第11回
男の修羅場。
糸井 すこし、話を戻したいと思います。
倫理の中の男らしさで、よく例に出るのは、
「暴漢に襲われた彼女とオレ」・・・。
これは、みなさん、どうお考えになりますか?

相手は、ヤクザとしましょう。
もう明らかにバッジなんか見えてたりする。
・・・どうでしょう?
田中 あんまり、無理できないですよね、
自分としても。
糸井 (笑)そういう非常事態を、
田中さん、考えたことはありますか?
田中 ありますね。
当座のところは、
暴漢と仲良くしようっていう風に・・・。
糸井 カギカッコで言うと「話せば分かる」と。
田中 (笑)
糸井 柳瀬さんは、考えたことありますか?
柳瀬 ありますねえ。いくつかありますねえ。
「話せばわかる」も「逃げるが勝ち」も。
ただ、自分だけ逃げるとマズイから
追いつかれたらどうしようという要素がある。
糸井 (笑)
柳瀬 話せばわかる振りをして、
隙をついて何かしちゃうとか、考えますね。
糸井 つまり、物語仕立てじゃないと、
答えにならないわけですね・・・。
柳瀬 ならないですね。
だいたい、つまらないドラマが出てきて、
あまりのドラマのつまらなさに、
途中で考えるのやめますよね。
糸井 やっぱりそこは「保留」っていうことですね。
柳瀬 ええ。保留です。
糸井 三国志好きのしりあがりさんは、
そういうの、考えたことありますか?
田中 (笑)
しり つい2〜3日前も、彼女じゃなくて
「子どもは守れるか?」とか聞かれました。
田中 ああ・・・。
糸井 マンガの中では、ギリギリ、
そういう話を書こうとしますよね。
しり ハッピーエンドになんないですけど(笑)。
柳瀬 (笑)
糸井 マンガだったら
死んじゃっても、かまわないんだよねえ。
しり 自分で考えたのは、
「ケガまではいいかな」と思うんですよ。
糸井 うん。
しり でも死ぬのはイヤなんですよね。
やっぱり子どもだろうと彼女だろうと、
自分が死ぬのはどうもちょっと
受け入れられないかなとか思ったんですよ。
「自分が死んだら、
 きっとその人も死んでしまうじゃないか」
とか、言いわけも含めて考えると、
「その時はね逃げるかもしれないけど、
 仇は伐つべきだなぁ」とか。
こーゆーの、ヒキョーかなぁ。
糸井 (笑)現実として考えると、
ほんとにみんな、保留になるねえ。
祖父江さんは、
そういうことを考えたことありますか?
祖父江 ・・・つらいことは
なるべく考えないようにしてるのかも。
糸井 (笑)ほう。
まずは単純に言うと
君子あやうきに近寄っちゃいけないよ、
っていうのが、前提としてありますよね。
祖父江 そうですねえ。
糸井 でもまあ、この場合は、
「あやうき」が走ってくるわけだよねえ。
柳瀬 (笑)
糸井 ・・・いや、ぼく自身もわかんないんですよ。
だから、みんなに聞いてみたかったんですけど。
ここにいる人が偉いのは、
少なくとも、ウソついてないですよね。
ほら、よく「男なら助けるべきだ」とか、
すぐに答えられる人も、いるじゃないですか。
ぼくはそういうことに対する
「ほんとかな?」っていう気持ちが強いんです。

まぁ、一方では、実際は、案外、
できちゃうんじゃないかなぁっていう
期待値があるんですよね。
しり あぁ。
2〜3日前に聞かれた時に出てた例では、
小学校の校長先生とかに、
「子どもがおぼれていたら救いますか?」
という話になった時に、案外、
たくさんの人が飛びこむって言うんですよ・・・。

「飛びこまなかったら、
 あとで何を言われるかわかんない」とか。
要するに、飛びこむべきだっていう方の
プレッシャーが強ければ強いほど、
飛びこむっていうか、自分が盾になれるという。
糸井 うんうん。
しり もう、男らしさでも何でもないんですけど、
「できないけど、そうすべきだ」みたいなものが、
案外、人を救うこともあるかなぁ、と言うか・・・。

