PHILADELPHIA
お医者さんと患者さん。
「遥か彼方で働くひとよ」が変わりました。

手紙169 医療制度のしくみ・6 米国の保険選び


こんにちは。

アメリカで初めて仕事にでかけた日の朝、
山のような書類を渡されて
早めに手続きを済ませるようにと言われましたが、
その中には医療保険の申込書もありました。

パンフレットによれば、
3つの保険会社が
それぞれいろいろな内容の医療保険を出していて、
合計7、8種類の医療保険の中から
自分に一番ふさわしいものを
選ぶ仕組みになっていました。

自分が受診したい病院には
たいていどこへでも行ける、
制約の少ない保険もありましたが、
その保険会社と
契約を結んでいる医療施設を受診しなければ
保険金が支払われない医療保険が大半でした。

そのなかには、
契約を結んでいる医療施設であれば
行きたい専門科を自分で自由に選んで
受診することができる保険もありましたが、
保険会社のリストに載っている医師の中から
かかりつけの医師をひとり選び、
そこを受診して、紹介状を書いてもらわなければ
専門医を受診できない制度をとっている保険もありました。

さらに、外来通院と入院は
それぞれ異なった保険金の給付制度になっていて、
自己負担額も保険によって大きく違ってきます。

また、歯科治療の保険は医療保険とは別になっていて、
わたしの場合、就職して最初の1年間は
歯科保険には加入できない決まりになっていました。

日本の健康保険料は
収入に応じた掛け金額となっていますが、
米国での民間医療保険は
自分が選んだ医療保障に応じて
掛け金が決まる仕組みです。

ですから
選ぶ医療保険に応じて月々の保険料は異なり、
扶養する家族の分も含めて、
人数分の掛け金が
お給料から天引きされることになっていました。

と、ざっとご紹介いたしましたが、
おわかりいただけたでしょうか。

一晩かけて、パンフレットをよんだわたしの結論は
「よくわからない」。

ともかく、病気になって調子が悪いときに、
医療保険の支払いのことで
アメリカの保険会社と戦う元気は
わたしにはとてもなさそうだ、とあきらめて
一番高い、入院も外来受診も手広くカバーする
保険を選ぶことにしました。

仕事を始めてしばらくたったころ、
友達と保険の話になり
自分が加入している保険と掛け金のことに
話が及んだことがありました。

わたしが払っている額を聞いた友達は、口を揃えて
「やめろ」と言いました。

「そんなに毎月払うのは馬鹿げてる。
 その分貯めとけば、
 レジデントが終わるころには
 ビジネスクラスで旅行に行けるよ」

「少なくとも、入院のために
 そんなに手厚い保険をかける必要はないよ。
 だって、何も持病はないでしょう?」

「でもね、アメリカに来た翌日に
 事情もよくわからないまま
 保険を選ばなきゃいけなかったし、
 病気で参ってるときに
 保険会社の弁護士と
 英語でけんかする自信がなかったのよ」

と、反論してはみたものの、
彼らの言うとおり、
入院はもとより
外来受診も数年に一度くらいの健康状態のわたしには
その高額な医療保険は、
現実問題として
あまり適切ではなさそうに思えてきました。

それで、翌年からは、友達の多くが加入している
安い方の保険に切り替えたのですが、
結局、昨年帰国するまで、医療保険を使ったのは
コンタクトレンズを買ったときと、
歯の検診に行ったときだけでした。

わたし自身にとって、
医療保険を使う機会はほとんどありませんでしたが、
毎日の仕事の中で、
患者さんの医療保険については
さまざまな経験を積むことになりました。

次回は、その中からいくつかの例を
ご紹介しようと思います。

では、今日はこの辺で。
みなさま、どうぞお元気で。

本田美和子

2003-05-15-THU

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