PHILADELPHIA
遙か彼方で働くひとよ。
ニューヨークの病院からの手紙。

手紙141 家庭内暴力・12 おわりに(2)

こんにちは。

家庭内暴力のシリーズの最後に
わたしの身近で起こった話をお伝えしています。

夫から数年にわたる暴力を受けつづけてきたことを
ついに話してくれた友達に、
わたしたちは
ともかく、自分たちで
できるだけのことをしようと決めました。

地域の家庭内暴力相談センターの連絡先を調べたり、
知り合いのソーシャルワーカーに相談したり、
さまざまな団体が公表している
被害者の役に立つような情報を集めたり、
そして、何よりも
近くに住んでいる友達が
いつでも彼女と連絡をとれるようにして、
緊急の際には
すぐに来てもらえるような手はずを整えたり、
といったようなことから始めたのですが、
そんな準備をしながらも、
わたしは、心の底では
できれば
彼と一緒に住むのを止めてくれないかなあ、という
気持ちでいっぱいでした。

しばらく家を出て
一時、アパートで暮らしていた彼女は
その頃には、家に戻っていました。

物理的に、彼の手が届かないところにいれば
彼女が暴力をふるわれることもありませんが、
また同じ家に住むことになれば、
これまでのように
暴力が繰り返されてしまうんじゃないか。

遠くに住んでいて
肝心な時には役に立たないわたしは、
ひとりでやきもきしていました。

そんなある時、わたしは彼女と電話で話しました。

彼女はとても優しい女性で
仕事の合間を縫って、大学院へも通っています。

「みんながわたしのことをすごく心配してくれていて
本当にうれしいと思っているのよ」

「彼の暴力のことを誰にも言えなかった間は
とても辛かったけど、
こうして、みんなに助けてもらえて
幸せだと感謝してる」

それから、彼女は
わたしが何度もしつこくほのめかしている、
彼と離れて暮らすことについて、
次のように話してくれました。

「今の生活はね、
仕事も忙しいし、学校もちょっと大変なの。
ほかにも、彼の病気のこととか、
家のローンのこととか、
考えなきゃいけないことがいろいろあって、
今すぐ、こういうことを
みんな投げ出しちゃうことは、できないと思う」

わたしは
彼女の言葉が心に染みました。

もちろん、
これとは違った取り組み方もあるでしょうが、
身の安全と同じように
彼女の生活もまた、とても大切なもので、
「今、すべてを投げ出すことはできない」という
彼女の気持ちはすごくよくわかります。

生活の中のいろいろなことについて
どのように順番をつけて過ごしていくか、
ということはとても難しくて
その人にしか決めることのできないことだと思います。

ともかく、周りにいるわたしたちは、
彼女が安全に暮らしていけるような手助けを
できるだけ用意して、
後は、それが必要なときの連絡を待っています。

彼女のように、家庭内の暴力に対して
今すぐ行動を起こすことが難しい状況にある方も
いらっしゃるかもしれません。

それは、別に悪いことじゃないと思います。

ただ、ご自分の身を守る手段については
折りに触れ確認しておいて、
いざ、というときのタイミングを
どうぞ逃さないでください。

あなたが誰かに
暴力をふるわれていい、という理由は
どこにもありません。

当初、大切な友達のとても個人的な問題を
ここで紹介するつもりはなかったのですが、
「ほぼ日」で触れてもいい、と許してくれたので
かいつまんでお話しすることにしました。

家庭内暴力について
わたしがお伝えしたかったことは以上です。

長い間、おつきあいくださいまして
どうもありがとうございました。

次回、もう一度
いただいたメールの中から一通ご紹介して
このシリーズを終わることにしようと思っています。

みなさま、どうぞお元気で。

本田美和子

2002-04-28-SUN

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