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── では、西田さんのキノコの解説を
どうぞ!
西田 樹木をはじめ、植物は、葉緑素を使って
太陽エネルギーを利用して、
二酸化炭素や水、そして地中の物質から、
自分のからだを自分でつくることができます。
動物は、そんなことができないので、
植物がつくり出したものを食べ、
その動物をまた肉食動物が食べ、
自分のからだをつくります。

しかし、そうして地上に生まれた生き物が
滅んだ後はどうなるのでしょう。
誰かがこれを分解して、もう一度、
地球へ返してやらなければ、いけませんよね。
そうでないと地上は、
落ち葉や枯木や動物の遺体で一杯になってしまい、
しかも地中の養分も尽きてしまいます。
こうした植物などがつくり出したものを
分解して、もう一度、無機物に戻してやる、
こんな作業をしているのが、
キノコをはじめとする菌類なんです。

樹木がつくり出すからだは、
セルロースやリグニンといった、
強力な物質でできていて、
水や風だけでは、完全には滅びない。
ミミズやいろんな小動物が噛み砕いても、
最後まで分解することは、できないんです。
それを分解しつくして、もう一度、
水や二酸化炭素等の無機物にまで戻せるのが、
キノコなんです。
特に、リグニンを分解できるのは、キノコだけ。
だからキノコは、分解者といわれています。
環境汚染で問題になっているダイオキシンだって
分解してしまうキノコもあるんですよ。
田島 へええええええ!
西田 それから、彼らは、もうひとつ、
自然界で大きな仕事をしています。
一部のキノコたちは、
分解者というよりも、
樹木が生きていくのを助けながら
自分も生きているんです。
樹木の根に巻き付いて、
樹木から栄養をもらいながら、
樹木が水分や養分を吸収するのを
助けてやっている、
つまり、樹木と共に生きている、
そんなキノコがあります。
みなさんがよく知っている、
マツタケやホンシメジ、
ハナイグチなどは、そんなキノコたちなんです。
専門用語で言えば、
外生菌根菌と呼ばれています。
田島さんが採ったキノコのうち、
ナラタケやムキタケは、分解菌で、
ショウゲンジは、菌根菌ですよ。
田島

さっきのショウゲンジは、
木といっしょに生きている
キノコなんですね。

西田 彼らがいてくれたお蔭で、
いまの地球の自然があるとも言えるんですよ。
太古の時代の地球は、
いまのような樹木がほとんどなくて、
太陽がぎらぎら照って、
すさまじい世界だったでしょう。
植物といっても、はじめは、
シダ類が繁栄して茂りまくったようですが、
しかし、そのころには、まだ、
今のようなキノコがいなかったから、
それらが滅びても分解されずに
山のようにその遺骸が残されてしまった。
それが海の底などにたまり、
石炭だの、石油になって残ったんですよ。
木本生のシダ等は、
キノコより前に地球に出現していましたから
そのせいか、キノコも、ちょっと、
分解するのを苦手にしているようですよ。
田島 そういえば、シダには、
キノコ、いないですもんね。
西田 それから、また、恐竜が出現してきて、
いまの樹木の祖先も
続々水中から陸へ進出しようとしたでしょうね。
しかし、灼熱地獄のような地面から
どうやって水分や養分を吸い上げるか、
どうやって自分のからだをつくるか、
大問題だったはずです。
それでいつしか、
そんな樹木達の強い味方として伴侶となったのが、
菌根菌だったんです。
それから、ずっと一緒に
生き続けて来たんでしょう。
今、私たちのまわりに大繁栄している樹木達は、
ほとんどがそんな菌根菌を持っています。
松の木が岩山のような厳しい環境のところで
生きていけるのも、
そんな味方をたくさん持っているからなんですよ。
このまわりにある、
ドングリをつけた樹木や樺の木なんかも
みんな持っていますよ。
だからここには、キノコが出るんです。
田島 なんだか、キノコが
かわいく思えてきました。

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