PHILADELPHIA
お医者さんと患者さん。
「遥か彼方で働くひとよ」が変わりました。

手紙170 医療制度のしくみ・7
フィラデルフィアの医療保険会社1



こんにちは。

フィラデルフィアで働いているとき、
いろいろな角度から医療を勉強する、という趣旨で
医療保険会社に数日間通ったことがありました。

病院以外の場所で医療を眺める、というのは
とても面白い経験でしたし、
しかも、夕方早い時間に解放されるので
その後遊びに行くこともできて、
いろんな意味で、楽しめた期間でした。

わたしたちが通ったのは、
1936年に設立された
米国で最も歴史のある保険会社の一つで、
フィラデルフィア中心部の
ビジネス街にそびえる高層ビルがまるごと
そのオフィスになっていました。

医療保険が
19世紀末、ビスマルク時代のドイツに生まれた、といった
大まかな保険制度の歴史の話を聞いた後、
現在その会社で行っている事業の説明を
わたしたちは受けました。

米国において、
現在医療費がどのように使われているのか、という話は
たいへん興味深いものでした。

米国に住んでいる人たちの健康状態を
1)健康
2)急性期の病気

  (たとえば風邪、盲腸炎、骨折などです)
3)慢性期の病気
  (ぜんそく、心不全、透析が必要なくらいの
   腎臓病などです)
4)重症
  (集中治療や人工呼吸器が必要な状態にある患者さん)
という風に分類すると、

米国での健康状態の割合は
1)健康な人 74%
2)急性期の病気の人 15%
3)慢性期の病気の人 10%
4)重篤な状態にある人 1%
ぐらいだと考えられています。

これらの人々に対して
使われている医療費はどのくらいか、というのが
この日のトピックで、その内訳は
1)健康な人に使われている医療費 15%
2)急性期の病気の人に使われている医療費 28%
3)慢性期の病気の人に使われている医療費 30%
4)重篤な状態にある人に使われている医療費 27%
なのだそうです。

病気である期間が長くなればなるほど、
病気が重篤になればなるほど、
医療を必要とする場面は多くなるでしょうし、
それに応じて費用がかさむのは当然のことだと
思ってはいたのですが、
1%の人々に対して、
全体の3割近い医療費が費やされていることを知ると
保険会社の人が
「医療費はこんな偏った使われ方をすべきではないのです」と
強調したくなる気持ちも
わからなくもない気がしてきました。

でも、わたしは、逆に
特に病気のない、健康な人に
15%もの医療保険が使われていることに
びっくりしていました。

日本の健康保険は、
何かしらの病気がないと使うことができません。
ですから、健康診断や合併症のない妊娠・分娩では
「これは病気ではない」ので
保険を使うことができずに、
全額を自己負担することになっています。

そういえば、米国で働くようになってから
「健康診断」で外来に来る人を
たくさん診るようになっていることを
話を聞きながら思い浮かべていました。

保険会社の人の話はさらに続きます。
「社会の中で、健康な人の割合を高くしていけば、
 慢性期・重症の患者さんの割合は下げることができます。
 つまり、
 医療にかかるコストを下げることができ、
 社会全体の利益が上がっていくのです」

社会全体の利益、つまり健康状態の改善は
公衆衛生学が目指すもの、そのものですから
医療の分野で働く人であれば誰でも、
そうであって欲しいと願うと思います。

でも、それだけでなく、
大都市の中心部にこんな立派なビルをもつ
この保険会社の個別の利益も
相当なものに違いありません。

保険の大きな仕組みと
その求める利益について学んだ後、
わたしは、その翌日に
この会社が個別のケースに関して
どうやって利益を確保しているのか、という
典型例を目の当たりにすることになりました。

次回はその時のことについて
ご紹介しようと思います。

では、今日はこの辺で。
みなさま、どうぞお元気で。

本田美和子

2003-05-28-WED

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