糸井 「べきだ」でついに動いちゃったことも、
ひょっとして、みんな、経験あるんじゃないですか?
ともだちが何かに巻きこまれた時に、
若いころ、ぼくもよく当事者になったんだけど、
結局は「なんで俺が!」って思うようなケンカとか
させられたりしてるんですよねぇ。

自分のことだったら、
逃げたりガマンしたりするんだけど、
他人の時には、妙にバーチャルになっちゃって。
柳瀬 なるほど。
糸井 そういう要素も考えると、正直に
ここで答えようとしても、
ほんとうの現場での答えはわからないですよね。
田中 案外、やっちゃうかもしれないですね。
柳瀬 ええ。
シミュレーションしていると、
実際に動く時とは、
ぜんぜん違う動きになるでしょうね。
糸井 ただ、今までそういう
巻きこまれたドタバタが何回かあったけど、
実は自分の中には、1個だけポイントがあって、
絶対に勝ちか引きわけるヤツとしか
やってなかったわ・・・(笑)
田中 ああ・・・。
柳瀬 なるほど。
しり ぼく、昔事務所に泥棒が入った時があって、
ドアを開けたら
いきなりそいつが飛び出してきたんです。

その時、もう夢中だけどなんか大声出して、
「おまえ、何やってんだ!」
みたいなことを言って
ちょっと追っかけたりもしてて、
「いやぁあの時はよくやったなぁ」
と笑ったんだけど、やっぱり
あとで考えると、小っちゃかったですね。
糸井 (笑)相手が。
しり 小っちゃかった。
糸井 だって、ボブ・サップが来たら?
しり (笑)サインもらったりして。
糸井 攻撃はしないけれども、
話しあいのきっかけを作る、
みたいな行動をとるんだろうね・・・。
白旗に近いような。
祖父江 そうですね。
田中 一応、直感的に、
負けの歩留まりっていうのを
パッと判断するんでしょうね、本能的に。
糸井 (笑)このへんだ、と。
田中 思えば男らしかった、
っていう話で思い出したんですけど、
昔、彼女と彼女の友だちと高速道路に乗って、
パーキングエリアに停まったんですよ。
みんなトイレに行って、
走り出した瞬間に、彼女が
「あっ!」とか言ったんですね。
「トイレに財布忘れて来た」って言ったんですよ。

その時にぼくは、
無意識に500mくらいバックしたんですよ、
高速道路を。

あとから思えば、
男らしいことしたなと思ったんですね。
糸井 (笑)男らしかったんだ・・・。
田中 ただ、今あらためて考えてみると、
やっぱりその時、バックしても
追突されないだろうなぁというのは、
本能的に見えてたからやっちゃったんじゃないか、
と思いますね・・・。
糸井 やっぱり、本能的というか、
動物的直感みたいなのがはたらくのかなぁ。
祖父江 きっとそうですよ。
糸井 でしょうねえ。
祖父江 カンで動くしかなくなりますねえ。
糸井 そのセンスを持ってないと、コワイね。
柳瀬 もしかしたら、
けっこう実は演算値みたいなのが
その人なりに蓄積されているのかも。
たとえば、スポーツ選手は、
反射のスピードで
どんなシチュエーションでも、
パンと反応できるじゃないですか。

バスケットやサッカーの選手だったら
習ってないフォーメーションプレイでも
パッとできるみたいなのがあって、ただ、
訓練されてない人が訓練されてない場所で
訓練されてないシチュエーションに出た時には
凍っちゃうとか・・・。
糸井 凍っちゃうってのはダメだね。何にせよね。
柳瀬 うん。
だから動ける時っていうのは、
実は自分の中で、1回は
演算をしているようなことなのかもしれない。
田中 うん。
  (つづく) 

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2003-03-11-TUE


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