みごと、50個の恩返しをはたした みうらじゅんさんは、 ここで、糸井重里とともに 「恩返し」ならびにみうらさんの47年を 振り返ることにしました。 すでに25年以上のつきあいのあるふたりを、 しみじみとした空気がただよいます。
 
  この50個、よくここまで
やり遂げたもんだよなぁ。
 
 
  「恩返し」50個をザッと並べて見てみると、
言葉の響きというのは大切だな、
と、つくづく思います。
言葉の響きについてどうこう言ったりするのは、
僕というより、そもそも糸井さんが好きなんですよ。
僕は糸井さんから、こういうことを
受け継いだんだと思います。

つまり、これらの「恩返し」も、
思い出だけだったら残らなかった。
でも、それぞれのもつ響きが
こんなふうに、何かを残させたんですよ、たぶん。
 
 
  うん。言語ってすごいよね。
「清張」とか。
 
 
  赤川次郎さんじゃ、ダメだったんです。
「清く張る、清張!」
と、妙なダミ声が、心のなかに、
聞こえてくるんですよ。
そうなると、ガチッとハマるんです。
 
 
  詩人のやっていることって
みんな、そんなようなことだからね。
言葉にして出したとたんに
ちがうものが見えてくるんです。

みうらは、壮大な詩をつくっているとも言えるし、
民俗学者として歴史を歩んできたとも言える。
でも、自分ではそんなふうになるつもりはなかったよね?
 
 
  まったくなかったですよ。
おそらく、とんまつり以降でしょうか。
飲み屋で話をしていて
若い人たちが、なんだか「引いて」きたのも、
とんまつりからです。
「いい、もうその話はいい」
「かんべんしてください」
と言われはじめました。
だから僕は、民俗学に見えないやり方を
しようと思ったんです。
おもしろいところだけ見えたら
もしかしたらみんな、引かずに
話を聞くんじゃないかな、と思って。
民俗学の分野は、もう、
荒俣宏さんにおまかせ、ということにしました。
 
 
  「とんまつり」などの言葉も、
よくできていますよ。
そう呼んでしまうと、もう民俗学に見えないから。
 
 
  そうなんです。  
 
  みうらがいま、腕にしている
そのロレックスは、
金のチャカチャカしたものをつけたいかもしれない、
と思う気持ちが
自分のなかにあったんですよね?
俺は一時、デュポンのライターを
持っていたことがあって、
たぶん、ロレックスをつけているみうらと
同じ気持ちだったと思う。

つまり、
「ある一部の人がほんとうに欲しがっている」
というものは、もしかしたら自分にとっても
何かがあるものなのかもしれない、という気持ちがある。
とんまつりにしても、同じこと。
 
 
  そのとおりです。
地方のお祭りだって、
心のどこかでちょっとは行きたいと思っているんです。
すっごい遠いから、不便だけど。
でもちょっとはある。
 
 
  たとえばショーン・コネリーの胸毛だって、
自分にないものだけど、
「あの胸毛が、もしかしたら
 ある日があってもいいかもな」
「アリもアリかな?」
と思うかもしれないよね。
 
   
  「アリもアリかな?」が出ますよね!
どうとも思っていなかったらきっと、
胸毛なんて気にもならないですからね。
ちょっと見ちゃう、ということは、
自分にも「アリもアリ」という想像をしているんです。
 
 
  そうなんです。
その成分が、みうらはとても強い人なんだと思う。
 
 
  俺にもアリなのかな、と思う心がね。  
 
  野球場に行って、ものすごいファインプレーを見て
「俺にはできないな」
と思うでしょう?
あるいは、すごいバンドが演奏しているのを見て
「俺にはできない」
と、みうらは思うタイプでしょう?

