アイコン
いままでの記事 2006/03/16  
 
第6回 時代の価値観で生きてきた動物。
糸井 人間の手足が2本で
だいたいこのくらいの速さで走れて
食べる量はこのくらいで、
視力はどのくらいまで見えて、という
この人間の形そのものは、
生きる必然性で、できてきたものです。
呼吸器も、窒素と酸素の割合に対応して
できてきた。
言ってみれば、人体は、
受け身の連続で作られてきたんです。
岡田 はい。
糸井 もし人類が変わるとしたら、
大きな環境の変化に
適応せざるを得なくなったときだと思うんです。
受け身として、変わる。
岡田 人間の持つ生命や本能が
強力に人間にはあって、
何か大きなことがあったらそこに戻って変化する
という考え方じたいが、
ぼくにはできないんです。

ぼくが不思議なのは、
ぼくより上の世代は、
そういう考えを持っているということです。
この世界は作られたものであって、
崩れれば人間本来のものが
剥き出しになる、という考えです。

これが、ぼくよりずいぶん下の世代になると、
この世の中は、
誰かが作ちゃったシステムだから、
何を逸脱したとしても、壊れっこないんだよ、
と思っている。
強者は強者で、弱者は弱者。
システムはそのままだし、
好き勝手やってもいいんだ、と。
ぼくは、ちょうどふたつの世代の間なんですよ。

例えば、文明が滅びるときは、
その種族も滅びる、という説があります。
インカもアステカも、文明が滅びたときに、
そこに生きてる人たちが、
数世代前の文明にたくましく戻って
生きたかというと、そうじゃなかった。
ローマ帝国が滅びたら
ローマ人全員がいなくなっちゃうし、
トロイ文明が滅びると、
トロイの人がいなくなっちゃう。
そこにいた人たち全体が、
いなくなっちゃったわけです。

そのくらい、文化や文明は
強烈なものだからです。
文化や文明が壊れてしまうときには、
生命や本能という相は出てこないで、
滅びてしまうんです。
ぼくの考えでは、本能の相は、
既に人間から奪われているから。
原始人に戻って
暮らしたりはできないんだな、と思うんです。
糸井 文明が滅びたのは
皆殺し、とかじゃなくて?
岡田 皆殺しでもないし、病気でもないんですよ。
「世界史の謎」と言われてるんですけど、
あまりにもそういうことがありすぎるんです。

文化文明のほうが生存本能を持っているから
そこから突き放されちゃうと、
みんなヒュウって生命力がなくなって
死んじゃうんだろうな、と考えたほうが
ぼくには辻褄が合います。

ぼくらは「原始の人間は強くたくましかった」
という信仰を持って育てられました。
なんとなく、そうじゃなくて、
縄文時代や弥生時代ですら、
もう人間は、既にたくましい生命力はなくて、
その時代の価値観によって
ずっと生かされているんだな、というふうに、
10年くらい前から考えてたんです。
糸井 うん、うん。
それはおもしろいですね。
岡田 おもしろいですねって言われて、
こんなにうれしい俺!
素直ないい奴!
糸井 ハハハ。
岡田 それに、ですね、
恐竜が滅んだ原因のうち、
わりと最新の説で、
大きな絶滅の原因だと言われているのが、
「親と断絶されたら、
 生物としての繁殖ができなくなった」
というものなんです。

人間以外の生物も
親の行動を見て学んで、
それをまねしているから
生き長らえてる、ということが
かなりあるそうなんです。

生まれたときに親から完全に隔絶されていると、
セックスができないし、育児もできない。
つまり、育児やセックスは
本能に組み込まれてるものではなくて、
模倣による、いわゆる文化だということに
なるんです。

あるところで親の世代と
断絶された子どもの世代がいたら、
親の行動を模倣できなくなります。
恐竜が滅びた説は4説くらいあって、
どれがほんとうか、というのもなくて、
4つが同時に起こっちゃったから、と
言われているんです。
あんがい、生物の本能というのは
たいしたもんじゃなくて、
それよりも何かを模倣したり、
言葉を使って得ていく文化というものが
本能に匹敵するくらい巨大な情報であり、
存在であるんだろうな、と思います。

恐竜みたいに脳が少なくて、
本能だけで生きてるような奴らですら
まねるものがなかったら、滅びてしまうんです。

‥‥てなことを、ね(笑)。
糸井さんが指摘されたとおり、
ぼくは、物語で考えちゃう性質なんで、
ひょっとしたらこれもぼくの歌かもわかんない。
糸井 でも、ぼくはぼくで、逆のものを見つけて
喜ぶほうの歌手ですから。
岡田 ハハハハ。
糸井 たとえば、犬が、おしっこしたあとに
どうして後ろ足をシャッシャッシャッ、
と、やるのか。
「おいそこ、ソファだぜ?」って(笑)。
あるいは、骨みたいなものを見つけては
見えない幻の土をかけてる。
誰に教わったわけでもないのに、
そういうことを体に埋め込んでる。
これには、驚くのと笑っちゃうのと、
それからちょっと感心しちゃう。
それがぼくの歌い方。
そっちを発見したがるだけなんですよ。
岡田さんは、
そっち側じゃないほうを
発見したがるんだと思うんです。
見たがるものが違う。
岡田 そうですね。
「まだ半分ある」人と
「もう半分しかない」人論みたい。
でも、なんだか、この話を続けると、
どんどん自分が損してるみたいな気が‥‥。
糸井 しますか。
岡田 します(笑)。
(つづきます!)
 
もどる
©2005 HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN All rights reserved.