帰ってきた!
田島貴男の
2005年 オレのニュース。


ニュース その1
キノコ狩り、恐怖の迷宮。

最終回
沈む夕陽、沈む番長。



窓からいまにも地平に落ちそうな夕陽が射す、
晩秋の、某お食事処。
破裂しそうなキノコ入りの胃袋をかかえた
ひとつめのニュースをつくり終えた男がひとり。



番長、終わりましたね、
2005年のニュース、vol.1が。

「ああ、終わったね。
 今朝とは気持ちがぜんぜんちがうね。
 道があるうちは山とは言えない、
 歩きながら仲間と
 和気あいあいに話をしているようでは
 山ではないということがわかったな。

 キノコ狩りという、そのファンシーな響きが、
 また、キノコのあの、
 『わたしたちをどうぞナメてかかってください』
 という油断を与える傘の開きようが、
 オレたちを完全に惑わしたな。
 『キノコでーす』みたいなノリになる予定が、
 今日は名人たちに連れて行ってもらったので、
 えらいディープなものになりました。
 キノコ狩りは、予想していたよりもさらに本格的な、
 山を感じる、レジャー、というか遊びだったね。
 あれでもハイヒールを履いて歩ける場所だったと
 名人たちは言うので、
 モノホンはいかばかりかと、思いやられます」



それにしても、名人たちが現場にいるときの
目つき、あの足取りは‥‥。



「キノコ狩りを趣味にする人たちにとっての山は、
 レコード好きにとってのレコ屋のエサ箱だった、
 ということがわかったよ。
 いま、我々はキノコ鍋を食しましたが、
 これは音楽マニアに例えると
 家に帰ってレコードを聴いているところです。
 『やっぱりよかった』
 『いまいちじゃないの?』
 なあんて、やってるところ。
 そして、聴きすぎて
 おなかいっぱいになるところも似ています。
 おもしろかったし、おいしかった」

自然むき出しでしたね。

「いい体験だったよ。
 薮こぎってやつをはじめてしたな。
 完全に、なかったからね、道が」

文字どおり、薮の海を漕いで渡るかんじがしました。



「マジに緊迫感あったね。
 置いていかれることがすなわち死だったもんな。
 だいいち、最初に車で、はぐれちゃったからね。
 あれは西田さんが走ってきてくれて助かったけど」



あのまま道が行きどまらずに、ずっと先へ
つづいていたら、遭難していましたね。

「しかも、最後は崖とかでさ、
 車の切り返しのできない行き止まりだったら、
 ずーっと、バックで戻らなきゃいけなかったよ。
 ッハハハハハ、きっつー!
 そのうちに、日が暮れて、
 イナゴも食いつくしてただろうなあ。
 ギャッハハハハハ!」



さきほど聞いたところによると、
名人たちは、ゆうべ2時くらいまで
飲んでいたらしいです。

「それであれか。
 山んなかでギンギンか。
 すげえな」

寝なくても平気なんでしょうね、
山だったら。



「オレも楽器屋だと寝なくても平気。
 デパートとかは、歩くだけでも
 ハアハアいっちゃうのに」

ところで、番長。

「なに?」

どんどん重心が下がってきています。



番長が首だけ直角になってきましたので、
そろそろ話を終えまして、
東京へ帰ろうと思います。

番長がキノコについてしみじみ話しているあいだ、
森ではあんなにいっしょに居てくれなかった、
森と一体化していた男、荒谷さんは
ひとりだまって、テーブルのすみで、
話をニコニコ聞いてくださっていました。


山を下りればキャラが入れ替わるのです。

さあ、帰りましょう。

「どうもありがとうございました」

えーっと、西田さん、ありがとうございました。
中山さんは?
荒谷さんはまだ中でマッタリモード?
3人バラバラです。
最後に、写真撮らせていただいていいですか。
写真を、撮って、いいですか!

中山さん
「写真はまことを写すから嫌なんだよオレは」

はい、じゃあ、撮りますよ。



「入った?」

入りました。
ありがとうございます。

中山さん
「はいはい、握手ね、どうも、どうも。
 はいはい、ありがとう」



「お世話になりました」

荒谷さん
「がんばってください」

ありがとうございました。
ごちそうさまでした。

西田さん
「今度来るときは、ハイヒールでね」

「ハハハハ」

さようなら。

「さようなら」

さようなら、キノコ・ザ・トリオ。

さようならの記念撮影中、
荷物にくくりつけたVTRカメラの
スイッチが入りっぱなしになっていて、
音声だけが録れていました。
よろしければ、こちらをどうぞ。
(↑こちらをクリックしていただくと、動画をごらんいただけます。)



番長と我々一行は、
車に乗って東京へ向かいます。
番長は、中山さんに
高速のインターまでの道順を訊いていましたが

「訊いたけどもうぜんぜんアイフォゴット」

とアクセルを踏んだ瞬間におっしゃっていましたので、
やや迷い気味でした。しかし、なんだか
このままほんとうに迷ってしまってもいいや、
という気持ちを、全員が持っていました。
まあ、山で迷うことを考えたら、
街で迷うことなんて、どうってことありません。

「中山さんは、我々のために、
 あの山のキノコを採らずに
 とっておきの場所を残しておいてくれたんだな。
 いちばんの、自慢のところにさ、
 カーン!と、招待してくれたんだな。
 そんで、自分の採ったキノコを
 全部鍋にしちゃってさ。
 きっと忘れられない人たちに、
 なるような気がする。
 ちょっと、グルーヴ来たなあ、今日」

宙に舞うような
フワーッとしたグルーヴかと思ったら。

「きついクルーヴ来ましたね!
 最後、鍋に汁が残ってたじゃん?
 あれが、うまかったね。
 腹が破裂しそうだったけど食ったもん」

12杯も、おかわりを‥‥。

「ディープだったな。
 意表をつかれたな」

フェアリーな世界かと思ってたら。

「100パー、マッチョだったな」

あ、高速の入口が見えました。

「インターでラーメン食おうかな」

‥‥!



サービスエリアでのラーメンを
さすがにあきらめた番長は
疲労およびそこから来る睡魔に悩まされ
それを防ぐべくまた声がかれるまでしゃべり通して
3時間の運転ののち、
ようやく東京と呼ばれるエリアの
端っこに到達しました。



「なんじゃありゃ?
 なんだか、すっごい大都会に見えるな!!」
 
まだぜんぜん東京の中心部ではないですが、
今日の昼間の景色が頭にこびりついているせいで、
ちょっとビックリしますね。


「ウアハハハ!」


「ギョハハハハ!!」



「なんだよなんだよ!!」

夜景を見るたびに、大笑いの
おかしいカーとなって
東京に戻ってきました。
これで、2005年の
ひとつめのニュースは終わりです。
今年じゅうに、できればあとひとつは、
ニュースをつくりたいところですが、
いまは番長の頭がまったく動いていない状態ですので、
また改めて相談することにしましょう。
ニュース「その2」で
ふたたびみなさんにお会いできますように。




(2005年 オレのニュース その1 おしまい)

special thanks to 荒谷博、中山民男、西田誠之
         日本特用林産振興会


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2005-12-16-FRI

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