そんなことは思っちゃいけないらしいんだよ。
思うこと自体がおかしいんだって。
 
 
  僕は、完全に、思いますね。
ローリング・ストーンズのコンサートも
見るのが嫌だったんですよ、落ち込むから。
「ああ、俺はあそこまで行けなかったなぁ」
と思うから。
 
 
  嫉妬タイプだからね。  
 
  嫉妬タイプだから(笑)。
コンサートが終わったあとに
飲み屋でみんなが
「ミックがさあ」
と言ってるのに僕だけ
「くやしかったなぁ!」
と言ってる。
話の次元がぜんぜん違うわけですよ。
 
 
  でも、誰だってひとかけらくらいは
心の中にそういうものを持っているはずなんです。
気づかない砂金くらいのものだけど、
「いいなぁ」と思っているにちがいないんですよ。
 
 
  言わないだけでね。
そうじゃなかったらつまんないですよ。
 
 
  ときには、たいしたことのなかったやつが
たいしたようになっていくのを見たりするでしょう。
苦労してきたんだろうなぁ、と思うと
「俺には無理だな」
「でも、あれだけやってきたんだから、偉いな」
とも思ったりする。
 
   
  あります、あります。  
 
  みうらが、そう思うタイプだったことが
まちがいのはじまりなんだよ。
 
 
  たぶん、もともとそういうタイプだった僕が
糸井さんと会ったことによって、
糸井さんの理論がくっついちゃったんですよ。
それまではなんとなくしか考えていなかった、
単に嫉妬深いと言われていた男が、
こんなことになっていったんです。
 
 
  だって、みうらの概念はスーパースターだもんな。
何でもいいからスーパースターになりたい(笑)。
 
 
  先週、選挙がありましたけど、
「じゃあ、お前のマニフェストは?」
と訊かれたら
何も言えない自分も嫌でしたし。
 
   
  そこまで!  
 
いきなり核心をつく話をするふたり。
あとがきばなしは、明日につづきます。





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2005-04-25 その1 みうらさん、その服‥‥
2005-04-26 その2 糸井さんに、入口がちがうぞ、と言われ。
2005-04-27 その3 DTは、まあすなわち、
人間スポンジといわれている状態です。
2005-04-28 その4 おかん、それは、よせ。
2005-05-02 その5 スタンプ好きは、もともと朱印帳から。
2005-05-06 その6 情報不足の功罪。
2005-05-09 その7 どんぶりな、ごり押し。
2005-05-10 その8 世の中はB&T(ボケとツッコミ)で、できている。
2005-05-11 その9 土着が、いやおうなしに混じってる。
2005-05-12 その10 奈良や平安はもういい。昭和を大切に。
2005-05-13 その11 学校でヒゲオヤジの偉業を教えてください。
2005-05-16 その12 個性はカテゴリーで浮き彫りに。
2005-05-17 その13 糸井さんと「いやげ物」は同じ。
2005-05-18 その14 いてもいいよ、と言ってくれる時代。
2005-05-19 その15 もう若くないことに気づくまで。
2005-05-20 その16 プレイバック京都。
2005-05-23 その17 糸井重里という人は。
2005-05-24 お知らせ 愛知万博におじゃまします。
2005-05-26 恩返し1 いちばん最初に恩返し。
年末恒例、「大脱走」。
2005-05-27 恩返し2 もう一度ドラマはみんな
「ウルトラQ」に戻るべきだ。
2005-05-30 恩返し3 土門拳と饗庭葦穂の、ふたりの鬼才。
仏像に恩返しです。
2005-05-31 恩返し4 爪につまった泥を
落としてくれた、切手。
2005-06-01 恩返し5 この人だけはダメと親に言われた
奥村チヨさんに恩返し。
2005-06-02 恩返し6 みうらさんのベースは
吉本新喜劇にあり。
2005-06-03 恩返し7 「巨人の星」のおかげで
目に焼きつけることができたもの。

