PHILADELPHIA
遙か彼方で働くひとよ。
フィラデルフィアの病院からの手紙。

手紙84 HIV11 日和見感染1

こんにちは。

HIVの治療について
考えなければならないことは
大きく分けて2つあります。

ひとつは、前回までにご紹介してきた
HIVそのものについて。

定期的に血液中のHIVの量を測って
できるだけ、その数が少なくなるように
薬を選択する、といったことが
これに当たります。

また、これまでもご紹介してきたように、
HIV感染からある程度の時間が経っていくと
自分を外敵から守るための自衛機構、
「免疫」の働きが次第に弱くなっていってしまいます。

このために、
元気な時なら十分に戦えて
体の中に入ってくることを防げていた、
さまざまな病原体が
そのバリアを超えて、やすやすと体に入り
暴れまわるようになってしまいます。

この時までには、
もう、わたしたちは自分の体を守る術を
失ってきてしまっているので、
この感染が文字通り
「命取り」となってしまうのです。

ふつうの免疫の状態なら十分防げたはずの病原体が、
免疫の働きが弱ってきたために
やすやすと体の中に入ってくる状態を
医学的には「日和見感染」と呼んでいて、
この「日和見感染を防ぐ」というのが
2つめの大きな治療の柱になってきます。

今日はこの2つめの柱、
日和見感染を
いかに防いで元気ですごしていくか、ということについて
ご紹介していくことにします。

体の免疫の働きを測る目安は
リンパ球という、血液の成分のひとつです。
具体的にはCD4という名前がついている
リンパ球を定期的に数えていくことになります。

一般にHIVの感染後、
CD4は次第に減っていきます。

HIVの治療を始めると、
最初の2、3ヶ月は急にCD4の数が増えるのですが、
この増加は残念ながら
免疫の状態の改善とは直接関係がないようで、
実際には、
治療開始から3ヶ月以降のCD4の値が
実際の免疫の状態を反映していると考えられています。

元気なときには
CD4の数は血液1μLあたり
500から1700個くらいあるのですが、
これが200を切るくらいになると
さまざまな日和見感染を起こす可能性が高くなってきます。

前回までにお伝えしたように、
HIV治療薬・プロテアーゼ阻害剤が市販されるようになって
AIDSによる死亡率は激減しましたが、
これは、治療によって免疫の働きが復活してきたために
日和見感染で死ぬ患者さんが減ってきた、と
言い換えることができます。

実際に、これはアメリカでの統計ですが
メジャーな日和見感染症
(これについては次回に触れます)で
亡くなった患者さんの割合は
プロテアーゼ阻害剤が広く使われるようになってから
7分の1に減った、という結果も出ているようです。

でも、いかに強力なHIVの治療法があったとしても
日和見感染で大切なのは、
ある程度免疫の力が落ちてきたところで
つまり、CD4の数が減ってきたところで、
日和見感染を起こさないように
予防の薬を飲み始める、ということです。

予防薬を絶対に飲んだほうがいい、と考えられている
日和見感染を起こす病原体は
4つあります。

次回はその4つの日和見感染について
お伝えしてみようと思います。

あと、もう少しで終わります。
みなさま、どうぞお元気で。

本田美和子

2001-03-19-MON

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