よりみち
パン!セ
中学生以上すべての人たちへ。
キミたちに、
伝えたいこと。



なにかを見て、どれだけいろいろな
感じかたができるか。
これって人間が生きていくうえで、
とてもだいじな能力だと思うのです。
ものごとを一面的に見てしまっては、
判断をあやまることになることがおおい。
「海」は美しい。
でも「海」はこわいものでもある。
この両方がわかって、
「海」をしっかりと
理解したことになる。
ゴッホのように、
ふしあわせとしあわせを背中あわせにして、
暗いんだけれど明るい、
ふしあわせなんだけれど
しあわせを感じさせるというような、
祈りにも似た美の世界を
作り出す画家もいます。
美はいろいろです。このいろいろな
美のバリエーションを知ることが、
さらにおおくの美の世界を
たがやすことになるのだと思います。
あのゴッホのようにね。



「美しい」ってなんだろう?
─美術のすすめ

森村泰昌

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本書を書かれるにあたって、
森村さんは、こんなふうなことに気をつけた、
とインタビューでおっしゃっています。

大人が当然だと思っていることの根本から
話をすることですね。
一番の端的な例が「美しい」という言葉なんです。
日常語として使うわけですが、
「美しいとはどういうことなんですか、説明してください」
と言ったときに、なかなか難しいんですね。
絵を見たときに、人は分かったり分からなかったりする。
この絵はどういう絵だと言う前に、
分からなかったら仕方ないんですよ。
分からない、じゃあ分からないとはどういうことか、
分かるとはどういうことなのか。
つまり絵は何なのかという、その土台、
基礎の部分をしっかりと話をしていくことが一番大事かな。
(「週刊読書人」2007年7月6日)

本の冒頭<「美しい」って言いますか?>
<美しいって必要ですか?>
<「美しい」世界は大きいぞ!> 
の項にまたがって引かれていくのは、
まず、くまちゃんのぬいぐるみ
(森村さんの大切なコレクション)、
スポーツカー、グレースケリーの写真。
それぞれをさして、森村さんは、
「カワイイもの」「カッコイイもの」「キレイなひと」
だとおっしゃいます。
そして次に引かれるのが、有名な写真なので、
ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、
ウォーカー・エバンズの撮った、1930年代はアメリカの、
こどものお墓の写真です。
貧しかった時代の、粗末な土くれのお墓の写真です。
しーんと静かで、「カワイイ」でも「カッコイイ」でも
「キレイ」でもなく、
不謹慎かもしれないがちょっと「コワイ」かもしれないし、
「みじめ」でさえあるかもしれない。
でも私はこの写真に感動する、と。
続いて森村さんは言います、
“そしてその感動を、
 私はあるひとつの言葉でしか言い表せません、
 その言葉が「美しい」なんです。
 「美しい写真だなあ」って私は思うんですね。”

この最初の章(第1時間目)に続き、「モリムラ美術館」
「ふしぎ美術館」「ものまね美術館」
「芸術VS芸能美術館」「しあわせVSふしあわせ美術館」
「ほねぐみ美術館」「おおきさ美術館」
「地球美術史美術館」「いつでもどこでも美術館」
以上10時間めまでの構成で、
ご自身の作品を含めた古今東西の美術作品を
読者とともに文字通りみつめながら、
さまざまな「美しさ」を発見するための
ときに謙虚な、ときに大胆なコツや
想像力の駆使のしかたについて
ガイドされつつ、
それはかなりスリリングな「美しさ」の世界へと
誘ってくださるわけです。

そして各時間の合間合間、
(休み時間とでもいいましょうか)には、わけあって、
若い読者からの森村先生へのラディカルな質問が
情け容赦なく浴びせられるのですが、
「もと登校拒否教師」の森村さんはくじけることなく、
ひとつひとつ本当に丁寧に答えてゆきます。
「美しいこととこわいこと、なにか関係あり?」
「森村さんの作品が笑われても、森村さんは平気?」
「こわくて気持ち悪い裸の絵とかを
 なぜ画家は描くのですか?」
「いま芸術家はなにに悩んでいるのですか」
「女の人になるってどんな感じ?(ちょっとキモイ!)」
「絵は商品じゃないと言ってるけど、
 なのに絵に値段があるのはなぜ」
「平凡な人間にも、美しさはありますか?」
「自然を美しいと思われますか?」……。
「ブスでも美しいって思われることあるんですか?」
「美しいと思えないものを思えるようになるんですか?」

国語も算数もだいじかもしれないけど、
正しさを探すことだけでは、豊かになれない。
まして、
おとなから押しつけられる「美」なんて気持ちが悪い。
森村さんがこの本で行われた授業そのままに、
それぞれがそれぞれの「美しさ」を発見すること、
私はいま、いちばん大切なことだと改めて思います。
こどもだけではなく、おとなも必読です。

相手が美しくない、みにくいと思うから、
相手が敵に見えてくるのとちがいますか?
森村さんの本書での、最後の問いかけです。

(編集担当・清水檀)

森村泰昌さんの個展「美の教室、静聴せよ」が
開催されます。
横浜美術館にて、7月17日〜9月17日まで。
世界初の、作家じしんによる音声作品ガイド付、
かなりスペシャルな展覧会です。必見です!

2007-07-16-MON




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