PHILADELPHIA
遙か彼方で働くひとよ。
フィラデルフィアの病院からの手紙。

手紙52 胸が痛いとき2
     可能性のある病気・鑑別診断

    
こんにちは。

「胸が痛いとき」の話の続きです。

「胸が痛いんです」という患者さんがやって来ると
わたしたちの頭の中では、アラームが鳴り始めます。

いろいろな可能性を考えながら
その人のこれまでの健康状態や、症状などを詳しく聴いて、
疑いのある病気を絞り込んでいく作業を
わたしたちは「鑑別診断」と呼んでいます。

今日は、胸痛をおこす可能性のある病気を
ご紹介していこうと思います。

「胸が痛い」と言われたとき
わたしたちはまず、胸にある臓器に問題がないかどうか、
考えていきます。

胸にある臓器をからだの外から順に挙げると、
皮膚・脂肪・筋肉・肋骨・背骨・肺・食道・心臓。
痛みは、わりと臓器によって特徴をもっているので
患者さんの話を聴きながら、
その原因を絞り込んでいきます。

ふつうの人がそんな病気の判断をするのは、
普段あまり必要ないのですが
もし、胸が痛くなったとき
「こんな可能性もあるかも」と、
ちらっと考えて病院を受診して下されば
未然に防げたり、少なくともそれ以上悪くなるのを
食い止められる可能性もあるので
ちょっとだけ、付き合って下さい。
上に挙げた順に番号をつけました。

1・皮膚
たいてい、見た目の変化があることが多いのですが、
よくわからないこともあります。
たとえば、
胸の右側の一部の皮膚だけが焼け付くように痛む時には、
水疱瘡にかかったことがあるか、
最近の体調はどうか、
痛いところに水ぶくれができてないか、
というようなことを尋ねるのですが、
これは帯状疱疹(ヘルペス)を考えながら
診察を進めていく例です。

2・脂肪・乳腺
脂肪や乳腺が豊富なおっぱいも痛みを持つことがあります。
しこりがあったり、
皮膚の色や様子が変わったとき、
また、分泌物があったりした場合には
なるべくはやく受診してください。
炎症を起していたり、癌だったりすることがあります。

3・筋肉
いわゆる、筋肉痛であることが多いです。
でも、あとでご紹介する心臓や肺の病気が
隠れていることもあるので
特有の症状(心臓や肺の項目を読んでみてください)が
あるときにはすぐに受診してください。

4・肋骨・背骨
咳をしただけでも肋骨が折れてしまうことがあります。
また、肋骨の先っぽは軟骨になっているのですが、
ここに炎症を起して痛むこともあります。
痛むところを指で示せて、
さらに押したときにもっと痛くなる、
というのが典型的な“骨関係”の痛みです。

5・肺
もう1年前になりますが、ここでご紹介した肺梗塞。
肺の中の血管が詰まって、血液が肺に送られなくなって
からだが酸素不足になる肺梗塞は、
致死率も高い病気です。
足がむくんだり、痛みがあった人が
急に胸が痛くなって、息苦しくなり呼吸の回数が増える、
というのが典型的な肺梗塞の症状です。
特に、寝たきりだったり、長距離ドライブや飛行の後、
癌の患者さんや経口避妊薬を飲んでいる人は
要注意です。

肺炎や、気管支炎でも
もちろん胸が痛くなることがあります。

あと、若いやせ型の喫煙者などに多いのですが
肺が破けて小さくなってしまう、
気胸、という病気もあります。
これも突然胸が痛くなって、息苦しくなり
胸のレントゲンで小さくしぼんだ肺が確認できます。
たいてい、胸にチューブを差し込んで
肺からあふれた空気を抜き取って治療します。
残念なことに、これは何度も繰り返して
起こることもあって、その場合は手術が必要になります。

6・食道・胃
「胸が痛い」とやってきた人に
じゃあ、これを試してみてください、と
マーロックスという白いシロップの胃の薬を渡すと
すーっと良くなることがあります。

食道の炎症や、胃潰瘍が
胸の痛みの原因になることは、珍しくありません。

あと、もちろん食道の破裂とか痙攣でも
胸が痛くなります。

7・心臓
ようやくたどりつきました。
胸の痛みのシリーズは
この心臓の話をしたくて始めたのですが
長くなりすぎたので、続きは次の機会に。

では、今日はこの辺で。
みなさま、どうぞお元気で。

本田美和子

2000-06-18-SUN

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