大貫妙子の絵本。
『金のまきば』が、できるまでの1年間。


第3回 働く女性たちに、読んでほしい。



── 絵本の『金のまきば』は、
「みんなのうた」の曲にくらべて
より深くなっているけれども、
読む人にハッキリ答えを提示するような
終り方ではないんですね。
大貫 そうですね。
── ちゃんと自分で考えてみようっていうような、
あえて未完成な切り取り方というか。
短編小説的な切り取り方だなと思いました。
大貫 そうですね。
このものがたりに結論はありません。
自分で書きながら、自分に問いかけているので。
── 難しい表現を
しているわけではないんですが、
大人がふかく考えたくなるような
感じがするんですね。
大貫 ‥‥これ、子どものための
絵本じゃないかもしれませんね(笑)。
どちらかといえば‥‥
親のスネをかじってるような人には、
向けてないかも。
── あ。
大貫 働いているすべての女性たちに
向けていると言ったらいいかな。
たとえば周りにいる30代の女性。
本の編集者もそうだし、
レコード会社の、
私の周りにいる人たちもそう。
“働いて自分で稼いでる人”。
もちろん全部が全部ってことではないです。
でも、なんか・・・見てると、
そのぐらいの年齢の人って、
疲れちゃっているのがわかるんです。
こういう、ものをつくっている世界に
飛び込んできた人たちと、
わたしは接する機会が多いわけだけれど、
レコード会社でも出版社でも、
本が好きだったり音楽が好きだったりして、
みんな入ってくるはずなのね。
ところがやっぱり30をこえるくらいになると、
なんだか、楽しそうじゃないんですよね、なんか、
その仕事が。
それもわかるんです? やりたくないことも
どんどんやんなきゃならないし。
── やりたくないことのほうが多いかもしれません。
大貫 そうでしょうねえ。よくわかるんです、
見ていると。
ああ、この人はレコード会社にいるのに、
もう音楽が好きじゃないんだな、って。
残念だな、って。
そういう状況ってよくないんですよ。
しかし、仕事となれば、
苦手なジャンルのものも
やらなくてはならないことの
積み重ねですからね。
どうして、好きで楽しいことばかりが
仕事にならないんだろうと、
いつも思うんです。
社会なんてもともと
人のつくったシステムですから
そんなの、どうにでも
変えられると思うんですけど。
上から「これやっとけ!」って
たのまれることばっかじゃ
そのうち、やになりますよね。
参加することで、
ものを作る喜びがうまれるのだから。
そんな時、何でこの仕事に
就きたかったのかっていうことを、
もう1回、
自分に訊いてみてほしいな、って。
── 自分に。
大貫 そう。
それは、音楽家もそうなんです。
音楽が好きで始めたのに、
私たち音楽家、ものをつくる側も、
音楽が嫌いになっちゃうって、
あると思います。
── そうなんですか?!
大貫 そうじゃなかったら、
もすこし音楽をとりまく環境、
楽しいはずだもん。
わたし、この30年、
音楽をつくり続けることを
嫌いにならずにいるには、
どうしたらいいか? っていうことだけを、
ずっと考えながらやってきたんです。
「ほんとはもう、やりたくないんだけど、
 もうここまで来たからやる」というのでは
やっている必要ないですから。
なにより自分が夢中になれて、
ほんとに一作一作楽しんで、つくったものを
お届けしたいと思っていますが。
そのためには、
それこそ海外にひとりで探しに行くとか。
自分の環境を変える努力というか‥‥。
体力のいることですけど。
川の水にように流れ続けていたいんです。
自分が淀みにたまらないようにいたい。
わたしも、いちリスナーですから。
好きじゃない音楽を聴くのは苦痛なんです。
あるいは、聴かされる状況。
だから好きな音楽をみつけると
そればっかり、ず〜〜っと、
1ヶ月くらいは聴いてます。
ああ、いいわあ〜〜これっ、
て言いながらすごくシアワセで。
自分をシアワセにする方法って、
なにかあるはずですから。
ずーっと楽しみ続ける、愛し続ける。
それがむずかしくても、
なんかこの行き詰まったような
息苦しい、ほんとは嫌なのに
顔は笑ってる‥‥みたいのじゃない
世の中になるといいのにな、と
思ってるんです。
── ええ。
大貫 『金のまきば』もね、読んでくれた人に、
働いて疲れちゃってる女性に、
「金のまきば」は自分の中にあるよ、
と言いたいの。
みんな持ってるんだから。
心に穴があいてるかも‥‥と思った時。
でもね、覗くとたいへんかも。
今の仕事も、やめたくなっちゃうかも
しれないしね。
いよいよ、の時に
本気で覗いてみてください。
── 何もかもやめたくなるかもしれません(笑)。
大貫 うん。
だけど、この本を編集してくださった女性も、
日々、煮詰まるようなことは多いけれど、
この仕事はすごく楽しかったって
言ってくれました。
久しぶりに自分もちゃんと
参加できたって。
── そうして一緒につくるほうが
面白いに決まってるんですよね。
じぶんたちの話題で申し訳ないですが
『Say Hello!』もそんな仕事でした。
大貫 そうだよね。
参加しなきゃ!
一緒につくることは楽しい!
── 煮詰まったぼくらに糸井重里がよく言うのが
「たのしめ」という言葉です。
「がんばれ!」ではなく
「たのしめ!」なんですよ。
大貫 うん。そうそう。そうなの。
もうそのとおりなの。そのとおり。
── だから人に言うときも、「がんばれ!」
って言わずに、「この仕事、たのしんでる?」
って言う側になりたいなって思います。
大貫 そう、私もね、
がんばれとはあまり言わないようにしてる。
まあ、無理しなくていいけどね。
── うん、無理はよくないですけどね(笑)。
大貫 自分の中に新しいテーマを決めてはじめても
その輪郭がかたちになるまで
へいきで3年くらいはかかりますね。
そこから学ぶことはいくらでもあって。
そこには失敗もあるけれど、それ以上に
学ぶことがいっぱいあります。
それが、おもしろくて楽しい。
見てる景色が、ずーっとかわんないなあ
と感じたら、
ちょっとコースを変えてみるとか、
工夫をしていくことが大事ですよね。

ああ、なんだか大事なことを
聞かせてもらいました。
次回は最終回です!


(C)ROBOT / Osamu Sakai
☆NHK「みんなのうた」についてはこちらも参照くださいね。
●「みんなのうた」オフィシャルサイト
●NHKオンライン
●「みんなのうた関連商品情報ページ」

2004-12-27-MON

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