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いままでの記事 2006/03/09  
 
第1回 耳を通りすぎる、カラオケの歌。
岡田 糸井さんとは、今日、
はじめてお会いしますよね?
糸井 そういえば、これまで
お会いしていそうなのに、
意外ですね。
岡田 会ってない‥‥ですよね?
糸井 会ってない‥‥ですよね(笑)。
岡田さんの近著『プチクリ』
読ませていただきました。
これは、いわば仕事論ですね。
岡田さんが以前書かれた『ぼくたちの洗脳社会』
続きのようにして読める本だと思いました。

『ぼくたちの洗脳社会』は、ほんとうに
おもしろくてスリリングでしたし、
テレビでいろんなことをおっしゃっている
岡田さんを見ては、
「知ってるなぁ、なんでも!」
「もしも、こういう人が近所にいたら
 便利だろうなぁ」
と、つねづね思っていましたよ。
岡田 ハハハハ。
でも、ぼくは、自分で言うのもナンですが、
あんがいまじめで、使いでのない人間なんですよ。
糸井 そういえば、『プチクリ』は、
かなり真剣に、まじめに
書いていらっしゃいますね。
「必ずこの場所に行ける」という約束が、
わかるように書いてある。
岡田 はい、わかるように(笑)。
ぼくは、話をしていて、
「よくわかんない」と言い出す奴がいたら、
そいつが納得するまで
とことん説明するタイプです。
たぶん、そういう嫌な性格が(笑)、
この本に出ているんだと思います。
「こんなに広範囲に考えて、
 お品書きを作ったんだから、
 俺が間違ってるはずがない!!
 おまえの好みで左右するな!」
糸井 部活の先輩みたいだね(笑)。
ぼくは、おもしろく読みましたよ。
『プチクリ』はね、みんな、
読んだほうが楽になりますよ、あきらかに。

欲を言うとしたら、ちょっとだけふざければ、
もっとよかったかもしれないね。
岡田 ‥‥うんうん、いやいや、
そんなことは考えたこともなかったです。
糸井 そうですか。
岡田 生まれてこのかた。
糸井 そうですか!
岡田 はい。
どちらかと言うと、テレビに出たりするときには、
ぼくは発言に反論の余地を残すことが多いんです。
それは
「本でちゃんと
 まじめにフォローしてるからね」
という言いわけが、自分の中にあるからです。
逆に言うと、その余地のないかんじがモロに
本には出ちゃっているんでしょうね。

今回、この『プチクリ』を出すにあたって、
本が売れるということについて、
すっごくまじめに考えたんですよ。

ものを書くことを職業にしている人と話すと、
「要するに、書くものを
 “ヌルく”すれば売れる」
とか、
「ほんとうはここまで書く、というところを、
 あるところで止めちゃえば売れる」
ということを言われたりします。
ぼくも「そうなのかな?」と、
『プチクリ』を書くまでは思っていたんですが。
糸井 この本は、違いますね。
岡田 ええ、違います。
それからもうひとつ、この『プチクリ』には、
ぼくが書いてきた本とは
大きく違う点があります。

ぼくは、これまで
「応援歌」というようなものが
嫌いだったんですよ。
「みんながんばれ」とか、
むやみに書いてあるようなものが。
糸井 はい、わかります。
岡田 そんなに「がんばれ」だらけだったら
世の中、しょうがないじゃないかと
思っていました。
これまで出したぼくの本は、
応援歌ではなくて、
「ほんとうは世の中こうなってるんだ」
「思い知れ!」
という内容ばかりだったんですよ。
糸井 ええ、そうですね。
「俺は俺だ」とブイブイ書いているところに
気持ちよさがありましたよ。
岡田 でも、それも、なんだかちがうのかな、
と思いはじめたんです。
みんなが「思い知った」ところで、
この世の中がどうなるもんでもない。
みんなが思い知るより大事なことは、
明日元気に会社や学校に行けることのほうだから。

明日元気になるためなら、
「思い知れ」より「がんばれ」のほうが
100倍、役に立ちます。
「思い知れ」は、書いてる側が気持ちいい
カラオケみたいなもんなんだけれども、
「がんばれ」は読んでる側が気持ちいい。
そんなふうに考えて、
売れるというのはこういうことだ、と
思ったんですが、
でも、ちがうのか‥‥なぁ、なんて(笑)。
糸井 ぼくも、そういうこと、よくやっていましたよ。
「ネクタイを締めることで
 相手が、ぼくの話を聞いてくれるんだったら
 ネクタイを締めればいいじゃないか、俺よ!」
と、慣れないネクタイを締めて
出かけたとする。
でも、そこで譲り渡したぶんだけ、
「自分」が出なくなるんですよね。
岡田 うんうんうんうん。
いきなり本の反省会(笑)。
糸井 いきなり反省会(笑)。
でもね、大ベストセラーができる理由や方法って、
もう、ないのかもしれない。
みんなは、同人誌を買うようにして
本を買っていますから。
つまり、本を買う人というのは、
自分も「書くつもり」の人なんです。
そんなに大勢は、いるはずないんですね。
岡田 本って1日に200種類が
発売されるといいますから、
そうなると「本を買え」と
言うほうが無茶だと思います。

それに、著者ひとりの考えが書いてある
200ページくらいの紙の束を「読め」と
強要することじたいが
ストレスなんじゃないだろうかと、
ぼくは思うんです。

ぼくは、例えば講演会なんかで
人の話を聴くと、30分で
ストレスがたまっちゃうんですよ。
すぐに自分の話もしないと気がすまない。
糸井 交互に、やりたくなるんですね。
岡田 はい。ですので、誰かの本を
200ページ読むとすると、
同じくらいの分量を考えて
自分でメモを作らないと、
読めないんですよ。
糸井 ハハハハ。
岡田 もしくは、誰か知りあいに、
「今こんな本を読んでて、
 ここまで読んでんだけど、
 俺はこう思うんだよね」
と、言いながらまた読む、とか。
糸井 でもそれはきっと、岡田さんだけじゃなくて、
ほんとはみんなそうなんでしょうね。
岡田 そうだと思います。状況さえ許せば、
みんなそうしたいだろうし。
糸井 カラオケで、みんなが
次に自分が歌う曲のページを探しながら、
人の歌を耳からだけ聴いている。
それが、いまの状況。それがプチクリなんだ。
岡田 まさに、そうです。
(つづきます!)
 
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