PHILADELPHIA
遙か彼方で働くひとよ。
フィラデルフィアの病院からの手紙。

手紙19 音叉

こんにちは。
薬の話が続いたので、
気分転換に今日はコンサートについて。

音楽を聴くのは昔からとても好きでした。
初めて自分でチケットを買って行ったコンサートは
ヘンリー・マンシーニ オーケストラ。
映画音楽が好きだった、中学校1年生のときでした。

市民会館のロビーでぶらぶらしていたら
中学校の生活指導の先生にばったり会ってしまって
一人で来たとは言えず、
とっさに「母はいま客席にいます」と嘘をつき
慌てて親に終演時間に迎えに来てくれ、と
泣きを入れる電話をかけた小心者な子供でした。

東京で暮らすようになってからは、お財布と相談しつつ
いろいろ出かけるようになりました。

まぬけな思い出は、マンハッタン・トランスファー。
五反田で切符を買ったときには、確かにあったチケットが
中野サンプラザの入り口では
どういう訳だか、なくなってるのです。

困ったなあと思いながら一応頼んでみるか、と入り口で
「さっきまで切符持ってたんですが、
今どうしてもみつからないんです。
席の番号は覚えてるんですけど」
と言ってみたら、入れてもらえました。

今思うと、
なんでそんな無謀なお願いを臆面もなく言い出せたんだ、と
恥ずかしくなりますが、
きっと上京したての哀れを誘う形相だったので
許してもらえたのでしょう。

野外ステージや、小さなライブハウス、
大きな劇場などいろんな所でいろんな音楽を聴きましたが
わたしのベストパフォーマンスは
ボビー・マクファーリンのコンサートです。

2時間のコンサートで使った楽器は、声とAの音叉だけ。
20人くらいのダンサー兼シンガーと一緒に、
ローファーのかかとで音叉を叩いて音を合わせると、
厚みのある旋律をホールいっぱいに響かせました。

Don't worry, be happyが街によく流れていた頃で、
絶対やるだろうと思っていたのに、
結局最後までそれはありませんでした。

流れるようなからだのうごきと、リズムと旋律。
こういった表現を
パフォーミングアートと呼ぶんだなあと実感し、
人間が楽器であることをつくづく感じたコンサートでした。

今はオーケストラの指揮とかもやってるみたいですね。

音叉は病院でも使います。
聴力を確かめるだけではなくて、
鳴らしたときの振動を感じることができるかどうかという
振動覚の検査にも欠かせません。

すごく前のことなのに、音叉を使うたびに
あの時は楽しかったなあと、思い出して
幸せな気分をひとりでちょっと味わっています。

では今日はこの辺で。
みなさまどうぞお元気で。

本田美和子

1999-10-02-SAT

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