第5回
 男の博打性。 
糸井 一周まわったところで、
自分の男観を言うと・・・
ぼくが、「男らしいなぁ」と
最初に思ったのは、橋本治くんと話した時です。

男らしいという言葉は
こういう時のためにあるんだと思ったのは、
単純なんですけど、若いころのある日、
「糸井さんさぁ、お金貸してくんない?」
って訊かれたことなんですよ。
「いくら?」
50万円か20万円か、10万単位のお金。
若い者どうしだから、右に左に、
ポンポン動かせる数字ではなかった。

その時に、自信を持って
「お金を貸してくれ」と言った態度が、
まず、ものすごくかっこよかったんですよ。
「悪いねえ」とかいう言いかたではなくて・・・。
それだけキッパリ頼まれたら、
こっちも勢いで「いいよ」って言いますもの。

「家賃が払えないから、
 返すのはいつのつもりだけど、
 それよりも後になるかもしれない」
とか、もう理路整然と言うわけ。

オレもなんでそこで
男らしいなぁと思ったのかわかんないけど・・・
「自立してる感じ」があったんですよ。
「借りる」っていうことについても、
自立して確信を持った人が
「貸して」と言った時には、爽快感さえあった。


返そうが返すまいが、
彼はもうキッパリしてるの。
「お金渡すの、いつがいいの?」
とぼくが訊けば、
「なるべく早いほうがいい」
とふつうに言う。卑屈なところがない。

翌日会ってお金を渡した時、本気で
「このお金、返ってこなくてもいいな」
と思いました。
柳瀬 あぁ。
糸井 その後にも、
勝手に向こうのタイミングで、
「このあいだのお金だけど、
 返せるようになったんで返すよ」
って言うのも、何にも邪念がないんですよ。

「あ、この男は・・・」という感じなんです。
それ以来、ぼくは橋本くんを
男らしさのひとつの基準にしていますね。
柳瀬 へえー。
糸井 マッチョな男の人は、
みんなそこから見えるんですよ。
ムキムキしてる人が「俺も男だ」と言う時は、
そこに至るための演技プランがある、とわかる。
「男らしさの演技」って、
絶対にどこかで先に考えてるんですよね。
「ここですっくと立つべきだ」みたいな。
田中 (笑)

糸井 男を売る商売の人を
ぼくはたくさん知ってるけど、
みんな、斬ったはったってことは、
やっぱり、ちょっと無理しないと
できないことなんですよ・・・。

そのさびしさや弱さが見えるから、
橋本くんの自立した感じが、
すごく男らしく見える。

・・・あ、そうだ。
今してた話とはぜんぜん関係ないけど、
妙に喧嘩が強かったりいっぱいしてる人とかの
知りあいがいたりするんだけど、
そういう人って全員卑怯なんですよ。
腕に覚えがあったり、力がある人ほど、
下駄で殴ったり、物を投げたりします。
弱い人ほど、素手で戦う・・・。
しり ああ。
糸井 それは、教養として覚えておこうと思った。
田中 一般に、フェアプレイって
男らしいとされてますよねえ・・・。
フェアプレイでは、
勝てないってことなんですか?
糸井 強い人は、フェアプレイをしない。
宮本武蔵って、きたない男ですよね。
坂口安吾の青春論は、
まるで、宮本武蔵の生き方じゃないですか。
どのくらいきたないことをして
どちらも、生き抜いてきたかっていうのを、
誇張しているわけですけど・・・。
柳瀬 (笑)
糸井 男って言うと、ヤニ臭さとか酒とか、
小道具としては、いっぱいあるだろうけど、
ぼくの「男」の中心軸には橋本くんがいます。
それに比べたら、自分も含めて、
たいしたことないなぁと思えるんです。

「お金、戻ってこなくてもいいや」
と思えたくらいの強い気持ちで、
「こいつと一緒に失敗しよう」とか、
そういうことを考えて仕事をやるようにすると、
リスクを取るというより「ナイス失敗」という
そういう捉えかたに、なりますよね。

そういう仕事ばっかりするようになると、
酒を飲んで思い出ばなしなんかしなくても、
プロジェクトを組んでいるそれぞれの中に、
必要な情報が蓄積するというか・・・。
いま、ぼくはそうなっています。

そうなると、
ずるい気持ちで依頼して来たやつは、バレますね。
ノーアイデアなんだけど、
仕事をこなすとギャランティだけは動くなぁ、
というところで来る仕事って、あるじゃないですか。

「ちょこちょこやっておくと、
 何か格好はついて、
 けっこう大きなお金が動く」

そういうタイプの仕事を持ってくる人の
浅ましさについては、よく見えるようになった。

「そいつは滅びるな」っていう予感があるんです。
死臭が漂っているから。
活気づいてイイ仕事をしてる人は、
そうじゃなくて、新しい価値を生むことへの
「責任を取る組みたて」を持っていますね。

それは、かっこいいんですよ。
柳瀬 うーん、なるほどなぁ。
糸井 これって、わかるまで実験を続けないと、
リアリティのない話なんですけど。

こうなってくると、
男っぽさの話かどうかはわからないけど、
責任を取る感じって、
リスクをおそれないってことですよねぇ。
リスクへの覚悟って、「賭博」だもんね。

確信を持って賭博をして、負けた時には、
「ああ、気持ちよかった!」って言える人。
これには、男女問わず説得できるんです。

それって、早い話が、
家庭を持つ時のプロポーズだって
ほんとは同じじゃないですか。

失敗の可能性を押し隠すわけにもいかないし、
失敗については語らないという手もあるし、
いろんな方向がありますよねえ。
その中で、「俺んとこへ来い!」って言うのは、
やっぱり、すごいリスクですよ。
柳瀬 いまだに取れませんもんね。そのリスクを。
田中 (笑)
糸井 まあ、めぐりあわせとかも、あるでしょうけど。

「責任を取る」という男らしさの時には、
最初のヤニ臭さの要素は
ちょっとは残っているのかな。
それとも、もっとすごく違うものなのかなぁ?

なんだかんだ話していても、
血の中に含まれた男性性みたいなものは、
まだ、自分の中に残っている気がするんです。
しりあがりさんがGメン75を見た時に
「オオッ!」って思ったように。
それは一体、なんなんでしょうねぇ・・・。
 
(つづく) 

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2003-03-03-MON


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