にぽつんと建っている
3階建ての地元の病院に到着しました。

その中では、50人ほどの医師と看護師が
わたしたちを待っていました。

タイ赤十字で働いているクリスが作った教材を使った
「家庭医が診るHIV」についての講義が始まりました。
彼がひとりで作ったその教材は、
HIVの診療に際して必要なことが
きっちり網羅されていて、しかもわかりやすい、
とてもすばらしいものです。

彼は、というより、そこに出向いた4人のうち
ベトナム人医師のワンを除けば、
誰もベトナム語を話すことができません。

ワンは事前に教材をベトナム語に翻訳してくれていて、
しかも、当日もクリスの英語の説明を
逐語訳しながら、講習会を進行してくれました。

●HIVはどんな病気か

●どのような症状を見たら、HIV感染を疑うべきか

●HIVに感染している人が合併しやすい感染症と
 その治療法

など、2日間に渡って、クリスは丁寧に説明を続けました。
講義の中には「HIVの治療薬」の項目もありました。

この講習が行われたのは2003年の初夏のことです。
この時期には、まだ
HIV治療薬が使われている国や地域は限られていました。

WHO・1でご紹介したように、
「2005年の12月までに
300万人のHIV感染者を治療しよう」
という
「3 by 5 計画」が2003年末に提唱された背景には、
その時点で多くの途上国には
まだHIV治療の薬が使える状況になかった
事実があります。

この時、ホーチミン市の貧しい郊外の町では
HIV治療薬というのは、
まだあまり現実感を伴う話ではありませんでした。

HIVの治療薬というのは、
その使い方をきちんと理解している
医師や看護師がいなければ
効き目がない、どころか害になってしまいます。

ですから、「3 by 5 計画」で
この地域にHIV治療薬が届く前に、
薬を実際に処方する医師や看護師に
治療のことをよくわかっておいてもらうことは、
何よりも大切なことなのでした。

クリスの教材を使った講習会は
無事、二日間の日程を終えました。

では、今日はこの辺で。
みなさま、どうぞお元気で。

本田美和子

2005-12-09-FRI

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