2005-06-06 恩返し8 小川ローザは半端じゃなかった。
2005-06-07 恩返し9 笑福亭仁鶴さんは
ビートルズみたいだったんだよ。
2005-06-08 恩返し10 大伴昌司さんは
とんでもないことをしていました。
2005-06-09 恩返し11 真夏の夜のテレビで出会ったハマーフィルム。
2005-06-10 恩返し12 僕の長髪は、何を隠そう、
吉田拓郎さんの真似なんです。
2005-06-13 恩返し13 カセットテープが
僕のファーストアルバムです。
2005-06-14 恩返し14 僕はイラストレーターですが、
横尾忠則さんになりたかったんです。
2005-06-15 恩返し15 何でも無理矢理かっこよくする
ジョン・レノン。
2005-06-16 恩返し16 男桜満開だった、
チャールズ・ブロンソン。
2005-06-17 恩返し17 浅間山荘事件のおかげで
僕はいま、鉄球騒ぎを起こしています。
2005-06-20 恩返し18 にせもののマカロニ・ウエスタンが
いろんなもののルーツになった。
2005-06-21 恩返し19 レインボーマンを見直すと、
きっと見えてくるよ、何かが。
2005-06-22 恩返し20 好きになるまでやめるもんか。
そしてボブ・ディランは神様になった。
2005-06-23 恩返し21 いまなら言える。縛りが似合う女
谷ナオミが大好き大好きでした。
2005-06-28 恩返し21 漫画家デビューに導いてくれた
ウシに恩返し。
2005-06-30 恩返し23 外国人を除いて、いまでも
いちばん怖い、糸井重里さん。
2005-07-05 恩返し24 「ガロにしか載らない」そんなふうに
人びとに言わしめた雑誌。
2005-07-07 恩返し25 ハニワは横に転がって動く。
もとはそれだけで描いた漫画でした。
2005-07-12 恩返し26 大人がふたり、買うにも捨てるにも、
勇気をふりしぼったペットふとん。
2005-07-14 恩返し27 ビートたけしさんのような人がいると
僕は落ち込むんです。
2005-07-19 恩返し28 バッテリーの熱で卵が焼ける。
それほどファミコンにハマりました。
2005-07-21 恩返し29 ゲーム界を背負ってひた走った
働き者のマリオに恩返し。
2005-07-26 恩返し30 宮本茂さんに賞をあげない
ノーベル賞は、意味がないです。
2005-07-28 恩返し31 バカレコードを買いあさった僕は
確実に不審人物でした。
2005-08-02 恩返し32 どの時代のどの街にも似つかわしい、
桐箱に入った国宝、桂米朝師匠。
2005-08-04 恩返し33 わしは見とるぞ、見とるぞ!
ほら、松本清張さんの声が聞こえます。
2005-08-09 恩返し34 カエルには、
恩返しされた 経験があるんです。
2005-08-11 恩返し35 ジャンルを得ることで、
らくがおは、 たくさんのヒーローを生みました。
2005-08-16 恩返し36 無理がモロ見えのカスハガは
僕の民俗学の入口になりました。
2005-08-18 恩返し37 いやげ物は、僕が買いましたので、
みなさん、安心してください。
2005-08-23 恩返し38 「シベ超」のような映画を
おもしろい、というんです。
2005-08-25 恩返し39 バカを際限なく大きくしてくれる、
スライド機に恩返しです。
2005-08-30 恩返し40 突拍子もないとんまつりが、
日本各地で執り行なわれています。
2005-09-01 恩返し41 まだやってる!
大木こだま・ひびきのブルーズ漫才。
2005-09-06 恩返し42 君は、その"しあわせ"で、
崖っぷちに立てるかい?
2005-09-08 恩返し43 ニャンまげは
キャラクター界の革命児です。
2005-09-13 恩返し44 ブームよ、来い来い。
みんなが知ってて知らないテングー。
2005-09-15 恩返し45 海女で、
みうらさんの 「好き」メソッドが判明。
2005-09-16 恩返し46 日本の文化と土着の信仰が生んだ、
ゆるキャラは芸術です。
2005-09-19 恩返し47 これぞ正真正銘のライフワーク、
グラビアンに恩返し。
2005-09-20 恩返し48 伝来ミスというすばらしい文化を
いまなお伝える、飛び出し坊や。
2005-09-21 恩返し49 生前偉かった人も、耐え忍ぶ。
熾烈な毎日を送る銅像。
2005-09-22 恩返し50 とんまな息子をいつも見守る
最後におかんに恩返し

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2005-09-23 FRI
(c) Hobo Nikkan Itoi Shinbun 2005