よりみち
パン!セ
中学生以上すべての人たちへ。
キミたちに、
伝えたいこと。



にんげん「健やかに」「バランスよく」
「からだにいいもの」を食べましょう、
と言われても。なかなかそうはいかない。
だって、理想や正しいことばかりでは。
にんげん生きてはいけません。
味というものは、
気がつかないうちにじわじわ、
自分のからだに浸みこむ。
知らず知らず、とても強く、
がっしり複雑に根っこを広げ、
張りめぐらせている。
だから、
毎日毎日あたりまえのように食べている
自分のうちの味が、
しだいに基本の味に育っていく。
それはごく自然で、
とうぜんの成り行きなのです。
味覚はどんどん発達していきます。
「あれ? 意外にいけるじゃないの、
と箸をのばす。
「わわ!」今までソンしてたよー。
そのときの快感ったらありません。
世界がぱあっと明るくなった気がする。
そして、にんまりほくそ笑む。
「オレもオトナになったんだな〜」



ひとりひとりの味

平松洋子

(購入はこちらAmazon.co.jp)
ちょっと見てください、この1冊。
そのカバー(ジャケットですね)のイラストを。
そして開いてください、本体を。
そしてまず、聞いてください、
こりゃもうすべてが台無しかと見紛う、
扉のすね毛の少年の心の叫びを。

このふれ幅。
このニュアンスの違い。
どちらもいかしたイラストであるにちがいないのですが、
このふたつのありようは、
私はまんま、平松洋子さんの文章が包み込むものの
とんでもないゆたかさや大きさを
推察するヒントになっていると思うのです。
ふたつの異なるものをすっぽり包み込むのではなく、
これらが渾然一体となって、
まったくべつの想像力や現実すらを生み出す…
もちろんすみからすみまで読み尽くし、
味わい尽くしていただきたい、といこうとが大前提、
先決ではあるのですが、

平松さんがどんなに「身近な」食、を
描かれていようが(意外と何が身近なことなのかすら、
私たち、知らなかったりするんです)、
具体性や日常のディティール
(思えば、がさつに大づかみなわが日々…)を、
リアルにリアルに描かれていようが、
おもわず涙する、鮮やかで切ない思い出を
静かに描かれていようが
(子どものときの味の体験は、
 強烈にからだが覚えていることを
 思い出させられたりします)。

読後、じつは、
この本の類いまれなる、
妙に無頼な内容を思って言葉を失うとき。

わたしはこのふたつのイラストのようすを一体化させ、
とんでもなくシェイクさせ、
しばらく時間をおいて、
それをしずめて心のなかで眺めることで、
「味」と「人間」の深い深いかかわり、
つまり人間が生きるということを
かつてないかたちで全力で描かんとされている、
平松洋子さんの洞察力と体力と精神力ともちろん
その筆力に圧倒される気持ちを、少しだけしずめ、
ようやく平松さんの文章に
はじめて出会える気がするのです。

年若き人たちに向けて、
これまでこれほどまでに奥行きの深い、
「味」にまつわる本があり得たでしょうか。
贅沢な1冊なんです。

ひとりひとりのたいせつな味は、
自分で発見し、自分で思いきり味わうこと。
まさしくこれ、
人生とおんなじではないでしょうか。
あまく、きびしく、にがく、
そして、こころ楽しく。

(編集担当・清水檀)

2007-07-23-MON




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